第21話「102号室(2)」

第21話-A面 時任秋良は逃走する。

 僕が玄関のドアを開けると、スキンヘッドの男性がしゃがみこんでこちらを睨んでいました。ついそちらを見てしまった僕の視線とその人の視線がかち合います。

 鋭利な刃物のような眼光。

 顔についた複数の傷跡。

 朝日に煌めくスキンヘッド。

 まともな人じゃないのは間違いないです。


 その危険人物が、がばっと頭を下げてきました。

「おはようございやす!」

「えっ!?」

 な、なんですかこれは一体。

「俺ぁ、今日から102号室に住まわせていただきやす、辻村狂介と申します」

 ツジムラキョウスケ? 聞いたことない名前です。

 っていうか102号室!? お隣さん!?

「以後お見知りおきを」

 頭を下げたままのツジムラさんが上目遣いにこちらを見てきました。

 獲物を狩る獣のようなぎらついた視線。

「ひっ」

 怖いです。

 なんなんでしょうかこのひと。

「何かお困りのことがありましたら、いつでも連絡してくだせえ」

 いま、こまってます。とても、こまっています。

 と、とりあえず――

「け、警察を」

「お嬢? どうしました?」

「どうって……」

 振り返ってレーコさんを見ると滅茶苦茶笑っていました。

 そうですか。僕が困ってるのが楽しいですか。そうですか。

「なんすか? 誰かいるんすか? そいつに脅されてるんすか?」

 み、見えてないですよねレーコさん?

「見えるワケねーだろ」

「ち、違います!」

「大丈夫ですお嬢。俺が隣に越して来たからには危険な目には遭わせません」

「あの、さっきからお嬢お嬢、って」

「だってアンタ、時任のアニキのお嬢さんでしょう?」

 時任のアニキ?

 って、まさか。

「あの人の……父のご友人、ですか?」

 自分でもうんざりした表情を浮かべてしまったのがわかります。

「友人なんてとんでもねえ。アニキは俺の恩人でして。お嬢のことはアニキから頼まれてますんで、改めましてどうぞ宜しくお願い致しやす!」

 あの人の差し金ですか……。

 僕は全力ダッシュで逃げ出しました。


 何考えてるんでしょうか、あの人は……。

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