第4話‐B面 毒島玲子は思案する。

 うーん。

 昨晩はアタシはしくじったかもしんねーなー。

 

 なんか早朝に目が覚めて、そんな過ぎたことを足りねえアタマで考えている。

 アタシは厄病神見習いだ。

 アキラのバカを不幸にするのが課題なんだから、あそこで助けちゃ駄目だろフツーに考えて。


 ――あのままケースケに抱かれてたら、どうだ?

 アキラは不幸になるか?

 流されてハッピーになる可能性もまあワンチャンあったか?

 どうだろ?

 よくわかんねー。

 けどアタシに助けを求めたってこたぁ、アキラにとってはそーゆーことのはずだ。


 宙であぐらをかいて下を見下ろすとすやすやと呑気に寝てるバカアキラの顔がある。

 アタシがこんなに悩んでるっつーのに結構なご身分でいやがるぜ。


 昨日このバカ面に降りかかった不幸――クラス委員決定ジャンケンで負ける、家が火事になる、夜中にケースケに襲われる――については厄病神アタシは何の力も使ってねえ。アキラのリアルラックが低すぎて引き起こされたものばかりだ。


 だから、これをアタシの厄病神としての成果っつーのはなんか違うんじゃね?

 とか思うわけだ。


 けど、イチイチそんな体裁なんぞ気にせずにさっさと流れにまかせてこのバカを不幸のどん底に叩き落してやればよくね?

 とも思うわけで。


 どーしたもんかねこりゃ。

 厄病神見習いにはちょいとばっかし難しいぜ。

 師匠ジジイに聞いてもどうせ「自分で考えるのが修業じゃ」とか言いそうだし、そもそも聞く気もねーけど。


 と、もうこんな時間か。考え事してると時間が経つのがはやくていけねえ。そろそろ起こしてやんねーとな。こいつ超低血圧だし。

「オラ、アキラ起きろ。メシ食ってガッコ行くぞコラ」

「おはようレーコさん」

「おう。シャンとしろシャンと。ちゃっちゃと顔洗ってきな」

「はぁーい……」

 ふらふらと布団から這い出し、おぼつかねー足取りで洗面所に向かうアキラについていくアタシ。


「おはようございまふ……」

「おはようアキラちゃん! 昨日よく眠れた?」

 エミは朝からテンションたけーな。疲れねーのかな。

「うん。ありがと。ゆっくり眠れたよ」

 ほんとにな。よくあんなことあった後で爆睡できるよなオマエ。


「それと、昨日の夜なんだけど、お兄ちゃんと何かあった?」

「えっ」

「なんかお兄ちゃん、朝早くに帰っちゃったみたいで。アパートに戻って着替えて出社するから、とか言ってたみたいだけど」

 まあ、顔合わせるのは無理だろ。ケースケ、しばらく家に寄り着かねんじゃね?

「……ケースケ兄さんとは昨日少しお話したんだよ。久しぶりだったから」

「えー! 私、部屋の前まで行ったけど、我慢して部屋に戻ったのにー。そういうことなら私も呼んでよアキラちゃん!」

 妹の方はどえらい能天気だなオイ。

「いやー、それはちょっと」

 あの現場にエミまできたら大惨事だぞ。見てる分にはおもしれーかもしれんが。ああ、でもアキラが泣くか。


 エミの母ちゃんが用意してくれた朝飯はすげーいい感じだった。

 アタシも食いてえ。

 くっそ、あとでこっそり実体化してやろうかな。

 とか思ってるとなんかアキラが泣き出した。


「アキラちゃん、どうしたの?」

「え?」

「泣いてるから」

「嘘」

 おーおー、自分じゃ気付いてなかったか。鼻水も出てるぞオマエ。

「なんでもないです! ごめんなさい!」

「昨日のこと、思い出しちゃったんだね。ゆっくりでいいから食べれるだけ食べてね」


 アタシは無理矢理に涙を拭って俯いてるバカの頭をポンポンと撫でてやった。

 アキラはアタシを見てバカ面をもっとバカ面にしてた。

「こっち見んな。いいからさっさとメシ食えよ。遅刻すんぞ」


「うん。ありがと」


 礼はいらねーよ、アキラ。

 アタシはオマエを不幸にするためにココにいるんだからよ。

 ――のはずなんだけど何やってんだろうな。アタシ、もしかしなくても厄病神この仕事に向いてなくねーか?

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