第25話 勇者様降臨


 クルミさんに脅されてから3日後、予測通り勇者様元クラスメイトたちがこの街にやってきた。学園に来るのは少し観光してからだそうで、午後1時に来ると連絡が入った。

 その間にわたしは昼食を済ませて校外学習で行く国の宿泊場所や探索ルートを決めたりしていた。


「やっぱり王都の中だと高いなぁ……近くの街でいいかな?」


 よし、この村の旅館にしよう。それで王都に入るのは生徒の自由で、王都の通行料は各自で支払ってもらおう。

 あとはこの辺の山から鹿とか狩ってお昼ご飯にしよう。そうなると狩だから冒険者も何人か連れて行かないと……まあ、この学園の人たちに無償で頼もう。宿つき夜食つきなら大丈夫でしょ。


 次々と忘れないうちにメモをしていく。そろそろ約束の時刻なので、マントを羽織って身だしなみを整える。

 すると先生がわたしを呼びに来たので、わたしは校門前に向かった。


 校門に着くとクラスメイトが19人と副担任の先生が居た。クルミさんの話だとわたしとリアを除いたクラスメイト全員と副担任が転移してるらしい。残りの人たちはお留守番だと考えられる。

 ちなみに担任の先生は最初から居なかったというか転移時に出張で居なかったので地球に置いてきぼりである。


「勇者様……ですか? ようこそ魔法学園ルーズベルト領へ。生徒会長のフェノンフェリナスです。フェノンとお呼びください」

「……あ、ああ、よろしく」


 まさかこんな幼女が生徒会長だとは思わなかったのか、その場にいたクラスメイト全員が絶句しやがった。誰か一人ぐらい「ハーフエルフなんだから仕方ないよな?」とか言って欲しかった。

 とりあえずわたしはクラスメイト代表の石塚くんと握手した。石塚くんはクラスメイトの信頼も強く、リーダーシップの塊だと思う。


 おそらく彼が居たからクラスメイトたちは上手くやってのけたのだろう。もし彼が居なければクルミさんが居なくなった時点で破綻してただろう。

 副担任は生徒愛が凄いがコミュ障ぎみなので、みんなの後ろにいる。


「これと言ってすることもないのですが、何かご用件はありますか?」

「とりあえず全員が入れる部屋をいいか? 情報を纏めたい」


 どうやらそれなりに情報を集めているようだ。説明とかをするならやはり教室がいいだろう。


「わかりました。ですが、今は授業中なので騒がないようお願いしますね」

「ああ、わかった。お前らも喋るんじゃないぞー!」


 みんな彼の忠告に頷いた。この完全に一致団結してる団体は気持ち悪いと思う。少しぐらい輪を乱そうとする人がいた方が面白いのに……

 とりあえずわたしは空いている予備教室に彼らを案内した。


「校舎もだが、古い教室だな」


 教室に入るなり、そんなことを呟いた石塚くん。すぐに近くにいた女子数人に叩かれていた。


「ごめんなさい! このバカがこんなこと言って!」

「大丈夫ですよ。こちらの修復が行き渡ってないのが悪いのですから。一応清掃はしてありますが、席に座る場合は椅子の破損に気をつけてください。あっ、こんな見た目ですが、床は抜けたりしないので大丈夫ですよ」


 クラスメイトたち全員が無事に座ることを確認した。クラスメイトたちは椅子の破損を心配しながらゆっくりと席に座った。

 わたしは先生から目を離さないように言われてるので、1番後ろの席で監視中。


「情報を整理しよう。渡辺のサーチだとこの付近に謎の結界があってそこからわからなくなっている。王子が言うにはこの街の近くらしいが……」

「ねえ、フェノンちゃんは何か知らない?」

「ふえ?」


 必死に話してたのに突如としてわたしに話題を振られて変な声を出してしまい、それが思いの他教室内に響いてしまってすごい恥ずかしかった。


「特には知りません……ごめんなさい」

「……そっかぁ、残念」


 本当にごめんなさい。皆さんが探してるのはわたしの実家なんです……


「すいません、トイレいいか?」

「構いませんよ。案内しますね」


 わたしは手を上げた生徒と共に廊下に出てトイレに向かう。男子トイレは突き当たりを右。案内したところで教室に戻る。


「嘘?」

「うん」


 教室の扉に手をかけた時に中の会話が聴こえてきた。


「本当に嘘なのか?」

「間違いない。嘘探知魔法に引っ掛かった」


 中の会話座りながらを聴いてるわたし。

 まさかそんな魔法があるなんて……気をつけないと本当に終わる。とりあえずトイレから戻ってくる前に入らないと。

 わたしは教室の扉を開けて後ろの席に座った。


「……どうかしましたか?」

「あっ、いや、なんでもない」


 近くにいた人たちが石塚くんを睨んでいた。

 誤魔化し方が下手過ぎてここまでくると逆に笑える。


「宿泊はどうするんですか? 詳しいことを特に聞いてないので、街に泊まるんですか?」

「いや、寮を使わせて貰うことになってる。すまないが後で案内してくれないか?」

「構いませんよ」


 それからしばらくして時間が経ってわたしは寮に案内するために職員室へ寄って先生に男子を任せて副担任と女子たちを連れて寮に入った。


「男子寮に比べて女子寮綺麗だね」

「そうですね。ですが建設は同時なんですよ」

「そうなんだ……女子の方が使い方が綺麗なのかな?」


 時間が巻き戻っただけです。でも嘘はついてないので、嘘探知には引っ掛かりませんよ?

 わたしは女子生徒たちに使われてなくて、クルミさんの部屋から遠い部屋を選んで全員1階の空いている部屋にした。

 そして他の階には行かないように伝え、大浴場と食堂、生徒会室の場所と、図書館が有料であることを教えて3階に上がった。


「……そういうのは好まないのでやめてください」


 魔力波を特定の場所に充てるとドローンみたいな能力を持つ魔道具が落ちた。目に見えないようになっていたので、恐らく魔法をかけていたのだろう。

 魔道具は魔法具と違って強い魔力波を受けると壊れるようになっているので、その場で壊れた。

 そしてわたしはクルミさんの部屋に向かって、入った。


「お疲れのようだね」

「本当に疲れましたよ……嘘探知魔法については先に行ってくださいよ……」

「それはすまなかったな。一応現状を聞かせてくれないか?」


 わたしはクルミさんに大まかな内容を話すことになった。


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