インディアン

「夢の話をまたあたしにするの」

「それにしても、今日はずいぶん遅かったのね」

食卓には料理が用意されている。

強烈に鼻を刺激する香り。

「何だいこれは」

「カレーよ」

「どうやって食べるの」

「ご飯にかけて食べるのよ」

「スプーンでご飯とカレーを混ぜて、すくって食べるの」

「そうか、ライスカレーか。聞いたことがある」

女は不思議そうな目で僕を見ている。

「ねえ、あなた」

「僕のことかい」

「他に誰がいるの」

「今日職場で何かあったの」

女は皿に盛ったご飯の上にトロリとした黄色い汁をかけて、

僕の前に置いた。

その隣には、スプーンを放り込んだ、

水の入ったグラスが置いてある。

「食べなきゃダメ」

「別にいいけど」

女はニヤリと僕を見る。

「実はある人に魚とポテトのフライをご馳走になって」

「へえ、そうなんだ」

「それでビールを飲んできたの」

「よくわかるね」

「わかるわよ」

女は皿とグラスを持ってテーブルの向こう側に。

皿のご飯とトロリとした黄色の汁をかき混ぜ始める。

すっかり混じってしまった後に、

真ん中に穴をあけて、生卵を落とした。

「インディアンだ」

僕は思わず叫ぶ。

「何で知ってるの」

「ローザが作ってくれた」

「だからそれは夢の中でしょう」

「違うよ」

女は生卵をスプーンで崩して、

黄色いごはんと混ぜてから、

スプーンですくって口に運ぶ。

「ねえ、ところで君は誰なの」

「そこなの」

「あたしを覚えてないの」

「覚えてないって、初対面だし」

「そうか、朝会ったけど」

「ふざけないでよ、ヒロ」

「ヒロって僕の名前」

女は狂ったようにインディアンを食べ、水を飲む。

「そうだよ、思い出した」

「それじゃ君は…」

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