第7話 被害
…フロントガラスに、ポツポツと小さな雨滴が当たり始めた。
長距離配送トラック (10トン車) のドライバー、道尾 進 (みちおすすむ) は東北自動車道を北へ走行中だった。
「小雨か…大谷パーキングエリアに寄って、ちょっとトイレ休憩するかな…」
そう呟きながら、すぐ右の車線を見れば、楽しそうな顔したおばちゃんらが乗った観光バスが並走している。
「鬼怒川か塩原に行く温泉ツアーのバスかな?…良いなぁおばちゃんらは…」
時速90キロで走りつつ、ついそんな愚痴が口からこぼれた時、背中に突然
「ガガン !! 」
と衝撃を受けた。
「荷室の中の荷物に何かあったのか !? 」
道尾はドアミラーを見る。
「えっ !? 」
トラックの荷室全体に何かが絡んでいた!
( 何だ、木の幹…いや、下に黒っぽい尖った石材みたいなものが車のボディの下まで…えっ !? 車が浮いてる!)
気が付くと、トラックは道路から空中に浮いて上昇していた。そして隣の観光バスに視線を戻すと、ハッキリと事態が飲み込めて来た。
( 巨大な鳥の足が、トラックと観光バスを掴んでいる!下に見えたのは石材じゃなくて爪だ !! )
「…バサッ!バサッ!」
道尾が運転席の窓を開けると、鳥の羽ばたきの音が大きく中に飛び込んで来て、とたんに車は上下に揺さぶられた。
…気付けば巨大な鳥は左脚でトラック、右脚で観光バスを掴んで東北自動車道の上空200メートルを飛んでいた。
観光バスの乗客は明らかにパニックを起こして顔をひきつらせているのが見えた。何か喚いているおばちゃんの姿もあった。…そのバスの向こうに大きく覆うような感じで翼がバサッ ! バサッ ! とリズムを刻んで降りて来る。
そして次の瞬間、右脚が観光バスを離した。
「あっ!」
道尾は叫んで窓から首を出し、落下して行くバスを目で追う。
バスは東北自動車道の上り線に落ちて、東京方面に向かって走行車線を走っていたタンクローリーの運転席を直撃。ローリーは横転しながら追い越し車線を塞ぎ、タンクからガソリンが漏れ出すとともに引火、爆発状に激しく炎を吹き上げた。…さらにそこへ乗用車が突っ込み、タンクに接触して中央分離帯を飛び越え、下り車線を走って来たトラックに衝突、大破して路面に無残な形となって散らばった。…事故現場の炎からたちまち黒煙が吹き上がる。
(…そんな ! )
一瞬にして晒された地獄絵図に道尾が呆然とする中、鳥は右へ旋回するように方向を変え、宇都宮市街の家並みを直下に見ながら時計回りに東から南へと飛行して行く。
…そして道尾が眼下に見たものは、東北新幹線の高架線路だった。すると、徐々に鳥は高度を下げ始めた。
「えっ !? まさか!…」
JR宇都宮駅周囲の建物上をかすめるように線路上空を飛行する鳥とトラック。
道尾の目に、下方正面からこちらに接近して来る東北新幹線の車輌が見えた。
「ウソだろ、おい!やめろ、やめてくれ~っ !! 」
しかし残念ながら道尾が叫んだ時には、鳥はトラックを離していた。
東京発秋田行き E6系7両編成の「こまち15号」は、後ろにE5系10両編成の「はやぶさ15号」新函館北斗行きを併結し、時速235キロで北へ向かっていた。
この列車は大宮を発車すると、次の停車駅は仙台だ。宇都宮は通過のため速度は落とさない。
先頭車運転席に座る、仙 路男 (せんみちお) 40歳は前方のレールと、その先に見えて来た宇都宮市街の景色を視認していた。
「ん?…」
しかしその時、仙は市街上空を低い高度で飛んでいる、濃い茶色とグレーの物体を見た。
「何だアレ?…飛行機にしちゃ変わった飛び方だな…」
そう思ったが、間もなく宇都宮駅通過だ。意識をレール上に戻して一旦その飛行体を視界から外した。
この、秋田行き新幹線 E6系「こまち」はこの先の盛岡から、後ろの E5系「はやぶさ」と切り離され、在来線に降りて走行するため車体が従来の新幹線車輌より一回り小さい。
そのせいか新幹線専用高架軌道を走るとスピードがより速くなるような感覚になる。
…その時突然、仙の見つめる前方のレール上に10トン積の大型トラックがドシン ! と落下して来た!
「 !! 」
次の瞬間にはもう、仙と道尾の意識は消滅していた。
トラックは高架軌道の上下線レールを塞ぐように斜めに落ちたところへ「こまち」がまともにその運転席に突っ込んだため、トラックはレール脇の壁面を壊しながら回転、約30メートルほど吹っ飛ばされて横倒しになりながら高架軌道上に大破して残った。
「こまち」車輌は先頭車と2両目が高架軌道から落ちて、下を走るJR東北本線 (在来線) のレールを塞いだ。3~6両目は全て脱線して車体が傾き、あちこち破損して停まった。
鳥はさらに宇都宮の街を見下ろして低空飛行した後、高度を下げて行って陸上自衛隊宇都宮駐屯地の上を悠々と通過、市街南部の塚山古墳の墳丘に降りて、
「ギャーーッ!」
とクチバシを開けて鳴いた後、羽根をたたんだ。
「…被害が出ました」
車の無線機から情報を確認して、間森一佐が僕たちに言った。
「考えていた中で最悪の結果になったわね…」
掛賀先生が甲斐路と僕に言った。
…今、僕たちが居る場所は多気山の麓だ。
「もっと近くであの鳥を見たい!」
甲斐路 優が叫んだ。
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