女性恐怖症の俺がエロゲ攻略なんて不可能だろ!

@ningen0000

一章~幼少期

プロローグ

――風が頬を撫でる。


まだ春寒の残っている冷たい空気の中に、何やら芽や花のにおいが交じっている。都会では感じることのできない空気。

都会の環境に飽き飽きしていた時、テレビで見て田舎を羨ましく思った光景が今まさに肌で感じることが出来ている。

木刀の素振りをやめ、汗を拭きながら空を仰ぐ。遥か高いところで豆粒ぐらいのダイヤモンドのようなものが白くチカチカ輝いていて、眩しくてとても目を開けていられない。


疲れていたことが忘れるほどの美しい光景。まさに自分が追い求めていた世界。

人混みと排気ガスでそこらを歩くだけでも体力、精神ともに削られていくことのない、なんて素晴らしい場所であろうか。


空を見上げるのをやめ、前へと歩ぎだすと川があった。

川が光っている。鏡に光を当てたように反射する日差しが、川自身が発光していると勘違いさせるほどだった。

そんな川から虹色の魚が飛び跳ねる。今まで生まれてきてからずっとこの景色を見て過ごしてきた。いくら目を擦っても魚の色は変わらない。この世界は自分がいた世界と全く違うのだと気づくのにそう時間はかからなかった。


「あ! ルウシェ君こんなところにいたんだ~。探してたんだよ、もぉー」


そんな至福の時間を味わっている時、急に後ろから声をかけられた。

ピンク髪のおっとりとした雰囲気を出している女の子。同じ年の十歳。画面で見た姿そのままである。将来美人になることが約束されているだろう。

俺のいた世界では小学生くらいか。きっと恋を覚え始めた男子に構ってほしくて虐められるのは確定しているのではないだろうか。


そんな余計なことを考えている間にその女の子が気が付けば近づくには過ぎるほどの距離にいた。あと一歩踏み出せばキスもできるであろう距離。年頃の男の子であれば間違いなく赤面するであろう場面。


だが俺は、背筋が


「チョットチカインジャナイカナ、ルナサン」


「も~、どうしてそんなこと言うの? せっかくつめた距離も離すし……」


じりじりと後ろに下がれば、離れた距離を埋めるように幼馴染のルナも近づいてくる。


……なに? こんなに将来有望株の女の子から逃げるとか頭おかしいだと?


確かにそうだろう。でも仕方ないじゃない。


俺、女性恐怖症だもの……。







◇◆◇◆◇◆◇






――エターナルアドベンチャー、幅広い紳士に好かれたファンタジー世界のエロゲである。魅力あるヒロインが多数出演し、その全てにエロシーンが用意されている。所詮ハーレム物だ。加えて主人公は負けなしの最強キャラ。寝取られ要素もなしで安心して初心者もできる作品だった。俺も女性恐怖症ではあるがホモというわけではない、むしろ人一倍女性の体には興味があったほうである。悲しいことに自分の体質が現実の女性を受け付けないため、その分エロゲにのめり込んだ。当然このゲームもやったことある。何回もお世話になったため、ある程度ストーリーは覚えているほどだ。


「(……だからこの状態は信じたくなかったんだけどなぁ)」


「どうしたの~? そんなに見つめられると照れちゃうよ……」


先ほども述べたように俺は女性恐怖症だ、それもかなり重度な。女性が半径一メートル以内に近づくと、心臓が締め付けられ上手く喋られなくなる。加えて俺の体を異性に触られようものなら穴という穴から汗が吹き出し、脱水症状になるんじゃね、と思うほどである。これは死ぬ気で耐えたらなんとかなるが正直ごめんである。


目の前で顔を赤くしている女の子はルナというこの世界のヒロインの一人。正直言って関わるつもりなんてなかった。


お前そんなこと言って一緒にいるじゃん、どうせ童貞拗らせた嘘だろ。とか思われるかもしれないがマジなのだ。今なお距離をつめようとしてくるルナから速足で遠ざかりながら、俺は神を怨む。初めて自分の顔を見たとき絶望した。この世界では珍しい黒髪に日本人離れした顔。これだけならまだ他人の空似だと思えたが、名前まで同じだとどうしようもできなかった。


そう、俺は憑依してしまったのだ。この世界の主人公、ルウシェに。


さて、ここで先ほどの言葉を思い返してほしい。ここはエロゲの世界で、主人公最強で、シナリオをある程度覚えているためハーレムを作ることも普通の人よりしやすい。


普通の一般男性なら狂喜乱舞する展開。そりゃあこれだけ条件がそろっていれば心が躍るだろう。むしろこれで文句を言おうものならそれ以上何を望むのだと言われるに違いない。


なら誰か変わってくれ。一切考えることなく譲っていい。


正直に言おう、ここがエターナルアドベンチャーと気づくまで俺もテンションマックスだったのだ。魔法はあるし、ゲームでしか見たことのなかった魔物に感動を覚えた。それに、前の世界に未練なんてないしな。


だがハーレム物のエロゲとなると話は変わる、それも主人公に憑依となるとなおさらだ。


もう一度言おう、俺は女性恐怖症なのである。それもかなりの重度な。


そのため俺にとってこの世界は地獄へと変化する。


このエターナルアドベンチャーの世界、確かにストレスフリーであり、寝取られ要素もない。、という前置きはあるが。これさえなければ主人公に憑依したとかでもガン無視で一人山奥で引きこもっていただろう。


この世界のヒロインたちの好感度を手っ取り早く上げさせるためなのか、基本的にヒロインたちはよくピンチになる。それを主人公が颯爽と助けるという展開がよくあるのだ。好感度を上げたいし、助けなければ凌辱シーンが流れてゲームオーバーとなるので助けないという選択を選ぶ意味はあまりない。興味本位でそのイベントシーンをみたことあるが本当に胸糞だったので二度とヒロインを見捨てる選択をするのはやめた。


……ここまで言うと察していただけただろうか。


俺が動かなければヒロインたちは間違いなくバッドエンドを迎える。これは申し訳ないがルナとのとある件で確信した。その時は何とか無事だった。その経験からこの世界はある程度シナリオに沿って動いていることが分かった。だから、俺が女性恐怖症だからヒロインなんてしったこっちゃねぇ!と見捨てるとする。一時の平穏は手に入れることはできるだろう。だがその平穏はヒロインたちの犠牲の上に成り立っていると考えた瞬間、俺は自己嫌悪と悲しみで完全と打ちひしがれるだろう。


だからこそ俺は誓ったのだ、ヒロインの好感度を上げることなく魔王を討伐することを。


ゲームではなかったエンディングだが、ここは現実だ。姿を隠し、胸糞イベントを全て排除して魔王を討伐すればヒロインたちと深く関わりあう必要はなくなるだろう。なぜなら原作はその時点で終わったからな、あとは好きにしていいだろう。


しかし、これはとても困難である。エターナルアドベンチャーの一応の最終目標は魔王討伐だ。だが実際これを成し遂げたものはごく一部のガチ勢のみだ。理由はいたって単純。魔王が強すぎるのだ、それはもう調整ミスを疑うくらいに。運営に問い合わせても魔王は最後の余興で作ったものとだけ返された。

確かに魔王を倒さずともヒロインとのイチャイチャは見れるしエンディングも見れる。というかなぜかハーレムを築けば魔王は死ぬ。

いやほんとになんでと思うが、エロゲだし魔王をヒロインとくっつく前に倒すなど縛りプレイヤーしかしていなかったため、あまり重要視されていなかった。かくいう俺もだ。魔王はよくわからん化け物だし主人公一人で倒しても特にイベントは何もないと運営から知らされていたので、じゃあどうでもいいやと。そう思っていたのだ。


だがよりによって女性恐怖症の俺が?


ハーレムを築いて魔王が謎の死を迎えることを待つ?


そんなこと不可能だ。そんなことしたら間違いなく俺が他人から見て謎の死を迎える。異世界から運営に問い合わせれないだろうか、魔王弱体化してくださいと。まあそんなことできるわけない。なので俺は毎ターン三回攻撃(強化解除+デバフ+即死級の攻撃)の魔王を倒すため日々死ぬ気でトレーニングしている。そのため村の人たちからは少し疎まれている。それも都合がいい、魔王さえ倒せれば俺は一人山奥でスローライフを送る夢があるのだ。人間関係で悩むなど前世だけで十分だ。


……そう、前世だけで十分なのだが。


ルナさんどうしてあなたは毎日俺についてくるのでしょうかやめてください死んでしまいます。


「待ってよルウシェ君~」


「この俺が振り切れない、だとぉ!?」


だけどその前に誰かこの女の子をどうにかしてください。毎日トレーニングしている俺が全力で走っても全く振り切れないんですけど。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る