第9話 時間

 休日がやってきました。三連休の最初の日。今日はユキさんのおうちで勉強会です! せっかく勉強を教えてもらえるんだし頑張らなきゃっていう気持ちと、他の人のお家なんてモモの家にしか行ったことないから不安な気持ち。あとは、私なんかが行って迷惑じゃないかなっていう気持ち。モモのいつもの押しでユキさんの家でってことになったけど本当によかったのかなぁ? 誰でも急に言われたらああなるだろうけど……

 そんな気持ちがグルグルしたまま待ち合わせの場所で一人で待っていました。

「モモは遅れるかもと思ってたけどユキ先輩も居ないなんて。約束の時間は十三時だったよね。今の時間は……」

 私は左手に付けた腕時計を見ました。スマホを見たら電波のデジタル時計がすぐ見れるけど、私は電池の残量とか気温とかでちょっとズレちゃうアナログ時計のほうが好きなんです。おまけとしてじゃなく時計として生まれてきた時計を使いたいし。えっと、長針は……一二を指してる。ピッタリだ。短針は……短針が、ない? ないってことは……

「十二時⁉︎」

 思ったより大きい声が出たみたいで周りの人が振り返ってこっちを見たので恥ずかしかったです、とっても。

「どうしよう……ユキさんは十五分前の四十五分にはくるだろうけどそれでも時間があるし……モモは、下手したらまだ寝てる」

 一回家に帰ってもいいけど帰ったらすぐ出発しないといけないし下手したら遅れる。やっぱりここで時間潰すしかないかなぁ。参考書でも読んどくかなぁ。


 参考書のまとめのページを読み始めてしばらくした頃でした。

「重い……」

 手で持って読むには参考書は重過ぎました……

「でもこれで時間潰せたかな? え? 十二時五分?」

 途中から手が疲れたことばっかりで内容は全然入ってこないし時間は潰せないし……

「どこか座れるところは……?」

 近くの交差点の反対側に誰も座ってないベンチが。参考書を一旦しまってベンチまで移動。


「ふぅ。やっと座れた」

 座って落ち着くまでちょっと休んでから参考書を開くと、

「眩しっ。そっか太陽真上なんだ。参考書は白いし……」

 今は十二時十五分。まだ三十分はどうにかしないと……

「この辺あんまり来ないし、ちょっと散歩してみようかな?」

 ということで歩き始めた私が最初に見つけたのはアイスクリーム屋さんでした。

「せっかくだし一個食べようかな」

 そのお店は聞いたことのない名前のお店だったけどとっても美味しかったです。そのあとには良い発見は無かったし、集合場所に戻ってきたのも十二時四十分だったけどそれでもちょっと得した気分でいられるような、なんだかそんなおいしさでした。

「あとは、何もせずに待っとくかなぁ」


 五分後、つまりピッタリ十二時四十五分。ユキさんがやってきました。

「こんにちは。ピッタリ十五分前ですね」

「え? スズ? 早かったのね」

「えっと、実は間違えて一時間早く来てしまいまして」

「そうだったの⁉︎ 電話してくれれば私も早く来たのに」

「そんなの悪いですよ。……っていうか私ユキさんの連絡先知りませんでした」

「え? あっ。言ってなかったかしら⁉︎ だめねぇ。どうも私、勉強以外からっきしで……」

「い、いえ。私も聞くの忘れてましたし……」

 ユキさんと連絡先を交換しました。

「えっとモモはまだ来てないみたいね」

「こういうのいっつも遅れるんでちょっと電話してみますね」


「今起きたみたいです」

「えぇっ。それって……」

「絶対間に合いません。この辺りまできたらまた電話するから先に行ってて、って言ってました」

「そう、なんだ。あっ、そういえばこの辺りにたまに美味しいアイスクリーム屋さんが来るの。ちょっと寄っていかない?」

「良いですね、行きましょう」

 本当はさっき行ったけど、せっかく誘ってもらったし、また食べたいし、このまま行っちゃおうかな。さっき行ったって言ったら気まずくなっちゃうし。


 と思っていましたが、店員さんの、

「また来てくれたんだ」

 という何気ない一言で全部お話しなきゃいけない空気になりました。

 せっかく秘密にしておこうと思ってたのに……

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