第21話

「ねぇ……本当に良かったの?」

「良いのよ……言ったでしょ、この世界はゲームなんだって」

 暗い夜道を、チャッピーは茜と共に小さな村から逃げるように歩いていた。


 死んだらそこで終わりのデスゲーム。

 チャッピー的には、その呼び名が一番しっくりとくるらしい。

 そんな世界で助かる方法はただ一つ。

『最恐のモンスターを殺すこと……』


「でも、やっぱりリアル過ぎて……うぅ……」

 小さな村で一人の冒険者を雇った二人だったのだが、すぐにその冒険者はパーティーから離脱していた。

 解散したのではない、死んだのだ。

「もう覚悟は決めたじゃないのよ。

 それに後ろから刺したのは私だけど、あなたももう共犯なのよ」


 遂にやってしまったのだ。

 バグ技であるレアスキル解禁方法。

 今日の夜……いや明日の朝くらいにでも、あの冒険者の知り合いは悲しむのだろう。

 だが、それはあくまでもAIによる行動である。

 頭では理解できても、心がそれを拒否してしまうのだった。


 それから一週間ほどして、スノウとアイズの住むアールフォートの街では市場が混乱する出来事が起きていた。

「なんで買い取ってくれねぇんだ!

 いつでも相場価格で買い取るからこそ、今のギルドが成り立ってるんじゃねぇのかよ!」


 狩りに出向き野営までして、三日ぶりに街に戻った冒険者の出した素材は、なぜか親父さんから買取り不可と言われたのだ。

 別に素材が悪いわけではなく、ギルドに蓄えられた資金が底を尽きそうだっただけである。


「本当にすまねぇ……だが、これ以上買取ばかりが続いちゃあ、運営が続けられねぇんだ……」

 つい先日、少女たちが多くの素材を持ってきたらしい。

 若いのに腕が立つのだなと、普通に感心したそうだ。


 僕もその場にいたから、姿だけはなんとなく覚えている。

 人間と、あまり見かけないけれど獣人の少女の二人組だった。

 ホットミルクを飲みながら、珍しい素材を買い取る親父さんの嬉しそうな表情を見ていたのだ。


「親父さん、この間買い取った素材を売ったらダメなの?」

「バカ言うな!

 ポーションじゃあるめぇし、あんな高価なもん、そんなホイホイ売れるわけねぇだろうが!」

 確かに宝石系の素材は高い。

 求婚や見栄で買う者がほとんどで、正直装備品としては価値は無い。

 なぜなら加工できる者がいないから。


 僕も、装備生成スキルのレベルがようやくカンストし、そこから派生した【装飾生成スキル】を習得してようやく加工できるようになったくらいなのだ。

 だから、正直ずっと宝石系の素材が欲しかった。


「僕が買い取っちゃダメ?

 えっと……150万Gくらいなら出せたと思うんだけど」

 とは言うものの現金は持ち歩いていない。

 ほぼ全てアイズが管理をしているからだが、その管理場所がギルドの隠し金庫なのだ。


「もうスノウ! 無駄遣いしちゃダメだって言ってるじゃないの!」

 ビールを運びながら、アイズは僕に注意する。

 そうは言っても資本金がなければ運営はできまい。

「仕方ないわね……今回だけだからね!」

「お、おう。悪りぃ、ちょっと待ってな……」

 親父さんが奥の部屋に行く。

 買取を拒否されていた冒険者も、待たされることにイライラしている様子。


「良かったら座って待っててよ。

 迷惑をかけたお詫びに、きっと、アイズがビールを用意してくれるからさ」

 チラッとアイズの方を見る僕。

「んもうっ……ごめんなさい、よかったら一杯奢るから飲んでいきなさいよ」

 冒険者もそこまで言われれば怒りも収まってしまったようだ。


「ぷはぁっ!

 全く、俺がモンスターと戦っている間にどうしちまったんだか……」

 僕の前に座って、勢い良くビールを飲む冒険者。

「可愛い女の子たちだったよ。

 ここで毎日飲んでいれば会えるんじゃないかなぁ?」

「おっ、そうか。

 だったら俺も、ちょっと通い詰めてみるかなぁ」


 独身の男には気になる存在らしいのだ。

 僕もこんなに小さくなければ、いっぱしの男並みには女性に興味はある。

 まぁ、いつもアイズがいるから僕は幸せなのだけど。


 それにしても、今まで見たことのないタイプの冒険者だった。

 目の前の男ではなく、その少女二人組。

 冒険者が少女というだけでも珍しいのに……


「おうっ、待たせたな!」

 奥の部屋からお金と宝石を持ってきて親父さん。

 金庫の中から、宝石の代金135万Gを引かせてもらったと言う。

 残金が幾らかを聞いてみたら、実はまだ半分あるのだそう。


【ペリドット:風への強い抵抗力を備えた魔宝石】

【ルビー:火への強い抵抗力を備えた魔宝石】

 なるほど、魔法と宝石を合わせて魔宝石なのか。

 素材さえ手に入れば、持っていたスキルで入手方法もわかるし、先行投資だと思えば全然高い買い物ではない。


【風のブレスレット:物理と魔法に対する高い抵抗力を持つ、素早さ上昇効果】

【炎のコサージュ:武器による攻撃に属性を付与する効果をもつ、攻撃力上昇効果】


 もはやエンドコンテンツではないか?

 最初に来た街で、もうすでに裏ボスと戦える力があるんじゃないか……

 僕はギルドでミルクを飲みながら、装飾品を作りながら、そんなことを思うのだった。

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