航空母艦へ、着・艦!

 それからしばらくは紗由花の言うくっつくという状態が続いていた。俺は気づいたらポタージュ飲み切ってた。飲み切ってしまうとなんかこう……することがないっていうか。

(今まで近くで一緒に作業することとかはいろいろあったが、こんなにくっついたことってあったっけなぁ……?)

 振り返ってみたが、すいません二人三脚とか集合写真とか円陣とかありました。

 あったよ? あったけどさ? 部屋で二人でこんなに長くってのは…………やっぱないよな?

(まぁ……紗由花と二人で一緒に初チャレンジを行うっていう場面はこれでもかってくらいあったけど)

 なんか今めちゃくちゃ紗由花との思い出がよみがえりまくってんな。え、なに今日地球爆発すんの? いやまさかな?

「さ、紗由花?」

「んっ?」

 うーんいつものテンションに聞こえなくもないがー?

「もしかして今日、地球爆発すんのか?」

「え?」

 ものっそ素丸出しの『え?』いただきました。肩着陸のせいで表情見えないので余計にシュール度アップ。

「……い、いや。爆発しないならいいんだ。気にしないでくれ」

 何事も確認は大事だよな! 報告連絡相談!!

「……雪松ったら~……」

 それでもどうやらこのポジショニングを続けていたいらしい。別に断る理由もないし……続行という形で。


(もう何分経ったんだ?)

 結構~長いこと続いてる気がする。のにさっきの地球爆発確認以外全然しゃべってこないし。

「さゆちゃーん?」

 お? ドアをノックしてきながら紗由花ママの声が聞こえてきた。

「はあーい?」

 あ、離陸した。ドアの方に向かれた紗由花のお顔。今日も髪はつやつやのようです。手は離さねぇのかよ。

「商店街にお買い物行ってくるわねー。ゆきくんとお留守番お願いしていいかしらー」

「うん、わかったー」

 手がつながってるからなのか腕が触れているからなのか、紗由花がセリフを放つたびにその波動が俺にも伝わってきているようだ。

「雪くんもお願いねー」

「俺様に任せな!!」

 気合入れて言い放ってやった。遠のいていく足音。紗由花ママ出撃。

「あ、クッションありがとーってもう遅いか」

 目の前の頭は表情が見えないが、きっと笑ってくれていることだろう。

 続いて目の前の頭がちょこっとだけこっちに向いたかと思ったら、完全にこっちに向き切ることなく

「またかよっ」

 俺の左肩に再着陸。いつから俺の左肩は航空母艦空母に改修されたんだろうか。てかそれなら着陸じゃなく着艦か。どうでもいいがっ。

「もうちょっとくっついてていい?」

 この状況下でそれを却下したらどんな反応を見せんねやろ。

「どぞ」

 ちょこっとそんなことも思ったが、基本的に紗由花命令には従う派なので、そのままストレートに返事をした。改めて俺の腕を抱え直し手も握り直してきた。

(……ちょっと待てよ?)

 こんな体勢に持ち込んでくる紗由花は今までに例がなく、もちろんくっついていいかなんていうお願いも初だろう。で、くっついたら特にしゃべることなくその体勢を維持……それはつまり言い換えれば…………

(まさか!)

「な、なぁ紗由花?」

「んっ?」

 またその返事かい。でもよく考えればそのトーンはなにか作業してるときの返事のトーンとそう変わらないような気がしないでもない。

「もしかしてさ……」

 別にそんなもったいぶって聞くほどのことでもないけど……

「……疲れてる、とか?」

「え?」

 うん。外した。爆発を外したときとまったく同じ湿度の低さだった。

「あ、いや、疲れてないんなら、いいさ?」

 …………そこはなんか反応くださいよ紗由花さん。

「……ほんとに優しいなぁ、雪松」

「そうだろうかっこいいだろう」

 翻訳するとそういう意味だよな?

「ふふっ。うんうん。もうほんとにもう雪松っ……もぉっ…………」

 またちょっとすりすり。そこの航空母艦は別にモフモフ要素ないと思うんだが。

「でもよく考えたら紗由花から疲れたーっていう言葉とか聞いたことないな。かぜひいたーならあったが」

「大丈夫だよー。雪松と遊んでるときは元気いっぱいっ」

「そうか。またかぜひいたら看病してやるからな」

「ありがとっ。頼りに……してますっ」

(んぁっ?!)

 ちょっとしたタメがあったかと思ったらすでに発艦。しかし発艦の情報が雪松司令部に届いたころには、俺の左ほっぺたに衝突していたんだが。めっちゃ柔らかいのが、とっても優しく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る