真夜中の羊飼い

 夜が来た。


 月が夜空の真ん中あたりで輝く頃、ピーターは目を覚ました。


 外に出て、空を見る。


 今夜は満月だ。


 雲もない。


 ぐるりとあたりを見て回って、人気がないのを確認すると、ピーターは羊小屋に向かった。


 羊たちも、もちろん起きていた。


 メェ、メェ、とうるさくない程度に鳴いている。


 はやく出してくれとせがんでいるのだ。


 ピーターが柵のかんぬきを外すと、羊たちは足音を忍ばせて、こっそりと外に出た。


 月の光が、羊たちを照らす。


 ひとかたまりになって、ゆっくりと移動する羊たちは、まるで地上にできた雲のようだった。


 ピーターは後ろから、はぐれるやつがいないように、見張りをしながらついていく。


 それからしばらく歩き続けて、ピーターと羊たちは草原に到着した。


 はやる羊たちを一列に並ばせて、ピーターは号令をかけた。


 メェ、メェ、メェェ、メェ……


 先頭の羊から順番に、一匹ずつ鳴き声をあげていく。


 ピーターはその鳴き声に、一回一回うなずきながら、羊の数を数えていった。


 ……メェ、メェェ、メェ、メェ


 最後の羊が鳴き終わった。


 どうやらみんないるようだ。


 ピーターが合図をすると、羊たちはいっせいに散らばっていった。


 跳ね回って遊んだり、草を食べたり、歌をうたったり、おもいおもいに楽しんでいる。


 ピーターも、このときばかりは仕事をわすれる。


 群れから離れたって、怒ったりしない。


 泥の中を転げまわったって、止めたりしない。


 羊たちは、昼間は毛を刈られたり、あっちに行け、こっちに来いと命令されたりして、とても忙しい。


 だから、夜は羊たちの時間なのだ。


 なんだって自由にやらせた。


 自由に遊ぶ羊たちを眺めていると、なんだかピーターも幸せな気分になった。


 だけど、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。


 空を見上げると、もう月がだいぶ傾いていた。ピーターは羊たちを集合させた。


 一列に並ばせて、号令をかける。


 メェ、メェ、メェェ、メェ……


 どうやらみんないるようだ。


 ピーターは羊たちをひとかたまりに集めると、今度は早足で帰っていった。


 日が昇る前には、羊たちを小屋に帰さなければいけない。


 小屋についた頃には、もう東の空が白みはじめていた。


 ピーターは急いで羊たちを小屋に戻して、かんぬきをかけた。


 遊ぶだけ遊んで、最後に早足で帰ってきた羊たちは疲れ果てていて、小屋に入るとすぐに眠ってしまった。


 ピーターも大きなあくびを一つすると、自分の部屋に戻っていった。






 朝が来た。


 羊飼いのポーターが、朝の運動をさせようと羊小屋にやってきた。


 だけど、羊たちはまだみんな眠っていた。


 ────なんだって、うちの羊たちは寝てばかりいるんだろうなぁ。


 ポーターは呆れて、犬小屋の中のピーターに話しかけた。


 返事はない。


 ピーターも、まだ夢の中にいたのだ。

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