第2話 サキタマ古墳群

 …という訳で翌朝、僕はスクーターで市内の江戸川近く、流山街道沿いのコンビニに走って行った。

 甲斐路 優との待ち合わせ時刻は8時15分。…僕は8時少し前に着いたので店でパンとマックスコーヒーを買って朝食を摂った。

 …3月下旬の今日は、正直まだ朝はちょっと肌寒かったけど、彼女といきなり原付ツーリングデートという展開に、僕はやはり胸をときめかせていた。


 彼女は時間ぴったりに現れた。

「おはよー!」

 そう言って僕に笑顔を向けた彼女が乗って来た原付は、モンキーZ50 - J だった。

「おはよう!…ずいぶんと可愛いバイクじゃん?」

 そう言うと、彼女ははにかみながら

「昔お父さんが乗ってたやつを貰ったんだよ!チビの私にも乗り回しやすくて、最高の相棒なの」

 と嬉しそうに応えた。

 さらにそんな彼女のいでたちを見れば、スニーカー、ジーンズの足元から脛にかけてレッグウォーマー、上着の上にヤッケ、首にマフラー、保護メガネをして原付用キャップメット、普段学校で見ていた姿とは全く別人だったので正直ちょっと萌えた。


「じゃあ、行くわよ!ついて来て」

 彼女はそう言っていきなりモンキーを発進させ、

「えっ !? ちょっと…」

 僕は慌ててスクーターで後を追った。

 …このまま流山街道を走るのかと思いきや、彼女は江戸川の土手下の道に出て北へと向かった。

 その道は農道という感じの細道で、左手に江戸川土手を見ながら田んぼや畑、農家の点在する中を走って流山市街へと走る。

 …今日の天気は桜がまだ咲き揃う前の花曇りから薄日が射して来たところ、走行中に受ける風はやや冷たいけど、まずまずのツーリング日和と言えるかも。

 …彼女の背中を間近に追いながら流山市街を抜けて常磐道のインターの下をくぐり、ひたすら江戸川に沿って田んぼ脇の農道を走れば、江戸川土手を菜の花が一面咲き誇って見事に黄色く染めていた。

 …菜の花の香りに包まれながら走って野田市街を抜け、東武鉄道の小さなガードをくぐり、住宅地の中を突っ切って再び菜の花香る江戸川の土手道に出て北へ。

 …そのうちにだんだんと雲も晴れて陽が燦々とまぶしくなり、気温も上がってきたのか肌寒さも消えて楽しいツーリング模様になった。


 野田の先の宝珠花橋で江戸川を渡り、埼玉県に入ってさらに土手沿いを北へ…。

 何だかよく分からない田畑の中の田舎道を走って、「道の駅 ごか」にバイクを入れて休憩。

 自販機でホットドリンクを買ってベンチに座り、二人並んで一息ついた。


「…甲斐路さん、ツーリングは楽しいけどさ、どうしてこんなマニアックな道を知ってるの?」

 ヘルメットを脱いで僕が思ってた質問をぶつけると、

「私、父親が研究者だから、地理も道路も調べることが好きだし、それに小さなモンキーでメジャーな幹線道路を走ると車の排ガスまみれになるし、第一危険でしょ?」

 明快に彼女は答えた。

「お父さんが研究者?…」

「大学の准教授 ! …考古学者なの」

「…ふ~ん、それで甲斐路さんも古墳とかに興味があるのかぁ…」

「正確に言うと、古墳に興味があるって訳じゃ無いの!…私が知りたいのはもっと別のことだよ !! 」

 彼女は温かいココアを飲みながらそう言ってまっすぐ僕を見た。

「別のこと?…」

 ちょっと視線にドキッとしながら聞き返すと、

「さぁ、出発!まだ行程の半分くらいだから、行くわよ!」

 彼女はメットをかぶって素早くモンキーに跨がった。

「サキタマ古墳群って、まだ遠いの?…何市?…知りたいことって何なのさ!」

 僕もスクーターのエンジンをかけながら質問を投げると、

「最初の答え、行田市!次の答えは現地で!」

 と叫んでモンキーは発進した。

(行田市 !? … 知らないよ!)

 僕はそう呟いてモンキーの後を追う。


 モンキーは枯れて乾いた田んぼの中を走る道から幸手市街に入り、東武鉄道の踏切を越え、東北新幹線の線路下、JR東北線の踏切、東北自動車道の上を突っ切って加須市の街中へ。

(…遠いなぁ ! …まだ着かないのか?)

 …加須市街を抜けて、関東平野のまっ平らな田園景色の道を果てしなく続くツーリングに少々疲れて来た時、その田んぼ風景の中にそびえるタワーが見えて来た。

「古代蓮の里だよ!」

 甲斐路 優がタワーを指して叫んだ。

 しかしそこはあっさり通過してモンキーは方向を変え、さらに7~8分ほど走ると道路から右に曲がって駐車場に入り、ようやく止まった。


「着いたよ!」

 彼女がそう言って駐車場の先に広がる大きな公園のような場所の奥を指さすと、確かに小山のような盛り上がりがポコポコと見えていた。

「行こっ !! 」

 彼女はメットを脱いでモンキーの前カゴに突っ込むとゴムフックをかけ、ダッシュで公園の中に走って行く。

「えっ !? ちょっと…!」

 慌てて僕も彼女を追っかけて走る。


(いったい何があるっていうんだ?…ここに !! )

 僕にはいろいろ何が何だか、まだこの時点では全く解らなかった…。










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