第37話入学試験

 王都へきてからは王都の散策をしていた。

 5年前とあまり変わっていないが以前よりも活気がある気がする。


 以前いかなかったところへ行ってみたりした。


 ハワード領と違い、品の高さを感じる。どちらかといえばハワード領は商人の街というイメージだ。


 そうしてついに王立フォルトナンセ学園の入学試験の日がやってきた。


 俺は受験会場であるフォルトナンセ学園に遅めに出た。受験開始時刻は9時。現在8時だ。

 待ち遠しすぎてなかなか寝れず、いざ起きたら7時半だった。

 朝食を食べ、身支度をして家族に行ってきますの挨拶をする時間もなく、すぐさま屋敷を出発した。


 



 そうして30分後、俺は学園についた。散策の時に経路を確認していなければ、こんなに早くはつかなかっただろう。


 学園の巨大な門をくぐると、すぐに簡易の受付センターのようなものがあった。


 ジェシカ姉さん曰く、ここではじめて受験資格が得られるとのこと。名前を言って来た者順に受験票を配るシステムだ。それでは不正が起こるのでは? と思うが、受験票には特殊な魔法が掛けられており、受験票をもらったものしか受験会場へは入れない仕組みとなっているらしい。


 前世の入学試験では願書を出願してそれから受験票をもらい、それでようやく受験資格を得られたが、この世界では違うようだ。


 よし、もらうとするか。


「すいません。入学試験を受けに来ました」


「お名前をどうぞ」


 そう受付の人が俺に言った。


「ハワード侯爵家のアルバート=フォン=ハワードです」


 それを聞いた受付の人は俺の名前を手元の用紙に記入し、その後受験票を渡してきた。


「それではどうぞ。健闘を祈ります」


「ありがとうございます!」


 周りに受験生が一人もいなかった事もあり、俺は急いで学園内の受験会場へ向かった。


 受験は筆記試験と実技試験の2種類があり、最初は筆記試験からだった。


 手元の受験票の裏には筆記試験の会場の場所が書いてあった。


 それを頼りに俺は試験会場にたどり着くことができた。


 扉を開けると、そこは大学の講義を受けるような講堂のようなところだった。


 沢山の同年代の受験生がおり、皆背中越しからでも緊張感が伝わってきた。


 受験票に書いてある受験番号と同じ番号が貼られている席に着く。


 数十分後、試験官らしき人が入ってきて、無言で試験問題を配り始める。


 全ての受験生に試験問題が配られてから数分後、試験官が息を吸い、


「それでは今年度の入学試験、筆記試験を始める。決して諦めず、最後まで考え抜く事だ。それでは始め!」


 

 試験官の指示を皮切りに、受験生のオーラが変わった。


 やってやろうじゃねえか。本も読んで、理解できたし、それでもわからない事はブレット師匠を頼って分かった。


 俺は試験問題をめくり、回答を始めた。


 15分後、俺は回答を終えて思った。


 テスト内容が小学生レベルである事を。


 おもに算数の足し引き掛け割るとこの国の歴史が大半を占めていた。


 なんで魔法の知識が3割程度なんだよ。結構勉強したのになんだか損した気分だ。


 最後に魔法理論の証明とかあったけど本に解法載ってたからそのまま書いた。



 俺は退屈だなあと思っていると、


「君、考え抜いたのかね? 諦めてはダメだと言ったはずだよ?」


 さっきの試験官だった。


「いえ、もう終わったのですが……」


 試験官は少し驚いたが声は出さなかった。周りの受験生を配慮しているからだろう。


「難しい計算問題や魔法理論の証明があったはずだ」


「それも終わりました」


 試験官は言葉が出ない様子だった。


「そうか、見直したほうがいい」


 もしかして信じていないのだろうか?


「では見直しをしてみます」


 そうして俺は見直しをしたが、間違っているところは見つけられなかった。


 周りの受験生からは鉛筆が紙の上を走る音が聞こえてくることからまだ回答を終えていないのだろう。


 俺がそんな事を考えているとあっという間に筆記試験が終わった。


 回答用紙を回収され、自由にしていいと指示が出た後、


「なんだよあの計算問題。難しすぎるだろ」


「100×100ってなんだよ。数が大きすぎて俺空白だわ」


 いや、1万でしょ。


 もしかしてこの世界って算数難しいのかな?


「魔法理論の証明なんて聞いた事ないんだけど」


「今年は過去一番難しかったのかもね」


 受験生たちは口々にそんな事を言っていた。



 そんな事を聞き流しながら、俺は次の実技試験の会場に向かった。



 実技試験はおまけみたいなもので突出した才能を見せれば、筆記試験がある程度ダメでも合格することがあるらしい。


 才能は国の宝だかららしい。


 




 俺はやがて魔法障壁が張られた訓練所のようなところに来た。


 ここが実技試験の会場らしい。


 試験方法は遠くの的に魔法を当てる感じだ。どんな魔法を撃ってもいいということなので、師匠が初めて教えてくれた魔法を撃つことにした。

 魔法障壁は絶対に破る事はできないということなので全力で行くことにした。


「それでは受験番号順で始めたいと思います」


 そう試験官が言った。


 という事は俺は最後か。俺が筆記試験の会場に入ってから誰も来なかったので俺が最後の受験者となる。


 まあ、他の受験生の実力も見られる事だし、待つ事もよしとしよう。


 それから俺は受験生たちを見る。


 ソフィアの姿も見受けられた。ソフィアは水魔法の上級魔法である『アイススピア』を的に放った。威力は十分で的が貫通している。しかし後ろの壁には被害がない。 


 そうして時は流れ、ようやく俺の出番が訪れた。


「君が最後の受験者かな?」


「ええ、そうです」


「それでは得意な魔法を全力で撃ってくれ」


「魔法障壁、壊れませんよね?」


「ああ、万に一つも壊れはしないよ」


 言質は取ったぞ。俺本気で行くからな? 


 異世界での夢、チートを披露する時だ。



 そうして俺は魔法名を唱える。


 『火球』


 瞬間、俺の手から放たれた青白い火の球は的目掛けて一直線に飛んで行った。的に当たった瞬間、何事もなかったかのように消え去り、後ろの壁に高速で飛んでいく。



『ドゴゴゴゴゴゴゴッ!!!』


 その音と同時に魔法障壁が崩れ去ってゆく。


 訓練所の壁にはきれいな穴が開けられた。そこで俺は魔法を消滅させる。


「き、君がこの魔法を撃ったのかい?」


「ええ。魔法障壁を破ってしまいました」


「そ、それは見て分かるけど……。って魔法障壁が破られた!? あれは賢者が張った魔法障壁なのに……」


 試験官は自分に言い聞かせるように言っていた。最後の方は何を言っているのか聞こえなかった。


「ま、まあお疲れ様。こんな事を言ってはいけないけど君は合格間違いなしだよ」


「ははっ! そうですか」


「これで試験は終わりだ。お疲れ様。合格発表は1週間後だからまた学校に来てください」


「分かりました」


 あの穴、どうするんだろ?


 そんな事を思いながら、俺は屋敷に帰っていった。

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