第三の運命

 この農場に飼われている豚の運命はきまっている。


 食肉として加工されるか、トリュフ豚になるかの二つに一つだ。


 トリュフ豚とは、その名のとおりトリュフを探す豚だ。


 誰もがなれるわけじゃない。


 鋭敏な嗅覚。


 頑健な足腰。


 そして、オーナーに見初められるという強運を持ち合わせた、エリート中のエリートしかなる事を許されない、特別な豚なのだ。


 おれは、ハムやソーセージになんかなりたくない。


 だから、一生懸命に体と嗅覚を鍛えた。


 どんなにおいでも嗅ぎ分けられるように、飼育員は見た目じゃなくてにおいで覚えた。


 今じゃ、あいつらが豚舎から百メートルもはなれていたって見つけることが出来る。


 食事制限もした。


 周りのやつみたいに、食べるだけ食べてぶくぶく太ったりなんかしない。


 毎食必ず、腹が満足する一歩手前で止めておいて後は残した。


 おれは研鑽の日々を重ねた。


 そして、とうとう運命の日が訪れた。


 見慣れない女が豚舎に現れたのだ。


 高級な服に、ジャラジャラとつけたアクセサリー。

 

 鼻が曲がるような、きつい香水のにおい。


 おそらく、彼女がオーナーだろう。


 彼女が、おれをハムにするかトリュフ豚にするのかを決めるのだ。


 おれはやれるだけのことはやった。


 あとは、運を天に任せるばかりだ。



 …………



 ……


 

 おれは、まだ生きている。


 ハムにも、ソーセージにもなっていない。


 ……だが、トリュフ豚にもなっていない。


 あの日、おれを見初めたのはトリュフ豚のオーナーじゃなかった。


 セレブのお嬢様だったのだ。


 今おれは、お嬢様のペットとして飼われている。


 もう、ハムになる心配はない。


 部屋は広いし、毎日豪華な食事も出る。


 だが、耐え難いことがある。


 お嬢様の香水のにおいだ。


 鍛えに鍛えたおれの嗅覚に、お嬢様の香水はきつすぎる。


 毎日が苦痛だ。


 食事にも香水のにおいが染み付いて、まるで香水のかたまりを食っているかのようだ。


 今では、あの豚舎の餌ですら懐かしい。


 ああ……まさかこの鋭敏な嗅覚が、おれを苦しめる事になるとは……


 まったく、人生……いや豚生、なにが災いするかなんて、分からないものだ。

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