5−3

 戦争はアルゴン・ハイホン連合国側の勝利で幕を閉じた。

 イジュラ国は連合国側の領地から軍隊を引き上げて、逆に領土の一部である半島を両国へ差し出すとということで決着した。

 アリーシアの元に戦争終結の話が届いたのは、講和会議の日程が決まったその日だった。

 兵士たちは続々と帰国しつつあった。

 最前線で戦っていたアンカーディア主従とユーシス主従は兵士たちの最後尾を守りつつ凱旋した。

 城下の街では兵士たちの帰還の行列によって、パレード状態になっていた。

 アリーシアは遠くからグレン達が見えると、周囲の反対を押し切り城から飛び出して中庭へと駆け下りた。

 グレンたちはお祭り状態の市街地の上空を飛んだ後で、アリーシアの待つ中庭へと降り立った。

「グレン様! アンカーディア様! ご無事で」

 アリーシアはまずアンカーディアへとドレスの裾を持ち、行儀良くお辞儀をしてみせた。

 それから、笑顔で寄ってきたアンカーディアへ抱きつく。

「よくご無事で」

 アリーシアが安堵の声で囁くと、アンカーディアも片腕でアリーシアを抱くと頬と頬を寄せ合い軽くキスをする。

「只今戻りました、元許嫁殿」

 揶揄を含みに小さく笑むと、アンカーディアはちらりとグレンを見る。

 アリーシアはふふっと笑い抱擁を終えると、アリーシア達を見ないようにとそっぽを向く漆黒竜の名を呼んで、自分の方へと向かせた。グレンは素直に首を下げてアリーシアの前へ顔を寄せる。

「おかえりなさいませ、グレン様」

 硬い鱗に覆われた頬を撫で、牙の覗く唇の端へとアリーシアは口づけをする。

 竜は目を閉じてそれを受け入れた。

「ユーシス様、アベム様もお帰りなさいませ!」

 ラルフも続いて庭へと下りてきた。

 ラルフは今や彼らの世話係となっていた。戦争が終わったことで、同じ城内とは言え正式にアリーシアからは離れて、ユーシスと主従の関係になる予定だった。

 ユーシスは太陽のような晴れやかな笑顔でアリーシアに挨拶をすると、自分の従者の頭をわしゃわしゃ撫でた。

「ただ今戻りました、アリーシア様。ラルフも元気そうでよかった」

「はい!」

 ラルフは緑の髪を撫でられて嬉しそうに笑うと、元気よく答えてアベムの手綱を取る。

 アリーシアも前まで行くとお帰りなさいませ、お兄様、とユーシスとも軽く抱擁をした。

 アベムは驚くほどに静かな、喋らない竜だった。

 ユーシス曰く、喋れはするのだがグレンと比べると獣としての自我が強いのか、ほとんど主であるユーシスとも話をしないらしい。

 全員が挨拶を済ませた。

 アリーシアは言った。

「アンカーディア様。国王、お父様が城の中でお待ちです。どうぞ、ご挨拶を」

 アンカーディアは微笑んで、やんわりと首を振った。

「いや、遠慮しておきましょう。一度は国を滅亡させた私だ。私は謝礼さえ貰えばもう、ここを発つ予定です」

 アリーシアは驚いた。

(ここでもう、アンカーディア様とはお別れだというの?)

 アリーシアは急いでアンカーディアの前へと進み出る。

「ここを離れて、どこへ行かれるのですか? またあの城へ?」

「いいえ、あなたがいない今、あそこへと戻る理由はない。世界のどこへなりとも……新しい地を求めていこうと思います」

 アンカーディアはグレンを振り返った。

「ただグレンとは、主従の契約が残っている……彼をどうするか。私の許嫁殿を横から奪い取った彼を。処遇を悩みあぐねているところなんですよ」

 アンカーディアはそう言うと薄く笑った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る