13人目のサイコパス

椎葉伊作

prologue

 ・・・やあ、ここに人が来るとは、また珍しいもんだ。誰だい?あんた。

 ライター?新聞記者かい?・・ああ、雑誌の記者か。なに、ネットにも記事を書いてるフリーのライター?

 まあいい、あんたの身分は分かった。まったく、上の連中も懲りてないらしい。俺はこれ以上面倒ごとになるのは嫌だって口酸っぱく言ったつもりだが・・。

 あ、俺?俺はここの担当さ。だが医者じゃないぜ。格好を見りゃわかるだろう。ただの真面目な警備員さ。

 聞くまでもないが・・・あんた、ここの患者を取材しに来たんだろう?下調べはしなかったのか?ライターといやあ情報通だ。ここの噂はそれなりに伝わってるだろう。

 2人。そうだ、ここの患者と面会して死んだ奴の人数だ。はな。

 ・・ん?今、何か言ったか?俺は今何も言ってないぞ?

 とにかく、ここの患者を取材しようなんて真似はよせ。ろくなことになりゃしねえ。

 こんな言葉があるだろ。深淵を覗く時、深淵もまたお前を覗いているのだ、ってな。わざわざここに来て死んだ奴も、物理的に殺されたわけじゃねえ。ほとんどが患者にのめりこんでいく内に、自ら命を絶ったんだ。

 ・・・ふん、その様子だと、どうしても取材したいらしいな。

 眼を見りゃあ分かる。あんたは何にも分かっちゃいない。ギラギラしちゃいるが、そりゃ世間知らずだからだ。無知の勇気、ってやつか。要は大馬鹿だよ。

 俺に止める権利はねえ。勝手にしろ、その代わり、ルールは守ってもらう。それぞれの患者には面会時のルールがある。そもそもろくに口を利かない奴や、会話にならない奴もいるが、こっちが定めてるルールは厳守してもらうぞ。

 まず、どの患者も面会時間は30分だ。もちろんこちらの監視の下で行うし、こちらがこれ以上はダメだと判断したら即刻終了だ。

 取材時の録音も禁止。当然、写真も禁止だ。ここから持ち去れるものは一切ないと思え。

 それと、面会は一日に一度だけだ。ひとりひとり取材したいんなら、丁寧にやることだな。

 ここの決まりは他にも細かくあるが、大まかなルールはそれくらいだ。まともに取材できるかも分からんが、それでも取材するのか?

 ・・・・・俺が何を言おうと無駄らしいな。ほら、この書類にサインしたら、ついてこい。








 いいか。この病棟の扉の鍵を持ってるのは俺だけだ。この廊下の二重扉と、それぞれの病室へと向かう通路の扉。その向こうにも扉があって、そこが前室だ。そこに最後の扉。病室の扉がある。全ての扉は鍵が違うし、俺しか開けられない。それぞれの病室に面会用の設備があるから、そこで取材をしてもらうぞ。

 患者はそれぞれ部屋の中で自由に動ける奴もいれば、動かないように固定されてる奴もいる。姿を見せてもいい奴もいれば、音声のみでやりとりしてもらう奴もいる。

 俺はすぐ後ろに付き添うからな。面会時間のカウントと取材中止の判断は俺が下す。もちろん、あんたが妙な動きをしたら、実力行使させてもらう。無論、この病棟全域は監視カメラが見張ってる。あんたか俺に何かあれば、隔離装置が作動してここは監獄に早変わりだ。

 なんだ、その顔。当たり前だろう。無事に帰れるかどうかは保証できない。さっき書類にサインしただろうが。ここまで踏み込んだのなら覚悟を決めろ。

 さあ、誰から行く気だ?ここの患者は全部で13人。おっと、そうだ。一番奥の突き当たりの扉の奴はダメだからな。あそこにいる奴は最後にしておけ。

 ・・何か言いたそうだな。ともかくあそこにいる奴は最後だ。分かったな。もっとも、あんたがそれまでまともな精神でいられればの話だがな。

 ・・・そいつにするのか?分かった。こいつの場合は特に細かいルールはないし、入門編には丁度いいだろう。

 今更言っても無駄だと思うが、どんな結果になろうとも、あんたが自分で選んだんだからな。深淵を覗くことを。・・・後悔はするなよ。


 

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