レシピ7 ゆめ!メシマズの力に目覚める!(正しくは気付く!)

 付き合っているときに挨拶に行く。まあ本音を言えば行きたくない。

 ゆめを好きなのとお父さんに会うのは全然方向性が違う。会わなくて良いなら会いたくないものだ。


 あの独特な緊張感はなんなんだろう。当たり前だがどのお父さんも普通の人間だ。

 もし会社やその辺で会ったりしてたら普通に接する事が出来る自信はある。


 だが、一度ひとたび彼女の父親と言う称号を背負った瞬間どんな冴えないおじさんでもとてつもなく強い者へとランクアップする。

 並みの勇者じゃ敵わない魔王と化する。異世界になんていかなくても最強になれるチートスキルみたいなもんだ。

 ただ時期と対象が限定されるのがネックである。


 今回は「付き合ってます」って顔見せする目的だけど、これが「結婚させて下さい」とかだったら本当に殺されるんじゃないかと要らぬ想像をする。


 で、今ゆめと付き合って大体4ヶ月。1度顔を見せに行く。これで俺はゆめの両親にとって「謎の人物」から「彼氏の裕仁」へとランクアップ出来るわけだ。


 この行為、ゆめの両親の為でもあるが今後の自分達の為でもある。

 顔を知ってもらえれば今後旅行に行くとか、お泊まり時でもスムーズに行く。

 そう言う打算が今回の挨拶に無いわけではない。したたかにいきる男、裕仁である。

 そうは言っても会いに行くのは緊張するけど。


 なので世の彼氏諸君は挨拶に行くことをオススメするよ。彼女に本気を見せるチャンスでもあるしね。


 では現実に戻ろう。


 ***


「でどうかな? 俺だけで決めれることじゃないし、ゆめはどう思う?」


 ゆめがうどんを咥えて目を丸くしている。とりあえず啜るように促して落ち着かせる。

 なんか今日はいつも以上にボーーとしている気がするけど、やっぱり体調悪いのかな。言うの今日じゃなかっただろうか。

 自分の事を優先した事に後悔の念を持ってしまう。


「えっとね。お母さんもひろくんに会いたいって。連れて来なさいって言われたんだ」


 水を飲んで落ち着いたゆめが言うには両親、主に母親が会いたがってると言う。

 タイミング的には丁度良さそうだ。後はゆめ次第か。


「私はひろくんをお母さんたちに紹介したい。私の方こそお願いします」


 ゆめがペコリと頭を下げる。これで後は日程の調整と言ったところだ。

 とりあえず近々会いたいとゆめからお母さん達に伝えてもらうことをお願いしておく。


 ホッとしたけどなんか緊張もしてきた。


 この後は町に出てまったりとデートを楽しんだ。ゆめとの関係が一歩進んだ気がして嬉しい1日だった。


 ────────────────────


 私こと夢弓は我が家のベットでゴロゴロしています。

 ひろくんが会いたいと言ってる事をお母さん達に伝えたところ、お母さんは喜んだ。お父さんはムスーーってしてた。


「はあ~」


 本日何度目かのため息をつく。

 ひろくんは真剣に私のことを思ってくれてるってことだよね。

 私はこれで良いのかなぁ。


 こんな私だけど仕事はちゃんと出来てると思う。だけど料理だけは苦手なんだよね。

 不器用なのは前提にあるとして、台所に立つと、こう色んな事がぐるぐる回って気がつけば見た目も味も悪い料理が完成してしまう。


 思えば高校1年の時に告白されて浮き足だった私は2日後の動物園デートにて張り切って作ったお弁当を持って行って


「不味い……嫌がらせかよ?」


 って言われた時から自分の料理下手さは認識はしているんだよね。

 下手くそな玉子焼きはもちろん、冷凍の唐揚げを解凍した後に落として、それを水道のお湯で洗って入れてぶよぶよにして、デザートがいるかもってチョコ入れたら溶けてお弁当の中の食べ物をトッピングしてカオスなことに……

 それでそのままそこでお別れと……


 金曜日の放課後に告白されて日曜日のお昼で別れると言う驚きのスピードだった。

 実質過ごした時間なんて移動含めて4、5時間じゃなかろうか。


 それ以来私は美味しく作ることに必死になった。料理本からネットなど様々なものを使い美味しいと言われるものを試したりして研究した。

 ただ元の不器用さも手伝って次々に不味いものを作り始める。

 お母さんやお姉ちゃんに怒られ作る料理は益々方向性を見失いそのうち何が美味しいか分からなくなる。


 そして何よりも私は味覚に自信がない。チョコトッピングの唐揚げでも食べれない事はなかった。大体の物は食べれる自信がある。

 それに加え不器用さなのと何か思い付いたらとりあえずやってしまう自分が嫌になる。


 練習しても上手く出来ず最後に作ったシーフードカレーで、お母さんから一人で料理することのストップがかかった。

 

 最初はこっそり練習してたけど怒られて段々やらなくなる。

 そのうちたまに手伝いをするぐらいになってしまい今に至る。

 この間のもカレーを作っているのを見たことが沢山あるし、記憶の中では簡単そうだったから出来そうって思ったんだけど、結局お姉ちゃんを頼ってしまった。



 それでもひろくんの為に作れるようになりたい。

 でもその前にやらなければいけないことがある。


 ***


 次の日の朝、私は早く起きて台所の冷蔵庫を開けて献立を思案する。中にあるもので作るのが前提だ。

『食パン+鯖の切身+レタス』

 と言ったところかな。食パンを半分に切って

 焼いた切身を挟む。ハンバーガー的な?


 ハンバーガー……味はソース? いやケチャップかな? 食パンを半分に切ってトースターへ。

 鯖を焼こうとするとパックに付いているラベルが目に入る。『塩』と書かれている。

 塩+ケチャップ……塩が邪魔っぽい。


 塩を落とすために鯖の切身を湯煎する。身が縮まる、1枚じゃ足りないかな? 2枚投入。

 その後フライパンで焼く為に油を探す。

 ん? 冷蔵庫の隅に牛脂を発見する。牛脂って油みたいに使えたような……牛脂をフライパンへ投入し湯煎した鯖を投入。

 鯖の身がフライパンにこびりつくのでヘラで剥がすが身がぼろぼろに。


 この時点で中々にひどい匂いがしている。

 牛脂と魚は合わない? 焼けた食パンにレタスを敷いてケチャップをかけ鯖を置いたらレタス、パンの順で挟む。


 変な匂いがする……味音痴であっても匂いはちょっと気になる。少し食べてみる生臭い。魚と牛の油が混ざって口の中がベトベトする。これは味音痴でも不味いと思う。



 そんな匂いにつられてお母さん達が起きてやってくる。


「ゆめ、あんた朝からなんしようとね?

 匂い凄い事になっとうよ」


 お母さんが鼻を押さえながら台所の様子を見ている。


「ねえお母さん、私料理出来ない」

「? だから練習してるんじゃないの?」

「うん、そう。練習すればすぐにどうにかなると思ってた。でも今の私はおっちょこちょいで、直感的に考えてしまうし更に味音痴……」


 お母さんがさっきまで眠そうにしてた目を大きくして心配そうに見ている。


「私分かった」


 お母さんとお父様が心配そうに私の言葉を待っているのを感じる。


『私はメシマズだ!!』


「えっ?」


 私の心からの叫びと渾身の告白……に対して両親の反応の薄いこと。

 娘が悩みに悩んでその答え出し、打ち明けたと言うのに。


「え、あ、うん。そ、そだねぇ」


 そしてこのお母さんのなんとも言えない顔。


「更に決めました! 私はひろくんにこの秘密を打ち明ける!」


 そう私は今ここで「メシマズ」宣言をする。一世一代の告白だ。


 嫌われるかもしれない。


 でもこのままじゃ駄目だ!


 ひろくんは真剣に考えてくれている。私が偽るのは卑怯すぎる。


 少し冷めた目で見る両親の元、私は決意する。本当の私をひろくんに見てもらうことを。


 その日の夜、仕事が終わった私はひろくんに大切な話があること、直接会って話したいことを電話で伝えるのでした。




 生臭いサバーガーですが私とお父さんで頑張って食べました。

 お父さんには食べなくていいって言ったんですが勿体無いからと……本当にごめんなさい。

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