第32話 感じかたは違えど

 未咲「みんなそれぞれ見かたや感じかたは違うんだろうけど、

    それでもやっぱりおんなじ世界を生きているんだよね……」

 玲香「どうしたのよ、未咲らしくない顔して」

 未咲「あぁ、玲香ちゃん……ちょっといろいろ考えてて」


 浮かない表情の未咲。ひさしく見なかった気がする。


 玲香「これ飲む? コンビニで見かけた新感覚ジュースなんだけど」

 未咲「うーん、おしっこ行きたくなりそうだからいいかな……」

 玲香「ほんとあんたってなんでもそれ基準ね……

    ちょっとはこういうことに敏感になりなさいよ」

 未咲「つとめてはいるんだけど……」


 なぜか未咲はこういうところは鈍かったりする。

 いまでも変わらず苺ミルクを好んで飲んでいる、いわゆるこども舌のままだ。


 玲香「まぁ、あんたがそれでいいのならいいけど」


 玲香ちゃんは淡々と、そう興味なさげに言うだけ。

 これも冬の寒さのせいなのかな……考えたって答えは出ないわけだけど。


 うみ「おいおい、未咲がそんな顔してたらせっかくの空気が澱んじまうぜ」


 テスト期間が終わり、ひと息つけると思ったらこれだ。

 ちょっとくらいはこうも思いたくなる。


 ロコ「未咲ちゃんみてみて~。これ、新しく出たかわいいぬいぐるみ~」

 未咲「かわいい、かなぁ……?」


 ところどころ汚れているように見えるそれに、なんといっていいかわからない。


 ロコ「ずーっと欲しくて、この間ついに勇気出して沢山お金出して買ったの~」

 未咲「そ、それはよかった、ね……」


 ちらっと春泉ちゃんのほうを向いて、それとなくヘルプを出してみる。

 気づいてくれなかった。


 ロコ「よかったらこれのミニチュアサイズのやつ、買ってあげるよ~?

    あっ、『買う』って言っても、またおこづかいもらってからね~」

 未咲「遠慮しておきます……」


 少し悲しそうな顔をしたけど、すぐ柔和なそれに戻るロコちゃんだった。


 未咲「そういえば春泉ちゃん、さっきから何をしてるのかな……?」


 まじめそうな顔して、勉強かな? そう思っていたら。


 春泉「よし、できた!」


 会心の表情をして、春泉ちゃんが言った。


 未咲「何ができたんだろう……」


 若干申し訳ないなと思いながら、春泉ちゃんの机をのぞき見てみると。

 そこには、桜の下で笑っている五人のわたしたちが描かれていた。


 未咲「……!」


 思わず目を見開いて、なぜだか泣きそうになった。


 春泉「えへへ……」


 いままで誰にも見せたことないくらいの笑みを、ハルミは浮かべていた。

 それくらいにここで過ごした時間は、とってもたいせつなものだった。


 春泉「いろいろあったけど、ハルミはずーっとこのクラスがいいな……」


 もちろん永遠にこのままでいられるはずはないけど、

 ついそんなことを考えてしまうくらい、ハルミは満たされていた。


 春泉「あぁ、なんだかこの季節も、そのうち終わりそうな気がする……」


 そんなことも考えていた。ほんとうかどうかなんて、ハルミは知らない。


 春泉「ふぁぁ……ちょっとねむくなってきた……」


 陽気にあてられて、ハルミは机に突っ伏した。


 未咲「ってちょっとちょっと! 寝ちゃだめだよ、春泉ちゃん!」

 春泉「ふぇっ? あぁ、ミサキ……ソーリー、ついねむくなっちゃって」

 未咲「授業、はじまるよ?」

 春泉「……そうだね」


 やっぱり冬は、続くみたいだ。

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