scene1.6

 春休み前。そのころ、美星びせい分校ではとある事件が話題となっていた。それは『写真部が不祥事で廃部した』というものだ。

 と言っても、廃部したのは美星分校の写真部ではない。そもそも、美星分校に写真部が存在しない。不祥事で廃部したのは、美星分校の本校にあたる『屋影やかげ高校』の写真部。その写真部が不祥事を起こし廃部したのだ。

 そしてこのとき、勇太がピンと思いついたのが、

「写真部の一眼レフ、横流してもらえねぇかな」

 そう思い立ち、担任教師であった土佐先生にその旨を伝えてみたところ「そういうのは教頭先生に言ってみてください」と言われた。そして勇太が教頭先生に掛け合ってみたところ「そういうのは分校長に言ってみろ」と言われた。

 そして最終的に分校長室を訪れ、分校長にその旨を伝えてみれば、

「なるほど。話は分かりました」

 ということに相成ったのである。

「つまり、廃部した本校の写真部のカメラを横流しにしてくれ、ということですね」

 仏様のような顔が特徴的な宝島祐たからじま たすく分校長は、フカフカのチェアに腰掛けながらそう言った。

「はい。まあそうなんですけど。先生、もう少し言葉を選んでください」

「では、永久的に貸し出すと言いましょう。鏡川くんが写真を頑張っているのは知っています。私としても、君のような頑張る生徒を応援したい。ですが……」

 宝島分校長は窓際まで移動し、ブラインドを人差し指でカシャリと下した。

「タダ、というわけにはいきません」

「なるほど」

「というわけで鏡川くん。君が何かしらのコンテストで賞を受賞したら、そのカメラを君に横流しにすることを約束します」

「……はい? どういうことですか?」

 勇太が首を傾げてみれば、宝島分校長はブラインドの隙間から外を窺った。

「鏡川くんも知っていると思いますが、この分校は、君たちの学年が卒業するとともに廃校してしまいます。ああ、なんて悲しいのでしょうか」

「はあ」

「ですが私は、そんな分校が最後に一花咲かせてもよいと思っているのです」

「せ、先生……」

 勇太は思わずウルッと涙しそうになった。

「つまり、生徒達がなにかしらの活動で結果を残せば『廃校が決まった分校で生徒を叱咤激励し、華々しい結果を残させた人情派分校長』というブランドイメージが私に付きます」

「……」

「そうすれば、教育委員会の連中は私を校長職へと推薦しやすくなる。素晴らしい作戦だとは思いませんか?」

「これから僕は先生っていう職業の人を軽蔑します」

「なんとでもおっしゃい。とにかくコンテストで賞を取ってみせなさい。そうすれば、カメラは君のものです。そして私の株も上がるのです。ふふっ」

 そう言いつつ宝島分校長はデスクまで移動し、引き出しからチラシを取り出して見せた。

 勇太がそのチラシを受け取ってみれば、それは『写真部門』と『映像部門』からなるコンテストの案内チラシであることがわかった。

「ちょうど今日、そのチラシが学校に届きました。そのコンテストに応募してみなさい。さあ、頑張るのです。私のために!」

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