第10話 4機の報道ヘリ

 県庁15階の南側展望ラウンジの窓からは鳥の止まっている塚山古墳方面の市街が見えてはいたが、あいにく今現在は霧雨が煙る天候となり、窓ガラスには細かい雨滴が付着して、報道ヘリは灰色天井のような雨雲の下に微かなゴマ粒のようにかろうじて視界に入って来た。

「あれか?…天気が悪くて良く見えないが…」

 会議メンバーがざわついたが、

「大型モニターに鳥のライヴ映像を出します!皆さん着席して下さい」

 多々貝自衛官が言って、80インチモニターに鳥付近の画像を映した。

 …映像は鳥の右前方約300メートルからの撮影とのことだったが、すぐもうその背後上空にはヘリコプターが接近していて、バラバラバラ…とローターの回転する音も画像から聞こえて来ていた。

「危険過ぎる!陸自管制室から引き返さすよう警告を出せ !! 」

 自衛官らが叫んだが、

「もう、間に合いません!」

 間森一佐が言った。

「…ってことはテレビニュースでも今、鳥のライブ報道してるってこと?」

 甲斐路 優が言うと、多々貝自衛官が

「ニュース画面も入れます!」

 と応えて、80インチモニターの右下4分の1のスペースにテレビ画面を割り込みで映した。

「…こちらは、宇都宮市上空です!本日、突如として出現した巨大鳥は、東北自動車道と東北新幹線に多数の死傷者を出す被害を与えて、現在市内の塚山古墳公園に潜伏しています。あっ、見えました!大きいです。まるで怪獣映画を見ているような感じです!巨大鳥は市街の中、北の方向を向いて羽根を休めている様子です」

 …テレビ画面では女性リポーターがヘリコプターからの映像とともに、ローター音に負けじと大きな声で状況を伝えていた。

 報道ヘリ4機は、鳥の背後から大きく上空を旋回して鳥の前に回り込んだ。おそらく鳥の表情と、正面からの全身映像を撮りに行った様子だ。

「今、カメラが鳥の全身を捉えました!本当に驚異的な大きさで、現在静かに鳥はこの塚山古墳の上に佇んでいます!」

 女性リポーターが叫ぶように画面から状況を伝えた時、突然鳥が閉じていた目を開けた。

「ギャーーッ!」

 そしてカン高い鳴き声を街中に響かせた。

「鳥が今、目覚めたようにパッと目を開いて大きく鳴き声を上げました!活動を開始するんでしょうか?」

 実況を続けるリポーターだが、鳥はその時クチバシを開いて、

「ボンッ !! 」

 と音を立てて喉から何か弾丸のような物をへリに向けて発射した。

 次の瞬間ヘリは、「ガン!」という破壊音を立てて操縦席部分が四散し、テレビ映像は消えて砂嵐のような画面に変わった。

「あっ !! 」

 県庁の僕たちは同時に声を上げた。 ヘリはエンジン付近に火が着いて、機体がぐるぐると回りながら市街の民家に墜落、「ド~ン!」と音が響いて住宅地から赤い炎が上がった。

 鳥は2機目と3機目のヘリにも同様に喉から弾丸を発射、両ヘリはエンジン部分を直撃されて空中爆発を起こし、四散した機体はやはり市街の民家の上に落下して行った。

 他のヘリが鳥にやられたのを見た4機目のヘリは、鳥から逃げるように市街上空を北に向かって全速力で飛行を始めた。

「ギャーーッ !! 」

 再度鳥は雄叫びのように鳴き声を響かせ、バッ!と大きく羽根を広げた。

 そしてバサッ、バサッと羽ばたきながら空へと上昇、その時付近の民家が風圧に煽られて屋根瓦が飛び、街路樹が何本か折れた。

 …鳥はヘリを追って飛行態勢に入った。


「ヘリと鳥がこちらに向かって来ます!」

 緊急対策会議室の自衛官スタッフが叫んだ。

 全員がまた窓の外を見ると、今度はハッキリと市街地上空をこっちへ近付いて来るヘリを視認出来た。さらにその後方には翼を上下させて飛行する鳥の姿も見えた。…そしてその二つはどんどん姿がこっちへ向かって大きくなってくる。

 だが、鳥は飛びながらまた例の弾丸を口から発射し、僕たちが見ている前でヘリは空中で火を噴いてひっくり返るように回転し、ローターが外れて機体は落下を始めた。

「最後の1機もやられたぞ!」

 誰かがそう叫んで、落ちて行くへリを目で追うと、何と機体は僕たちの足もと…この県庁の正面玄関前の広場に墜落して大破、爆発音が下から突き上げて来た。

 直後に鳥が低空で県庁の真上を通過し、「バン!」と風圧が建物を直撃して窓ガラスがビリビリと鳴った。

 会議メンバーは一瞬呆然として窓の外に炎上したヘリ機体から上がって来た黒煙を見ていた。

 …鳥はそんな僕たちをあざ笑うかのように宇都宮市街上空をゆっくりと旋回して、再び南方向へと進路を変える。

「鳥が、再び塚山古墳方向に飛行進路を変えました!」

 間森一佐が報告して、皆はハッ! と我に返るように進行役の多々貝自衛官の方に目を戻した。

 大型モニターは宇都宮市の地図画面に切り替えられ、その中を鳥を表す赤い点が移動していた。その赤い点が明らかに塚山古墳に戻ろうとしているのが分かった。

「とにかく一刻も早く鳥を排除して下さい!」

 県知事が悲痛な叫びを上げた。


 気が付けば宇都宮市の数ヶ所から炎と黒煙が上がっていた。

 それはもちろん墜落したヘリの現場と、東北自動車道の事故現場からのものだった。




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