決着

「クギャッ⁈」

 僕が、これでもかという怒りを込めて武器を構えていた。

 例の蛇腹剣で捉えてしまって、そのまま一気に仕留めてしまおうと思うのだ。


 しかしなかなか距離は縮まらない……というか、このプテラ、蛇腹剣の射程を理解しているような行動をとるのだ。

 きっともう一匹を倒した際に、この武器の情報を共有でもしたのだろう。

 厄介極まりないモンスターだ……


 しかし、僕が蛇腹剣を振った時に戦況は動いた。

「クギャ⁈」

 剣をかわそうと羽を翻したプテラ。

 ちょうどそれを狙っていた少女が壁の向こう側にいたのだ。


「誰が茜しか精霊砲が使えないって言ったかしらぁ!」

 再度放たれたのは白く輝く光の弾。

 茜だけでなく、レベルは低いもののチャッピーもまた同じスキルを持っていた。


 まぁ、ずっと一緒に行動していたのだから、同じスキルがあっても不思議ではない。

 片羽に穴が空き、街の中に落ちていくプテラ。


 ただ、攻撃が当たった事が必ずしも良い結果を生むわけではない。

 僕もまたすぐに屋根から街の下へ。

 ふらふらとしながらも、プテラはどうにか僕から離れようとしている。


「グギャー!」

 そして放たれるプテラの魔法攻撃。

 コイツは逃げようとして離れたのではない……少しでも街に被害をもたらそうとして、僕にやられてしまうまでの時間稼ぎを行っているのだ……

 なんて卑怯な……


 民家は焼け、逃げまどう親子が見える。

 とっさに親子の前に立って庇うことはできたが、それにしても全く容赦ないモンスターだ……


「お、おいスノウ!」

 冒険者を引き連れたアランが、僕を見つけて叫ぶ。

 周りにいた冒険者たちも、死にかけのプテラを見て威勢よく突撃していく。

「ダメっ! まだ近づいたらあぶ……な……」


「ギャッ!!」

 ん……あれ?

 意外にも普通に攻撃が当たっているみたいだ。

 魔法を使ってこないところをみると、MPが尽きてしまったの……か?


 しかし、ただの冒険者の攻撃では、ダメージも少ない。

 後ろからチャッピーと茜も追いついてきて、僕たちはすぐにとどめを刺しに行く。


 と、その時だった。

「クキャッ」

 プテラの全身が眩く光り、僕は信じられない光景を目のあたりにしてしまった。


『自爆』


 プテラは自らの魔力を暴走させ、周囲を巻き込みながら爆発したのだ。

 近付いていなかったから助かったものの、僕たちですらひどいダメージを受けるほど。

 プテラの周りに固まった冒険者は、誰一人無事ではいられなかった。


 剣を持った腕だけが、僕の目の前に飛んでくる。

 また、家の壁にもその痕跡は赤く残され、後にはボロボロになったプテラの姿だけが残っていた。


「あ……」

 今までよくしてもらった冒険者たちが……

 僕たちが街の近くなんかでボスを呼び出したからだ……


 チャッピーと茜は吹き飛ばされた衝撃で倒れたまま唸っている。

 アランは、プテラの自爆後は姿が見えない。

 おそらくもう……


「スノウッ!」

 悲しみに打ちひしがれていると、僕を呼ぶ女性の声が聞こえた。

 こんな厄介ごとに首を突っ込んでいるのが僕なのだ。

 心配して見にこないわけがなかったのだ。


「良かった……スノウは無事だったのね……」

 あの爆発で気が気ではなかったのだろう。

 既に涙目になっていたアイズは、小走りで僕の方へと近づいてきたのだった。


「ク……ケ……」

「……っ⁈ ダメだアイズッ!!!」

 自爆したプテラは、まだ辛うじて生きていたのだ。

 小さな光がプテラの嘴に集まっていき、それはすぐさまアイズに向かって放たれた。


 ダッ……

 これほど好きになってしまった人はいなかった。

 この世界に来て、不安だった僕を心から救ってくれて。

 いつでも僕の話を聞いてくれたのはすごく嬉しかった……


 この身体が少年でなければきっと……


「ス……ノウ……?」

 アイズは動かなくなった少年に呼びかける。

 自分のことを守って、モンスターの攻撃を胸に受けてしまった少年に……


 胸に耳を当ててみるが、鼓動は聞こえない。

 しばらくし、モンスターの泣き声も遂に聞こえなくなってしまったが、アイズの嗚咽混じりの叫声はいつまでも街に響いたのだった。

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