メシマズ☆キッチン

レシピ９ ゆめは観覧車の頂点にてメシマズを叫ぶ！（ちょっと過ぎたけどな）

　水族館から出て俺、裕仁はゆめと近くの市場を散策して近くで遅めのお昼を食べる。

　ゆめは水族館が本当に好きなんだろう。すごく楽しんでいた。

　でも途中からちょっと考え事を始めたみたいでぼーーとするときが増えた。恐らく大事な話のことを考えているんだろうな。

　聞きたくてはやる気持ちはあるがもう少し待とう。

　それからすぐに近場の小さな遊園地に行く。

「小さいけどジェットコースターとかあるんだね。小さいから逆に恐いかも」

　そう言ってちょっと伺うように見てくる。あぁこれは乗りたく無いってことか、まあ俺もあんまり好きじゃないし、ゆめはもっと苦手そうだな。

「俺、ジェットコースター怖いから乗るのやめよう。で、あれはどう？」

　俺は観覧車を指差す。ゆめが高所恐怖症なら無理だったが大丈夫らしいので乗ることにする。

「おぉぉわわ」

「ほら、気を付けて」

　観覧車のゴンドラに乗る際、何となく予想していたがゆめは乗り降りが下手だった。

　まあ手を握るチャンス……いやなんでもない。

　無事ゴンドラに乗った俺たちは海側の景色と町側の景色をみて楽しむ。

　さっき行ってた水族館のペンギンが上から見える。

　ゆっくりとゴンドラは上がっていく。

「そろそろ天辺だな」

　俺がボソッと言ったときゆめがスッと立ち上がる。

　俺は座っているのでゆめの方が視線が高くなる。

「ゆめ動いているときはあんまり立たない方がいいぞ」

　そう言っても聞こえていないのか真剣な表情で俺を見てくる。

　あぁ大事な話を言うつもりか、色々なことを想定して覚悟する。

　心なしか喉が乾く。

　ゆめは大きく深呼吸をするとまっすぐな瞳を向ける。

　緊張するがチラッと外を見るとゴンドラ天辺過ぎたなぁとかどうでもいいことがちょっと気になってしまう。

「ひろくん！」

　結構大きな声で名前を呼ばれたのでちょっとビックリしてしまう。ゆめの次の言葉を待つ。

　生唾を飲み込む。ゆめの口が開く。

「私はメシマズです！！」

「え……？」

「だからメシマズなのです！　美味しくないご飯作ります！　不味いです！　本当に凄く不味いです！　見た目も最悪です！！」

「おぉ、おお、えっと、はい」

　色んな可能性を考えていたがこれは考えてなかったぁ～。人生とは本当に先が見えないもんだな。

「それでこの間のカレーはお姉ちゃんが作りました。本当は作れないのに騙しましたんです。最低の人間です。ごめんなさいぃぃ……」

　息してないんじゃないかって位の勢いで喋っていたゆめが目に涙を溜めてボロボロ泣き出す。

「と、とりあえず座ろうかってもう降りる時間だ。降りよう、ほら」

　俺はゆめの手を取っておぼつかない足取りで降りるゆめを支え降りる。

　彼女が泣きながら降りるのをなだめる俺に対する係員の視線が冷たかった気がするがそれどころではない。

　ゆめを海沿いのベンチへ連れていって座らせる。必死っで泣き止もうとしているのは分かる。下手に言葉かけるより落ち着くのを待つか。

　それにしてもメシマズかぁ、ここまで縁があるとはね。これはもう向き合えってことか。

　必死で涙を堪えるゆめを見てここに来るまで悩んだだろうなってのを感じる。

　俺に次こそメシマズじゃない子をみたいな気持ちは間違いなく合ったし、カレー食べてゆめを送った後メシマズ人生とお別れだ！　って思ったもんなぁ。

　出したつもりはなかったけどゆめとの会話の中とかで料理出来るよな？　不味いもの作るの最低だみたいな態度が出てたかもしれない。

　そうゆうのがゆめを追い詰めたかもな……そんなゆめに出来ることは、メシマズと縁のある俺だからこそ出来ること。

　俺は１つの覚悟を決める。

　────────────────────

　分かっています、分かっているけど涙が止まらないのです。

　ここで私が泣くのはおかしいです。誰がどう考えてもおかしいです。

　そもそも私が最初から料理苦手だって言ってれば起きなかった事です。

　見栄はってカレーを作ると言ったのが間違いです。しかもお姉ちゃんに頼んで作ってもらうとか最低です。

　泣きたいのはひろくんの方だと思います。

　メシマズを告白したときそのまま置いていかれて、ゴンドラから上手く降りれず観覧車をもう一周するんだろうなと覚悟しました。

　でもちゃんと降ろしてくれて今、隣に居てくれています。

　別れる覚悟をしてたけど泣き止もうと顔をあげたときに優しい目で見ているひろくんの顔を見たら無理です。別れたくないです。

　私にこの人以外誰がいるのでしょう。

「ここ、海風があたって寒いな、ゆめ寒くないか？」

「大丈夫」

　と言いながら私は首を横に振る。思っていたより小さな声になる。

「そっか」

　少しの間の沈黙。

「ごめんな、ゆめが悩んでたのに気づけなくて」

「！？」

「今日もさ、そんな悩んだままで来させて楽しめなかっただろう。俺が勝手に楽しいだろうって計画したしな」

（ごめんなさい、物凄く楽しんでました。イルカとかそれはもう楽しんでました。ひろくんの計画は成功してます）

　そう声に出そうとするが上手く出ず必死に首を横に振る。

　と言うかなんでひろくんが謝ってるんだろ。この状況あきらかにおかしい。

「違う、私が悪いの。だって嘘ついて、だましてえぇ」

　ああダメだ涙がまた出てくる、必死で押さえようとするとしゃっくりの様な泣き方になってしまう。

　ヒック、ヒック声を出す私をひろくんが優しく抱き締めてくれる。

　あぁ何から何までダメだ私。ひろくんの優しさに甘えてばかりで今のままじゃいけない……けど今だけ、泣き止んだら変わるから今だけ。

　どれぐらい時間がたったか分からない落ち着いた私はゆっくりとひろくんの腕から離れる。名残惜しいけど。

「私、料理上手くなる。練習するから、私頑張るから、その……」

　私の決意表明。こんなので嘘ついたことが許される訳では無いけど今出来る精一杯の決意表明をひろくんが私の頭に手をポンと置いて止める。

「いや、俺とゆめ2人で頑張ろうな」

「！？」

「でも私、ひろくんを騙して、それにメシマズは私が悪いから自分で直さなきゃ」

「次はゆめが作ってくれるんだろ。メシマズを直すなら一緒にやろう2人の問題だろ」

　そう言って手を握ってくれるひろくんの顔を見て顔が熱くなる。

　あ～～もうダメ……そんな笑顔で言われたら、もうね、えっとはい、好きです。大好きです！

　人目も憚（はばか）らずひろくんの胸に飛び込んでしまうわけです。