第35話 悲劇と残りの勇者様


 わたしがベッドから立ち上がろうとすると王子に押し倒された。


「……え?」

「お姫さま、ごめんね。ボクはこのままキミを帰すつもりはないよ」


 そう言って王子はわたしの両手首を掴んだ。

 何故かいつもより力が出ない。それどころか身体強化すらできない。王子が何かしたのだろうか?


「いや!! おうちにかえして!」

「大丈夫さ。キミがボクの言う通りにしてくれればすぐに帰してやるさ。……1ヶ月ぐらい後にね」


 王子は完全に既成事実を作るつもりなのだろう。けど、わたしはまだ7歳。初潮なんてまだない……はず。


「普通ならお子様を妊娠なんてできないから安心してるようだが、ボクには必ず相手を妊娠させる魔法が使える。そんな安心できる余裕なんてない。この時のためにボクはキミのことを調べ上げたんだからね?」


 必死に暴れて抵抗しようとするけど、思うように力が入らない。

 それどころかいつもより体力が尽きるのが早くて、息が荒くなってくる。


「魔法学園ルーズベルト領の生徒会長で好きな食べ物はお団子、嫌いな食べ物はピーマン。親しい友人が二人とご主人様が1人。キミは奴隷のようにこきつかわれ、からかわれているようだ」


 確かに間違ってはないけど、クルミさんをご主人様と呼ぶのはやめてください。胃に悪いです。


「授業はほぼサボり、けれど成績は上位。これはエリシュオン家のメイドの指導。

 そして、キミは魔法が━━━━使えない」


 非常にイラ立ちを覚えるような言い方でバカにしてくるこのクソ王子。やはり父親と同類のようだ。

 わたしは再び暴れて抵抗しようとするけど全然力が入らず、手を握ることもままならない。


「おっと無駄だよマイハニー。あのお香はエルフの力を封じるお香だからね。キミはただの人間の幼い女の子と同じ力しか出ない。そして魔法も使えないし、魔力強化は本人の力を何倍かにするものだが、元が低ければ意味がない」


 わたしの両手を抑えたまま王子はわたしの制服に手を掛けた。そしてボタンを1つずつ外す。わたしは抵抗することもできずにブレザーとワイシャツを脱がされ、少女らしくとても可愛らしい肌着と、か細い白い腕がお見栄になる。


「ほう、まだ子どもらしさのかたまりのような体型だが、これはこれでいい……」


 【悲報】 カルロス王子はロリコンだった


 本日午後5時頃、ゴールランド王国王都王城にてカルロス・ゴールランド王子が『まだ子どもらしさの塊のような体型だが、これはこれでいい』などと供述したことが明らかになり、これに対してカルロス王子は『ボクの性欲はトップギアだぜ!』等と供述し、容疑を認めたそうです。


 何かイヤなニュースが頭の中をよぎる。すると王子はわたしに手を出してきた。


「ようじょようじょようじょようじょようじょようじょようじょようじょようじょようじょようじょようじょようじょようじょようじょようじょようじょようじょようじょようじょようじょようじょようじょようじょようじょようじょようじょようじょようじょようじょようじょようじょようじょようじょようじょようじょようじょようじょようじょようじょ

 よ~うじょ~♪ さ~い~こ~う~♪」


 かつてないほどにまで鳥肌がたった瞬間だった。

 わたしは涙目で必死に抵抗して、声を上げようとするも、声すら出なかった。


「ではそろそろフィニッシュに参るとしようねぇ~? ボクの愛しのフィアンセ?」

「ーーーーっ!!」

「え? 何言ってるか聞こえないなー? ほらもっと叫んでみてよ」


 わたしはもう涙を流しながら誰かを呼ぼうと声を上げようとするも声が全く出ない。


「ーーーーっ! ーーーーっ!!」


 その時、わたしは気づいてしまった。

 そもそも声を上げた所で誰が助けてくれるのだろうか? 

 この城は全員が敵。ナタリーたちは屋敷で待ってるし、ここに来るまでは1週間を要する。1番可能性があるお母様は疲れて宿で眠っている。

 お母様は普段寝てないことが影響からか、一度寝ると1日丸々寝ることが多いので、おそらく今も惰眠を貪っているだろう。

 わたし、超ピンチ……というかオワタ。


「どうやらボクの勝ちのようだ。ずいぶんチョロいやつだったな。じゃあ楽しむとするか。

 ジ・エンドォーーーーーー!!」


 王子の声が部屋中に響いたその時、部屋の扉が勢いよく開いた。

 わたしと王子が扉の方を見るとそこには1人の男が立っていた。


「おいお前! なにしてる!?」

「これはこれは、何って婚約者との楽しい時間を過ごしてるだけですよ」

「黙れこの野郎」


 清々しいほどの見事な蹴り。クソ王子はそのまま壁にキスした後、床にキスをした。


「大丈夫か!?」

「……っ! ーーっ!」

「もしかして喋れないのか? それに立てないのか?」


 わたしの様子を見ただけで全てを理解してくれた少年。彼こそが石塚くんを支えている副リーダー的存在。その名も石原くん。彼についた二つ名は『石塚の相方』。実にしょうもない二つ名で彼は表面上は嫌がっているが、実は結構気に入ってる。


 何故なら、彼はホモだから━━━━━━


 これはクラスの共通認識であり、試しにイタズラで男女が協力して石原くんをラッキースケベラッシュに嵌めてみたのだが、女子が全力を尽くしても石原の石原が大きくなることはなかった。

 ところが石塚くんでやってみると石原の石原が石原ってしまった。

 これにより、石原くんがホモであることが証明されてしまったのだ。


「コレか」


 石原くんがお香を壊すが、すでにお香の成分は部屋中を漂っているので意味がない。

 石原くんは乱雑ではあるが、わたしに服を着させて帽子を被せると、わたしを抱っこして王城の外へと逃げ出した。


 わたしを抱っこしたまま王城から逃げ出した石原くんは冒険者ギルドに入り、わたしを椅子に座らせた。


「あの、先ほどはありがとうございました」

「いや、たまたま忘れ物して王城に戻ってきてよかった。というか喋れたのか……」

「あっ、それは……」


 わたしは昨夜のことから王城であったことや『キミのハートにジャストミート』など全てを話した。


「なるほど、カルロス王子が……それはわかったが、確かフェノンちゃんだっけ? ルーズベルト領に俺と同じ勇者がいるの知らないか?」

「知ってますよ」

「本当か!?」


 石原くんは大きな声で顔を近づけて聞いてきた。おそらく王家からは行方不明になってると聞かされているのだろう。


「アイツらはいまどこに!?」

「その前にわたしも聞きたいことがあります。街にいる勇者様たちは聞いてた人数の半分でした。それで、他の仲間はどこに行ってるんですか?」


 情報だけ言うと先走って逃げられてしまう可能性があるので、先に聞く。


「他のヤツらは今日と明日は外に遊び歩くように言われてな。みんな王都中をウロウロしてるさ」


 それなら話が早いかな? さっきの件もあるからもうこのまま王都出た方がいいだろうし。


「ここだとアレなので場所を変えましょうか」


 わたしは石原くんを連れてお母様の部屋に入り、そこで屋敷にクラスメイトたちを泊まらせていることを含め、わたしやお母様のことまで全て話した。


「つまり王家が嘘をついてるってことか……」

「信じるんですか? こんな誰だかわからないような人の言葉を?」

「さすがにこの状況で嘘ついてるようには考えられないし、さっきのアレを見ればどちらが正しいのかなんてすぐにわかるしな」


 なんとも心強いことに石原くんはすぐに信じてくれた。

 わたしはお母様を叩き起こして馬車を用意するように言って、石原くんと他のクラスメイトたちが泊まっているという宿に向かった。


「というわけなんだ。そういうわけだからみんなで王都を出よう」

「まあ、石塚くんたちと再開できるならいいけど……」


 不安げな顔をしながらわたしに近寄ってくる。何かと思ってわたしが首を傾げてると頭に手を置かれ、撫でられた。


「フェノンちゃんが苦しんでる時に私たちは外でパフェなんて食べてるなんて……本当に何もしてあげられなくてごめんね……」


 何故か同情された。けど、撫でられるほど先ほどのことを思い出してしまい涙が溢れてくる。


「うっ、ううっ……」

「ごめんね。辛かったよね……いいんだよ。まだ小さいんだからお姉さんたちにたくさん甘えても……」


 女子生徒に抱きしめられて頭を優しく撫でられる。

 するとわたしは堪えきれずに大声を出して泣いた。

 他のクラスメイトたちは「なんで俺は力があるのにこんな小さな女の子1人救えないんだ……!」みたいな顔をして泣いてるわたしを見ていた。


 その後、石原くんの案内のもとクラスメイトたちはお母様の宿に向かう。

 わたしは女子生徒に抱っこされて、泣きぐしゃった顔を他の人に見られないよう、胸に埋めているので案内はできない。


「フェノン!? 大丈夫!?」

「うん……」


 女子生徒はわたしをお母様に預けた。そして全員でお母様が用意した馬車に乗り込み、馬車を走らせる。

 1番問題があるのは王都に出入りする際にある検問だが、これは透明化と魔力の壁をお母様が上手く扱って城壁の上を通って検問をくぐり抜け、屋敷へと向かったのだった。


 とりあえず勇者は全員ゲットしたけど、この先大丈夫かな……?

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