二人だけのギルド

料理店は美味しそうな料理の匂いで包まれていた。パスタにローストビーフ。


 そんな今にもかじりつきたくなるような料理たちがテーブルのあちこちに置かれている。


 その光景を見て思わず食べたくなる衝動に襲われるが今回は料理をしに来たのではない。


 今回料理店に足を運んだのはギルドの登録をする為だ。


 先日ヘカテイアと話し合い俺たちは目的を達成するためにギルドを設立することにしたのだ。


 「私たちがギルドを設立する理由は主に二つあります。分かりますか?」


 「一つは帝国対策だな。ギルド登録せずに集団で活動していている組織があると反逆分子と見なされ弾圧される。それの対策として公的な組織の証としてギルド登録が必要だってことだろ?」


 この異世界においてギルド登録をしていない組織は全て反乱分子として認識され帝国の騎士団たちが見つけ次第活動の内容問わず弾圧されることになっている。


 いくらエルピスが装備として優れているとはいえ帝国と一戦交えることは避けたい。


 それに俺たちの目的はあくまで弱者の救済であって戦闘ではない。変に活動を誤解されないためにもギルド登録は必要な処置だった。


 「正解です。まあ私みたいに悪徳なことをしていると問答無用で弾圧されますけどねぇ

 「それは自業自得だな」


 「もーそれはいいですから! 二つ目を答えてください!」


 さすがにいじめすぎたのか頬を膨らませながら抗議するヘカテイア。


 そんな彼女に少し笑いつつももう一つの理由について真面目な声色で答える。


 「もう一つが弱者の援助。俺たちのギルドを弱者の拠り所にすることだ」


 現在実力が伴わずギルドに入ることが出来ない人は大勢いる。そういった人たちを俺たちのギルドが受け入れる。


 そうすればギルドから弾かれた者たちも再び冒険者として活動することだって出来るはずだ。


 勿論本当はそんな単純な話じゃない。俺たちがギルドを作ったところでクエストの奪い合いやスピナやヘカテイアを襲った冒険者による襲撃が無くなるわけではない。


 でもそれらもいずれは無くしてみせる。その第一段階として弱者を集める場所が環境がギルドが必要なのだ。


 弱者は個々の力は強者に勝てない。だからこそ弱者は助け合わなければならないのだ。


 「そうです。今まで弱者であったが故にギルド入れなかったはぐれ冒険者たち。彼らを集めて一つの巨大なギルドを作るそれが今回の目標です」


 それが俺とヘカテイアが目指す最初の目標。確かにエルピスの性能は高いがそれを装備して戦ったところで世界を変えることは難しい。


 でもそれはあくまでも俺とヘカテイアの二人だけならばという話だ。


 もしこの帝国にいる……いやこの異世界にいる弱者が全員集まれば強者にだって対抗できる世界だって変えられるはず。


 「それが上手くいけばもう……誰も死なずに済むのか?」


 「……実際はそう簡単な話ではありません。ギルドである以上、弱者の皆様方にもクエストを受けて貰います。当然彼らは能力が足りずギルドに入られなかった人たちばかりです……中にはクエストで命を落とすことだってあるでしょう」


 「それは分かってる……分かってるはいる……それでも俺は死なせたくないんだ。みんなを守りたい」


 もうあんな思いはしたくない。スピナやレイシムのように誰かを失うのはもう沢山だ。


 あの頃には力がなかった。でも今はエルピスがある……みんなを守れる力がある。


 その力があればギルドに来てくれたみんなを守ることも出来るはずだ。


 「だとしても覚悟はしておいて下さいね。クエストに向かわせるということは生死を賭けて戦わせることだと……でないと言葉に重みが無くなりますから」


 「分かったよ。ヘカテイアの言葉はちゃんと胸に刻んでる……事業に失敗したこともね」


 「それは忘れていいんですよ。覚えていいのはヘカテイアちゃんの可愛いところだけです! と、ちゃんとギルドについても理解しているみたいだし登録の方済ませちゃいましょうか」


 俺たちは早速受付へと行ってギルド登録を行う。一度潰れたギルドの代表者はペナルティーとしてギルドを設営できないので代表手続きは彼女ではなくこちらが行う。


 名前は昨日の間に考えていた『ソテルズ』で決定だ。ソテルズとは救世主たちという意味が含まれている。


 俺は弱者に伝えたいのだ。俺たちが救世主だと君たちが救世主だと互いに強力して世界を救っていこうと……。


 「登録は終わらせた。これでギルドは完成したのか?」


 「まさかー今回行うのは仮登録。要するにギルドを作るので人を募集していますよと呼び掛けるんです。正式にギルドに昇格するには名誉勲章と五人以上の冒険者が必要ですねー」


 さすがに公的な証を認めるギルド。さすがに無条件で設立とはいかないらしい。


 だが五人以上人数が必要なのは当たり前として勲章というのが意味が分からない。


 「勲章とはAランクの魔物を倒した時に得られる証のようなものです。まあ転移者の方は得点で勲章が無くても代表者が入ればギルドを作れますが」


 「それは俺が代表者になってるから問題はないな」


 「勿論。でも勲章……欲しいじゃないですか~。勲章があればよりギルドの名声も上げられますからねー」


 要するに勲章というのはギルド設立者が英雄である証なのだ。冒険者からすれば当然勲章を持っている者のところで戦いたいと思うはず。


 まだAランク以上の魔物とは戦ったことはなかったが、エルピスの装備なら倒すことは可能だろう。


 「だったら取ってみるのも悪くはないな」


 俺はヘカテイアの言葉にニヤリと笑って返すのだった


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