楽しい料理

眩しくて目が覚める。

「あれ」

思わず小さく声が出る。

僕は選択したのだろうか。

覚えていない。

覚えていないということは、

選択していないということだろうか。

そんなはずはない。

いつもそうじゃないか。

目が覚めると、覚えちゃいないんだ。

起き上がって、カーテンを開けた。

外は曇天、そんなに眩しいはずはない。

そもそも、カーテンが閉まっていた。

曇天の空を見上げる。

雨は降りそうもない。

ゆっくりと部屋のドアを開けた。

食卓には何も用意されていない。

冷蔵庫を開けて、サケの切り身を一枚取り出し、

ガスレンジのグリルの中に入れる。

ガス点火。

小さめの鍋に水を入れて、

ガスレンジの台に乗せ、

ガス点火。

冷蔵庫から油揚げと塩ワカメを取り出し、

塩ワカメをよく水で洗い、細かく刻む。

油揚げはそのまま細かく刻む。

油抜きは面倒くさい。

グリルのサケの焼け具合を見た。

菜箸でサケの切り身をひっくり返す。

ネギはないのか。

冷蔵庫の野菜室を覗く。

刻んだ白ネギのパックを見つける。

「これは仕上げだな」

独り言をつぶやき、ガスレンジの隣に置く。

「そうか」

思わず声が出る。

「ごはんは土鍋で炊くようなのかな」

電子レンジの隣の、小さめの炊飯器を見た。

炊飯器のまわりに熱気を感じる。

炊けてるのかな。

炊飯器のふたを開けてみる。

「炊けてる、炊けてる」

しゃもじを水に浸して炊けたご飯をさっくり混ぜる。

鍋の水が沸いたので、

火を弱め、かつおだしと昆布だしを投入。

切っておいた、油揚げとワカメを入れ、

最後におたまの上で、味噌を溶かす。

グリルを覗いて、シャケを取り出した。

なんだ、一人でできるじゃないか。

食卓に並べた朝食を見ながらニヤついてみる。

「せっかく、ご飯炊いといてあげたのに、自分の分しか作らなかったの」

女の声がした。

振り向くと、スウェットを着た、若い女が立っている。

「まあ、いいわ」

「あなたこれから仕事でしょう」

「あたしはもう少し寝るから」

女は微笑みながら、部屋を出た。

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