第21話 苛々なうみちゃん

 うみ「いらいらいらいら……」


 いつにもなく不機嫌そうなうみちゃん。

 話し掛けようか一瞬迷ったけど、意を決してそうすることにした。


 未咲「あの、うみちゃん……?」

 うみ「あ?」

 未咲「もしかしなくてもアレの日、かな……?」

 うみ「ちっげーよ、いいから黙れ」

 未咲「あぅ、ごめん……」


 だってその怒りかた、どう見たってそうにしか見えなかったし。

 ただ、このへんの話はとってもデリケートなので慎重にいくべきだった。


 瑞穂「えっと……よかったらお菓子食べます?」

 うみ「おっ、めずらしく気が利くな、瑞穂!

    でもな、いまのあたしはあいにくそういう気分じゃぁないんだよ。

    寂しくむさぼり食ってろってんだ、じゃないと大きくなれないぞ?」

 瑞穂「最後のは余計なお世話です!」

 未咲「あっ、もしかして最近休みがちな春泉ちゃんのことだったりする?」

 うみ「いやまぁそれもあるけど……」


 そうしてひと呼吸おいたあと、うみちゃんが再び口を開いた。


 うみ「最近の……お前らの関係についてだよ」

 未咲「?」


 思い当たる節が、どこにも見当たらなかった。

 わたしが鈍感なだけかもしれないけど。


 うみ「やれそっちを見てみれば、あわやキス寸前のところだったり

    挙句の果てには下半身を水浸しにしてじゃれ合ってるみたいじゃないか!」

 未咲「それがどうかしたの? それっていつものわたしたちだよね?」

 うみ「や、なんか最近になって、これってどう考えても普通じゃないよな、って」

 未咲「そうかな?」

 うみ「お前らにとってはそうでも、見ているこっちからしたらけっこう毒だぞ!」


 はっきり言って。


 未咲「それはちょっと誤解があるというか……わたしたちはこれが普通なのに」

 うみ「あまつさえ! このあたしが見ている前で……あぁなんて破廉恥な……」


 うみちゃんが人一倍そういうのに敏感なのは薄々感じてはいた。

 だけど……なんか思ってることと少し違う雰囲気がうみちゃんから漂っている。


 うみ「あんなことやこんなこと……お前ら本当にただの幼馴染なんだろうな?!」

 未咲「それはそう、だけど……」


 いまいちはっきりしない返事。やっぱりそうか、こいつらデキあってたんだ!

 声がいちいち大きくなっちまう。あぁもうやだ、早くここから逃げたい……!


 うみ「あたしも混ぜろよ! どっかに入る隙くらいあるよな?! 入れてくれ!」

 未咲「混ざりたいんだったら、勝手に混ざってくれてもいいのに……」


 プライドか何かが邪魔をして、うみちゃんをそうさせないらしい。

 これまでずっと想像で補ってきたのかと思うと、ちょっとかわいそう。


 未咲「おいでよ、うみちゃん。わたしがいい子いい子してあげるから」

 うみ「そういうのはいいんだよ、いつものお前らみたいのがいいんだよ……!」


 と、何やらぶつぶつと願望をつぶやいている。

 自然にできればいいんだけど、こういうのは意識すると逆にできなかったり。


 うみ「どうしたら未咲らみたいな関係が築けるんだよーっ!

    あたしもうわからん……いっそ手首とか切っちまおうかな……」

 未咲「そこまで思い詰めることはないと思うよ……」


 年数だけではない何かがふたりにはきっとあるはず。でもその正体が掴めない。


 未咲「抱きしめられるだけでも十分変わるはずだよ? ほら、遠慮せずに……」

 うみ「どうも信じがてぇなぁ……」


 言いつつ、吸い寄せられるように言うほどない未咲の胸におさまるあたし。


 うみ「まぁ、落ち着くんだけどさぁ……なんか足んねーんだよなぁ……」

 未咲「何が足りないの? 教えて、教えて?」

 うみ「そりゃ、ごにょごにょ、とかだな……」

 未咲「えっ、何? ごめん、よく聞こえなかったんだけど……」

 うみ「なんでもねーよ。はい、もうこーいうのおしまい! 離せって!」

 未咲「えー、せっかくいい感じになりそうだったのに?」

 うみ「いーんだよ別に、あたしは瑞穂いじくり倒せればそれで満足だしさっ!」


 半ば強引に、わたしのもとから離れたうみちゃん。なぜか少し淋しそうだった。


 うみ「外の世界だっていろいろあるし、別にこれひとつに拘泥しなくても……」


 言いながら、よりいっそう悲しそうな顔をしているのはなぜだろう。


 うみ「うわーん、瑞穂ー! なぐさめてくれー!」

 瑞穂「うわっとっと……もう、なんですか突然甘えちゃって。子どもみたい♪」

 うみ「うるせー! 黙って構えー!」


 この日は何かとうるさいうみちゃんだった。

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