第12話 ローディは幸運の☆。

 P子さんが彼女達と出会ったのは、そう昔のことではない。知り合いの知り合いからの紹介という奴だった。

 彼女は交友範囲が狭いと思っているが、実際はそう狭くはない。

 彼女「が」知らない人は多いが、彼女「を」知っている人が多いのだ。それで結局、顔も知らない奴が意外によく声をかけてきて、また自分の知り合いを紹介したりする。

 P子さん自身はあまり人の顔を覚えるのが得意ではないし、人とつるんでどうこうしようというタイプでもないので、紹介された大半は忘れてしまうのだが、紹介した側では新しい知り合いが増えている訳である。

 で、その知り合いの知り合い、程度のギタリストの一人が、友人のバンドだけど、とちょうどある日暇つぶしに来ていたライヴハウスで彼女にすすめた。

 すすめた側は、P子さんの見ている様子が別に面白そうとも何とでもないように見えたので、気に入らなかったのかな、とやや危惧したらしいが、その数日後、彼はP子さんがメンバーと直接話しているのを目撃している。

 LUCKYSTAR側でも、PH7のことは結構耳にしていたらしい。地盤が違うので、直接見たことはない、と言われたら、P子さんにしては珍しく、ライヴハウス「オキシドール7」のエノキ店長に直接頼んで、チケットを割引で人数分都合してもらっていた。

 ―――というように、LUCKYSTARというのは、P子さんが珍しくも非常に気に入っているバンドだったのだ。

 ちなみに「桜」は二代目のヴォーカルである。

 彼女はもともとオキシで紹介されたローディ用の人材だったが、P子さんを介して知り合い、意気投合してバンドに入ってしまったのだ。

 まあ巡り合わせと言ってしまえばそれまでであるが。

 できればもっとたくさんの人に見てもらいたいとはP子さんも思うらしい。

 とは言え、そこはそれ、P子さんであって、HISAKAではないから、そう言った実際の機動力には欠ける。

 そこでHISAKAに相談してみると、一度会ってみたい、とのこと。HISAKAはオキシの店長に彼女達を紹介して、PH7とLUCKYSTARの交友も始まった訳である。

 だが交友とは言え、それは対等という訳では決してない。別にHISAKAがそう強制した訳ではないが、自然と、LUCKYSTARはPH7の舎弟…いや女性バンドだから舎妹バンドと化した訳である。

 P子さんは気付いてはいたが、あえて口にはしない。

 実際、最近はPH7にそうやって近付いて来るものも増えてきている。まずローディとして顔を売っておいて…

 だがHISAKAはどういう基準があるのか、結構な数入れては大半をすぐに切っている。

 P子さんはLUCKYSTAR以外には手を出していないし、特にそういう縄張りがどうのということには興味などさらさらないので、昨日いたローディが今日はいなかったとしても、結構「ふーん」の一言で済ませてしまう傾向にある。

 FAVやTEARのつてで入ってくる者もいるが、割合勤勉なように見えるTEARの友人や後輩が出入りが激しいのに対し、割とお調子者のように見えるFAVの知り合いは結構長く居着いていた。

 P子さんは一度だけHISAKAにどうして辞めさせたのか聞いたことがあるらしい。だがHISAKAは軽く微笑んで「いい人なんだけどね」と言ったきりだったと言う。

 ただ、何となく残る者の傾向がだんだん似てきているな、とP子さんも気付いていた。別に性格が合うとかではない。むしろ性格よりも音楽性よりも、「野望」この一点のように思えた。


 HISAKAは野望持ち好きだからなあ…


 そう思ってしまえばまあ別に構わないのだ、とはP子さんも思うらしい。

 そしてそう思ってしまうところが、以前タイセイに指摘された、自分とHISAKAの相似点なのではないか、と思うのだと言う。



 数日して、二人の知り合いが顔を見せた。

 そしてあたしはその一人を見て驚き半分、笑ってしまった。


「まーがれっと?」

「はいな。お久しぶりです」


 TEARに負けない豪快な笑顔の金髪がそこには居た。

 もう一人は初御目見えだった。「チエ」というらしい。

 そして5月も半ばとなる頃に、PH7は全国ツアーへと出かけたのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る