04話 ファンタジズム


 ピンポーンッ。


「…?」


 帰宅後、落ち着く間もなくインターホンが鳴った。

 荷物を頼んだ覚えはない。

 ということは両親宛である可能性が高い。

 俺はすぐに玄関に向かった。


「お届け物です。」

「ありがとうございます。」

「宛名に間違いありませんか?」

「…?はい、確かにそうですけど。」

(この宛名…。)

「どうかされましたか?」

「いいえ、その…大丈夫です。」


 俺はとりあえずその荷物を受け取り、リビングへ戻った。

 荷物はとても大きな段ボールだった。

 縦1メートル、横2メートルくらい。

 父さんの部屋で埃をかぶっているゴルフバックよりもでかい。

 そして先ほど驚かされた宛名を見る。


「…夢霧無?住所公開なんてしてない。なんでわかったんだ?」


 口に出したものの、俺は今この家に一人だ。

 答えなんて帰ってくるはずがない。

 不安のせいで声を出したくなっただけだ。


「発送者は…株式会社:Fantaism(ファンタジズム)?」


 開封する前にスマホで企業名を検索した。

 宛名が夢霧無である以上、配送先を間違えているわけではない。

 しかし、検索には何も引っかからなかった。


「…とりあえず開けてみるしかないか。」


 一応電話番号の記載はあるが、流石に怖い。

 大きな段ボールを引きはがすと、そこには真っ黒な箱が入っていた。

 黒い箱に関してはいくら触っても、観察しても、開けられる気がしない。

 ただ中心部には、大きなQRコードが付いている。

 とりあえず読み取るか5分程熟考し、結局は読み取った。

 するとアプリのダウンロード画面に移行した。

 アプリ名は企業名と同じくファンタジズム。

 不安だったが、仕方なくダウンロードした。

 そしてアプリを起動するも、真っ黒な画面に


『QR』


 とだけ書かれている。

 もう一度読み取れと言う意味なのは分かる。

 だがどことなく市役所でたらいまわしにあっている気分だ。

 もはやただ目の前の事象をこなすだけになっていた俺は、今度は少しも迷うこともなく、黒い箱の大きなQRコードを読み取った。


『Register(レジスター)&OPEN』


 レジスター…登録されたってことか。

 そうして黒い箱がようやく開いた。

 昔見たことのある父さんの工具箱のように、変形ロボットみたいにかっこよく何層にも別れながら箱が開いた。

 ゲーマーあるあるだが、こういうギミックは大好きだ。

 そして一番上の段に入っているものに関しては、直ぐにわかった。


「…刀だ。」


 緑色の下地に黒いラインの入った鍔のない刀。

 もちろん今は鞘に入っている。

 鉄の色とかではなく、現代的なデザインだ。

 そして一番目立つその上に、一枚の手紙が乗っていた。


―――――――――――――――――――――――――――――

 夢霧無様。


 動画、拝見させて頂きました。

 非常に面白い動画だと感銘を受けました。

 

 弊社はここ最近武器製造を始めた、新規企業です。

 あなたと共に歩み、有名になれたらと思います。

 

 弊社はあなたとスポンサー契約を結びたいと考えております。

 いくつか装備をお送りしますので、どうぞご使用ください。

 

 気に入れば是非ご連絡を。


 株式会社:Fantaism(ファンタジズム)

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「…動画って…まだ一本目だぞ。」


 俺はすぐにスマホを手に取り、夢霧無のチャンネルを開いた。


「…ッ!?」


 バズっている。

 昨夜確認した時には再生回数0回だったのに。


 126万回


 しばらく唖然としながら画面を見つめた。

 そしてすぐに脳を再起動させる。

 次に確認したのは登録者数だ。

 

 1.5万人


 再生回数に登録者が伴わないのはよくあることだ。

 多少シュンとしたが、無難といえば無難だろう。


「でも、凄いなこれ。やばい、ドキドキする。」


 投稿してからまだ一日しか経っていない。

 この荷物を届けるのも凄まじい速さだ。

 あらかじめ作ってあった既存の商品なのか?

 

 そんなことを考えていると、スマホに通知が来た。

 アプリ、ファンタジズムの通知だ。

 アプリを再度開いた。


『welcome』


 という文字が表示されたと思うと、画面が切り替わった。

 黒を基調としているのは変わらないが、どうもこのアプリは説明書も兼ねているようだ。

 箱とスマホを"Bluetooth(ブルートゥース)"で接続できるらしい。

 早速連動させた。

 すると箱に入っている物のリストが並んだ。

 画面には


『◇box

 ◇blade(ブレイド)

 ◇hoodie(フーディ)

 ◇Sweat(スウェット) pants(パンツ)』


 というように文字が並んでいた。

 刀が入っていることは分かったが、フーディーなんて聞いたことがない。

 早速該当箇所をタップすると、その詳細が表示された。


「そうか…フーディはパーカーのことか。」


 つまり俺が動画で着ていた服を送ってくれたのか。

 スウェットパンツなんて細かいところまで。

 それぞれをタップすると、洋服に興味深い機能があることが発覚した。

 俺は早速袖を通し、リビングにある姿鏡の前に立った。


「上下漆黒、ここまでは俺が着ていたまんまだな。」


 説明書通りパーカーのファスナーを上げると、口元までしっかり隠れる。

 これでマスクが必要なくなった。

 次にパーカーに魔力を込める。

 するとパーカーは一気に空気を抜くように俺の体に密着した。

 下のスウェットも同じで、ピッタリとフィット。

 しかし、動き難さは全くない。

 今までも動きやすかったが、機動性が一気に向上した。

 基調も黒色から緑色へ変化し、至る箇所に黒いラインが入っている。

 デザインもかなりカッコいい、俺好みだ。

 背中には"夢霧無"という文字が黒で書かれている。

 さらにもっとも注目していた機能を実験。


《初めまして。俺の名前は"夢霧無"です。》


 そう、パーカーの口元の箇所には変声機が付いている。

 声の感じはまさしくおっとりボイスだ。

 この声が出せても、おっとりボイスで編集することに変わりはない。

 だがもしも夢霧無状態で発声する事態になっても、これで身バレしない。

 細部までこだわった設計だ。

 服装に関する機能はこれで終わり、十分すぎる。

 次に刀を手に取り、ゆっくりと鞘から引き抜いた。

 峰に当たる背部分は黒、刃に当たる部分は全て緑だ。

 近距離でよく見ると、全体的にダマスカス鋼の包丁みたいに細かく波打っており、非常にかっこいい。

 なんというか、中二心をくすぐられる。


「そうか、緑色なら仮に夜戦ってても目立つ。色々配慮されてるんだな。」


 これなら動画上でも明るさを調整すれば、撮影時が夜でも見やすい。

 街灯で十分に映えるだろう。


「…めちゃくちゃ気に入った。デザインはな。」


 有名ECサイトでレビューできるなら、★5だな。

 だが問題はデザインだけじゃない、戦闘だ。

 仮にこの刀が斬れなかったりしたら…。

 俺はそう考えながら刀を眺めた。

 すると柄部分に"夢霧無"と書かれている。

 刀の名前まで"夢霧無"って、一日の仕事量じゃない。

 俺はとりあえず冷蔵庫から大根を取り出し、それを斬った。

 するとほとんど力を入れずに大根が斬れた。

 味わったことのない異次元の切れ味だ。

 しかし大根が斬れるのは分かったが、相手は動く魔物。

 そもそも刀なんて扱ったことがない。

 実戦で斬れるのかかなり心配だ。

 とりあえず今日は月曜日だから、金曜日まで練習しよう。

 それでその成果を土曜日試す。

 そこで戦闘に支障がなければ連絡してみよう。


 それにしてもファンタジズム…一体何者なんだ。

 公開してない住所までバレている。

 住所がばれている以上、どうせ逃げることはできない。


 とりあえず今日は、100万回再生記念ゲームパーティーを開こう。

 それで誤魔化そう。

 不安だけど、"レバタイン神父"よりは怖くないはずだ。

 きっと大丈夫、まずは一つずつ、丁寧に。

 いきなりハードモードだが、何とかやれるはず。





 ステータス:夢霧無

 登録者:1.5万人

 動画数:1本 

 再生時間:約10万5千時間

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