レシピ11 上手に焼けましたぁ♪ も立派な料理なんです。


「にへへへへ」

「先輩、先輩! カルテ出して下さいっておーーい。ゆうか先輩、ゆめ先輩ダメです」

「あ~これは重症だな。この!」


 由佳先輩のチョップが私の頭にきまる。


「あぐ!?」

「ゆめさんよぉ、何に浮かれているか知りませんけどぉ~私への当て付けでしょうかぁ?」


 割りと本気な目で睨まれ私は首を必死で横に振る。


「良いことあったんでしょうけど仕事はしてね。それともやはり私の当て付けですかね?」

「いえいえいえ、違います。断じてそんなことはありませんです」


 私こと夢弓はお仕事中です。があの晩の事を思い出すとニヤニヤが止まらないのです。

 自分の唇に触れる……にへへへ、うぐっ!?


「ゆ~め~みさーーん、仕事しろって言ったよねぇ~。今言ったよね~。

 よっぽど私に始末されたいようですねぇ」


 由佳先輩のヘッドロックがきまる、私は腕をタップしてギブを宣言する。解放された私はそれからはまともに仕事をしました。

 いつもよりはちょっと上の空だったけど。


 ***


 お昼になり家から持ってきたお弁当を開ける。


「あれ? ゆめ先輩のお弁当ってウインナーだらけじゃないですか? そんな感じでしたっけ?」

「これねぇ今、私料理の練習中なんだ。それでね上手く焼くってことから始めてるんだ」

「なになに? ゆめって料理苦手なの?」


 由佳先輩もお弁当を覗いて驚いた様に聞いてくる。


「恥ずかしながらかなり苦手なんですよ。で彼と一緒に練習中なんですっていたひぃ~」

「このやろ~やっぱり私に対する当て付けかよ~」


 由佳先輩が私の頬を引っ張ってくる。


「ゆうか先輩、私は味方ですよ」

「本当? 実桜ちゃん」

「えーえー、味方ですとも」

 

 由佳先輩は実桜ちゃんに抱きつき頭を撫でられ泣く振りをする。それからしばらくいじられお仕事を終えて家路に着く。


 ***


「ゆめ、この間の話、裕仁君と会う話。お父さんが土曜日休み取れそうって言ってたけどどう? そっちも都合つかないかしら?」


 お仕事から帰って料理の雑誌を読んでいたらお母さんからそう言われる。


「うん、都合良いか聞いてみる」


 私は早速SNSでメッセージだけ送っておく。詳しい話は電話でも良いので挨拶の日程についてだけ書いておいた。

 再び雑誌に目を移動させようとしたらお母さんが話を続けてくる。


「ねえゆめ? 最近ウインナーばっかり焼いてるけどなんの練習?」

「ん? とりあえず出来ることからってことでウインナーをムラ無く焼く練習。ひろくんのお弁当にも入れてるんだ」

「ふ~ん、面白いことするのね。そう言えばこの間ハンバーグ作ったて言ってたよね? ゆめがメインで作ったのよね?」

「そうだよ、ひろくんと一緒に作ったら上手く出来てね、美味しいって言ってもらえたんだ。えへへへ」

「へぇ~ゆめがねぇ。それは裕仁君に会うのが益々楽しみね。

 それとあんまり惚気た顔してるとお父さん倒れるわよ」


 そんな顔してたかな私?

 何かあるとすぐにニヤニヤしてしまうのは確かだけど。

 なんだか嬉しそうなお母さんは私の頭をポンポン叩いて台所へ向かっていく。

 なんでお母さんが嬉しそうなんだろう?


 ────────────────────


 俺、裕仁は仕事場で弁当を広げる。

 中身はご飯と、冷食の野菜系、ミニトマト以外は全てウインナーである。

 まあこれには訳があって俺はハンバーグが出来た後にもゆめ1人で練習する方法を模索していた。


 始めは簡単そうなレシピを検索していたのだが難航し、そもそも料理ってなんだ? と言う迷走したあげく訳の分からない悟りを開くべく、ネットの海をさ迷っていた。


『料理=cook』


 まあ割りと馴染みのある英単語を見つける。

 何気に見ていたら『cook=熱を使って調理する』と書いてあった。

 そこから調理法によってboil煮るとかsteam蒸すとかに分かれるらしいが、ただ焼くってだけでも立派な料理じゃね? って事でウインナーを焼くことになった訳だ。ウインナーならboilゆでるにも発展出来るし安定して手に入るから最適な食材だ。

 そして俺の弁当に入れれるのがやる気に繋がっているらしい(ゆめ談)


 そんなわけで弁当のウインナーを食べながら1本1本焼け具合を確認していく。


「全体的に焦げが多いのは生焼けを回避しようとしたんだろうな。でも食べれないほどの焦げじゃないしなかなかいい感じだな」


「あらあら、入月君お弁当? ゆめが作ってくれたの? ってウインナー多いわね」

「ええ俺の希望でウインナー多めです」


 柚木さんに弁当を覗かれ説明する。


「うん、うん仲良くやってるみたいで何より。お姉さん安心した」

「あ、そうだ柚木さんの家に旦那さんが挨拶に来るときってどんなでした?」

「んー? どうだったかなぁ。なんか来てパーーと挨拶して終わったようなぁ」


(相談する相手を間違えたか……)


「それより、なに? 挨拶に行くの? 結婚?」

「いえいえ、付き合ってますって報告ですよ」

「ふ~ん、でもそれってほぼ結婚報告じゃないのかな」

「そんなものですかねぇ……」


 そう言われるとそうなのかと言う思いに駆られる。

 それからも暫く柚木さんに根掘り葉掘り聞かれつつ弄られる。


 ***


 夜になって仕事場の更衣室でスマホを確認するとゆめからのメッセージが来ていた。


『今週の土曜日お休みとれそう? お母さんが会えないかって。連絡待ってる』


 昼の柚木さんと会話を思いだし、結婚の文字が頭にちらつきながら上司に休みの申請を申し出に行く。

 休みは無事に取るには取れたんだがそれは、たまたまいた柚木さんが上司へ猛プッシュしてくてたお陰だと言っておこう。

 お陰で俺は結婚秒読みだと社内で噂になる訳だが。


 ***


 帰る前にメッセージだけ送って、アパートにつくと良いタイミングで電話がかかってくる。


『あ、ひろくん! 電話大丈夫?』

「あぁ大丈夫」

『メッセージ読んだよ。今度の土曜日で大丈夫だった?』


 そこからは細かい時間を決め、持っていく挨拶の品の為にお父さん達の好みなんかを聞いて2人で持っていく挨拶の品を決めたりする。


「こんなところかな。あぁ緊張する。お父さんって優しいって言ってたよね。お姉さんのときはどうだった?」

『うん、優しいよ。お姉ちゃんのときはあんまり喋らなかったよ』

「それが怖いんだよな。まあ、なるようになるか。よし! それじゃあ俺ご飯食べるから」

『あ、ごめん。話長くなっちゃったね』

「ゆめの声聞けたから良いよ。そうそう、ウインナー上手に焼けてたよ」

『ほんとーー! やったぁ♪ 明日も頑張って焼くから』

「楽しみにしてる。それじゃあまた明日」

『ねえ、ひろくん』

「ん?」

『にへへへ、好きだよ!』

「!?」


 そこで電話を切られる。なんだこのモンモンとした感じは。顔が熱くなるのを感じる。言い逃げか……。

 ちょっと前までゆめに「可愛い」とか言うだけで恥ずかしがってて、それこそ可愛い反応してたんだが、今俺の方が手玉に取られてないか?

 主導権が移動を始めてる気がする。

 熱くなった顔を扇ぎながら鳥取の実家に電話をして今度の土曜日に挨拶に行くことを伝える。

 なんか両親2人とも盛り上がって結婚がどうとか言い出した。

 まあ喜んでるみたいだし良しとしよう。問題は明日の朝弁当を受け取りに行くときだ。

 ゆめに電話の返事をするべきなのか、普通にするべきなのか……やはり主導権握られてる!?

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