モグラの話

 ある一匹の、モグラの話。


 モグラはみんな、恥ずかしがり屋で怖がり屋。


 だけどハリーは少しちがう。


 ハリーは暗い穴よりも、明るい太陽の下が好き。


 湿った土のにおいより、風が運んでくるにおいが好き。


 目に映る緑が好き。


 さえずる小鳥の声が好き。

 

 ハリーはいつも思っていた。


 色んなものを見て聞いて、外の世界で暮らしたい。


 でもやっぱり外は怖い。


 フクロウもいるし、キツネもいる。


 さて、どうしたものかと考えた。


 三日も寝ずに、考えた。


 でもいい考えが浮かばない。


 疲れたハリーは眠りについた。


 どれだけ眠っていただろう。


 ハリーが穴から顔を出すと、季節は秋になっていた。


 枯葉の絨毯がカサカサと、気持ちのいい音をたてている。


 ふと上を見上げると、松の葉だけは残っていた。


 松葉はあまり好きじゃない。


 カサカサ音をたてないし、トゲトゲしていて痛いから。


 しかしハリーは思いついた。


 松葉で服を作ったら、きっと穴から出ても大丈夫。


 まずハリーは木の実を集め、それから小鳥のまねをした。


 チーッ、チッチッ、チュンチュン。


 チーッ、チッチッ、チュンチュン。


 ハリーのヘタな呼び声に、何事かと小鳥が集まってきた。


 ―この木の実をあげるから、松葉をたくさん落としておくれ。


 ハリーが小鳥にそう頼むと、


 ―そんなことならお安い御用。


 小鳥は快く引き受けてくれた。


 ハリーの穴のすぐそばに、あっという間に松葉が積もる。

 

 それからハリーは穴にもぐって、オケラやミミズを捕まえた。


 食べたい気持ちをぐっと堪え、今度はクモに会いに行った。


 ―この虫たちをあげるから、松葉で服を編んでおくれ。


 ハリーがクモにそう頼むと、


 ―そんなことならお安い御用。


 クモは快く引き受けてくれた。


 八本脚を器用に使い、あっという間に服ができた。


 これだけトゲトゲしていれば、フクロウもキツネも怖くない。


 ハリーは松葉の服を着て、穴からぴょんと飛び出した。


 はれてハリーは空の下。


 太陽の光をいっぱい浴びて。


 風のにおいをいっぱいかいで。


 好きなものを好きなだけ、見たり聞いたりできるようになりました。


 もうハリーはモグラじゃありません。


 そう、ハリネズミになったのです。


 ……?


 なんでハリモグラじゃないかって?


 それはハリーを初めて見た人が、モグラを見たことなかったから。


 本当はこれは一匹の、ハリネズミのお話でした。

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