第7話 説教

「私は、獅子宮の騎士アリス」

「僕は、人馬宮の弓兵ウルカ」

 二人とも、火の精(サラマンダー)を奉祭する精霊講の獣帯士であると名乗った。

 そしてシグルドはこの二人からお説教を受けることとなった。

「私は訊いているんだぜ。この刺青はなんなのかってよ」

 その女―アリスは必至で隠そうとするシグルドの腕を払いのけ、その左肩に刻まれた紋章を曝いた。

「これは、先代の勇者ティンガスの紋章だろ? ネタは上がってるんだ」

「えー、じゃあ僕ら勇者様助けちゃったの? 歴史の本に載っちゃう系?」

 少年―ウルカはにやにやと意地の悪い笑みを浮かべながら、大げさな口調でそう言った。

 シグルドは、始終顔を赤らめて俯くばかりだった。

 確かに、それは伝説の勇者ティンガス=ド=ホークェの紋章であった。

 そして勿論、シグルドは勇者ではない。

 だとすればそれは、コスプレである。

 それは、まだシグルドが冒険者になりたての頃に入れた刺青であった。

 その頃は、いちばん思春期を拗(こじ)らせていた。

 初めての冒険者としての門出、高揚したテンションと飲みなれない酒の力が掛け合わさって、気づいたらこんな黒歴史を体に刻んでしまっていたのだった。

 そんなイタイ過去を暴かれて、シグルドは居たたまれない気持ちになった。

「お前勇者オタクだろう」

 アリスが核心を突いた。

 シグルドはびくりと肩を震わせる。

「ええ、マジで恥ずかしい。みっともない。そんなの最低既知外屑(さいていきちがいくず)人間じゃんか」

 ウルカがここぞとばかりに囃し立てる。

 シグルドはただ、顔を赤らめて俯くばかりだった。

「ウルカー。持ち物検査!」

「あいあいさー」

 アリスに促されたウルカはシグルドから雑嚢(リュック)をふんだくると、その中身をぶちまけた。

 パン切れと薬草、包帯と魔よけの護符(タリスマン)、そして数冊の雑誌が零れ落ちた。

「ああ、やめろ。やめて下さい」

 シグルドは狼狽し、本を庇うように覆いかぶさった。

 アリスは、そんなシグルドを蹴り飛ばして、その本をふんだくる。

 表紙にシースルーの修道服を纏ったお姉ちゃんがデカデカと描かれたその雑誌のタイトルは紛れもなく『実話ブレイブボーイ』であった。

 アリスはあきれ果てたといわんばかりに深く深くため息をついた。

「このテの俗悪で煽情的な勇者本。困ったもんだな。こんなもんにたぶらかされて、危険なダンジョンに迷い込んだ哀れな仔羊、いいやゴミ。私は、お前みたいな現実と空想の区別のつかないガキが大嫌いだ」

 そして、アリスは、シグルドの手を引っ張って洞窟のさらに奥へと連れて行った。

「お前に現実を見せてやる」

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