新機能フォルムチェンジ

 「君は下がってて後は俺が倒すから」


 「へぇ……新装備を手に入れた途端に英雄気取りか。例え装備がよくとも中身が弱ければな!」


 雷を再び放とうとする佐竹。だがそんな佐竹よりも早く俺はマシンガンを彼に向かって発射する。


 当然、佐竹だってマシンガンを向けられていたのだから銃弾が来ることは知っていた。


 だから彼は盾で防いで電撃を食らわせようとしていたようなのだが。


 「な、なんだ……盾が! 鎧が……あ、あぁぁッ!?」


 「う、嘘だろ。この武器って盾も鎧も貫通するのか……そんなことがありえるなんて」


 俺の放った銃弾は佐竹の盾や鎧を容易く貫通し彼の身体を抉り込む。


 自分としては相手の動きを止めるつもりで発射したのでそのあまりにもの威力の高さに固まってしまう。


 「た、助けてくれ……あ、ああぁぁッ!?」


 無数の銃弾を浴びた佐竹は助けを乞いながら絶命する。鎧や盾には幾重もの穴が空いており中身もまたそうなっていることは想像に難しくない。


 だがそんな状態にも関わらずまだ撤退をするつもりがないのか周りの冒険者たちはハンドガンを構える。


 そのうちの一発がこちらの鎧に当たるがカン! という音が鳴るだけで衝撃も痛みも感じない。


 「き、効いてねぇ! なんなんだこれは!」


 「なるほど……どうりで帝国が欲しがるわけか。みんな佐竹がやられたんだ! これから私が指揮を執る! 銃は霞じゃなくてこの女神を狙え!」


 「え!? 私を狙うんですかっ!?」


 「装備品が良くても使い方が分からなければチャンスはあるのさ!」


 佐竹が死んだことで乱れていた統率を風鈴が代行することで何とか抑える。


 更に彼女は佐竹よりも状況を見れているのか俺との戦いよりも女神の殺害という目的にシフトしている。


 これは不味いとマシンガンを使って敵を倒すものの二十人以上の冒険者を一瞬で倒すのは難しい。


 もっとこの場にいる全員を倒せるほどの殲滅力があれば何とかなるのに。


 「勇者さん! アーチャーフォルムで一気に殲滅を!」


 「アーチャーフォルム?」


 「今戦っているのはノーマルフォルムです! 腕のボタンでフォルムチェンジ出来ますから! 一番上がアーチャーフォルムです!」


 「了解!」


 俺は腕にあるボタンを押す。すると突然装備の全てがパージされて軽装状態になる。


 しかしそれは一瞬のこと。バラバラにパージされた部品たちはガシャンガシャンという音と共に変形し再び別の鎧として俺の身体に装備された。


 白銀の色は金色に代わり所々に赤い模様がデザインされている。その今までとはまったく違う色とデザインに驚くばかりだ。


 だが変わったのは勿論色やデザインだけではない。武器なども新しいものに変わっていた。


 今まで持っていた盾と剣は消えて代わりにバズーカにマスケット銃が二つずつに他にはガトリングガンやマシンガンなどの射撃武器が装備されている。


 正直これだけあると逆にどれを使えばいいのか迷うが今は迷っている暇はない。


 即座に一番威力がありそうなバズーカを手に取るとハンドガンを構える敵たちに向けて銃弾を放つ。


 バズーカ砲から放たれた弾は一瞬で狙った場所へ到達すると巨大な爆発を起こして敵を複数人まとめて消滅させる。


 本来のバズーカがこれほどまでの威力を秘めているかどうかは分からない。


 だがこうして只引き金に力を込めただけであれだけの人数を一瞬で消し去ることが出来るという事実に驚きを隠せなかった。


 「くっ……撤退! こんなの相手なんてしてらんない!」


 焼け焦げた戦場の中で生き残った冒険者を集めて撤退を開始する風鈴。


 だがそのほとんどが先程の爆発によって息絶えており、二十人以上はいた冒険者が今では数えるほどだ。


 「怪我は無かったか?」


 敵の数が減少したのを馬車からひょっこりと顔を出し確認する少女。


 そんな彼女を気にかける俺に対して少女は上品な仕草で頭を下げる。


 「……いやぁー助けて頂いてありがとうございます。それにしても一撃であれだけの数を壊滅。ぶっつけ本番のこの装備でここまで操れるなんてやりますねー」


 「装備が良かっただけだ」


 「その良さを引き出すのも能力です。これ私だと全然動かせないんですよねー。と、それはともかくすみません……私のせいで装備が壊れてしまって」


 ペコリと頭を下げられる。確かに元々の装備は破壊されてしまったが彼女を助けることが出来ただけで満足だった。


 これで目的は達成。俺は装備を外して軽装状態になるとこの鎧を彼女に返す。


 「あれ? 返してくれるんですか?」


 「元々君のものなんだろ? 返すのは当たり前だ」


 「それはそうですけどー良いのかなぁって、私が見た限りだと貴方にはこの装備が必要に見えますが」


 「…………」


 それは図星だった。今の俺は力を欲している。それは誰かを斬る力ではなく誰かを救う力をだ。


 もうあの時みたいに誰かを守れない。誰かを救えないなんていうのはイヤだ。


 そんな気持ちを読み取ったのか彼女はしばらく考えたあと表情を明るくしてこう答えた。


 「でしたら! どうです? 私と一緒に世界を変えてみたくないですか?」


 「世界を……変える?」


 「そうです。強者が弱者を不幸にするこの世界から全人類が安心できる幸福な世界に」


 それは思ってもみない申し出。世界を変えるなんてそんなこと本当に彼女は出来ると思っているのだろうか。


 現実世界ではクラスメイトに虐められ異世界では大切な仲間を失った。


 結局どの世界でも弱者は不幸で強者には敵わない。そんな日常がずっと続くと思っていた。


 でもどうしてだろう。彼女と一緒なら本当に世界を救えるんじゃないかってそんな希望を持つことが出来てしまう。


 「でも俺でいいのか? 確かに俺は転移者だがスキルが使えないんだ……欠陥品なんだよ」


 「だから良いんじゃないですかー。欠陥品な貴方だから弱者の気持ちが分かるはず。弱者であり欠陥品である貴方だからこの装備『エルピス』を託せるのです」


 「エルピス……希望の神様か」


 「なって下さい。この世界の希望に」


 装備品エルピスを見つめる。この装備の性能は先程の戦いでよく分かった。


 勿論世界を変えるなんて簡単なことではないのかも知れない。でもこのエルピスがあればもうスピナたちのような犠牲を出さなくて良い……そんな世界が作れるかもしれない。


 「君は説得が上手いね。話を聞いて俺も……世界を変えてみたくなってしまった」


 「その返事を待っていました。私はヘカテイア……これからよろしくお願いしますね」


 「友利ナギトだ」


 俺がそういって手を差し出すとヘカテイアも嬉しそうな表情を浮かべて握手を交わすのだった。

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