第2話 常識改変

 パチン


 手を叩く音で私はゆっくりと目を開く。私の部屋。正面には先輩が座っている。意識は戻ったけれど、催眠にかかっている時特有の頭のどこかにもやがかかったような感覚がある。


「今日かけたのは、“常識改変”の催眠だよ」

「おお、定番の。先輩、そんなこともできたんですね」


 先輩と私は最近、えっちな催眠術の研究をしている。私は普段と何か変わったところがないかと辺りを見回す。


「どうかした?」

「いえ、どこか変わってるところがないかなと思いまして。私のイメージだと、常識改変なら今ごろ、私が先輩の『アレ』を『ナニ』しててもおかしくないと思うんですが」

「それは流石にいろいろとヤバいだろ……」


 先輩は少し引いた様子で言った。そんな先輩に私は不審の目を向ける。


「……まさか先輩、またチキって全然えっちじゃない内容の催眠をかけたんじゃないでしょうね」

「そんなことはない!というか俺がいつチキったよ!」


 反論する先輩にジト目を向けて、ため息を吐く。まあ、疑っても仕方がない。それに、全くえっちじゃない催眠というわけでもないだろう。先輩、顔真っ赤になってるし。先輩の『アレ』が『見せられないよ』してるし。しかし、何にこんなに反応しているのか。


「先輩、ちょっと失礼しますね」


 何か手がかりが無いか、立ち上がって先輩の後ろを見てみる。そのとき、なんの気なしに先輩の肩に手を置くと、先輩の体がビクッと跳ねた。


「……先輩?」

「い、今ボディタッチはマズイって!」


 ほほう。やっと手がかりが見つかったみたいだ。試しに、先輩に後ろから抱きついてみる。


「ひゃぃっ!」


 表情はわからないけれど、耳まで真っ赤になっていることは分かった。そのまま左腕で拘束して、右手で脇腹をくすぐる。


「あひゃっ!だめ、これ絶対だめな感じになってるからぁ!」


 私の腕の中で先輩が激しく悶える。肌感覚が敏感になる催眠、というものもあるけど、だとしたら先輩がかかってることになるしなぁ。うーん、なんだろう?


 身体を捩り続けて私の腕から逃れた先輩は、恨みがましい目でこちらを睨んでいた。笑いすぎたせいか目には涙が浮かんでいる。


「これは、このままだとホントにマズイことになるな」


 そう呟くと先輩はそそくさと服を着て部屋のドアに向かった。


「この催眠は、寝て起きたら解けるから。じゃ!」


 呆気に取られているうちに、先輩は帰ってしまった。


「結局なんだったんだろ……」


 その疑問は、その日1日引っかかり続けた。夕食を食べている間も考えていた。お風呂に入っても考えていた。ベッドでも考えたけれど、結局何だったのか分からなかった。


「まあいいや。起きたら解けるって言ってたし」

 そして私は眠りについた。


 翌朝、目を覚ます。頭がぼんやりとしている。昨日、なにかとても気になることがあったような。そう、確か昨日、先輩が私に催眠をかけて……


「っ〜〜〜!?!?」


 私は1日遅れで盛大に赤面した。眠気なんて吹き飛んだ。これが常識改変か。なぜ私は気づかなかったのだろう。


  先輩がずっと裸だったことに。


 体をきゅっと丸めながら、私は仰向けから横向きに姿勢を変えた。心臓がバクバクと騒いでいる。


「先輩の……おっきかった……」


 私は自分の手を見ながら呟く。直径は指の倍くらいあったし、指よりずっと長かった。あんなのが入るのか、入るのか!?


「先輩……」


 私は、半ば無意識に右手を布団の中に入れた。クチュクチュクチュクチュ


「先輩っ!あんっ!先輩ぃっ!」


 私は、背中をビクビクと震わせて……私は朝から何をしているのだろう?

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