第4話 さぁちゃんと紗綾

※1~3話の内容は割愛します


少し早歩きになる紗綾を見て何も知らずに「早歩きして行きたい程ってどんだけそのお店がいい店なんだよ〜。」と鈍感さを炸裂した俺だったが、勘がいい紗綾は「そこに週間ホリデーの記者がスクープ待ちして写真撮ろうとしてたから顔伏せて早歩きしたの。」と何も知らない俺に注意喚起した。俺は忘れていた。今デートしてる相手はただの女の子ではない、アイドルなんだと。無銭でスペシャルイベントしてるのだからオタク共にバレた時はこの世から抹消される。当然木島とは絶交してしまうだろう。そう思うと心臓が止まりそうだ。


早歩きして更に登坂を登り続けて、やっとの思いでたどり着いたお店はなんとハンバーガー屋さんだった。紗綾のプロフィールの好きな食べ物ハンバーガー。そしてここはよくブログに載せるハンバーガー屋。今はさぁちゃんとデートしてるのだろうか?入口には可愛い大きく可愛らしい熊の人形が置いてあり、ハンバーガー屋にしては結構小綺麗で確かに女性客が多そうな雰囲気は出ていた。すると、「よう!元気だったか!?1週間ぶりだな!久しぶりにこれで嬉しいぞ〜!」とさぁちゃんが熊に話しかける。そんなさぁちゃんも可愛らしい。そして熊が憎い。なんて思いながら店に入り2人ともビックバーガーセット(店内で1番大きいモノ)を頼んでしまった。ハンバーガーが届くと直ぐにお腹が空いてしまったが故に俺は食べ始めてしまった。紗綾はそんな俺を見て笑いながら動画を撮るがそれは彼女自身が以前話していたインスタの裏垢に載せているのだろう。


「あのさ、私だい君に初めて会った日にだい君に飛びつくように泣いちゃったじゃん?」と写真や動画を撮り終えて紗綾が騙り始める。「あの日も握手会終わった後で、正直オタクの人は苦手な方が多いし、実は私まだまだアイドルになりたてでオタクの方への免疫力は0に等しいと思うんだよね。どうしたらいいのかな…」と続けた。俺はその事は何となく察しがついていた。理由は簡単だ。さぁちゃんは握手会ではものすごく人気で対応が登坂36内でも素晴らしいと有名になるくらいだ。長年握手会を続けて来た主要メンバーの先輩方ですら1日握手会は死にそうになるって紗綾が前に話していたことを考えると入って間もない彼女が無理をしてないわけが無い。「それでもさ、常に頑張ってる姿を応援しようと思ってきてるお客さんばかりな訳だし。握手会ってホームかアウェイかって言われたら完全ホームだから、失敗したってオタクの人は可愛いって言ってくれるはずだし失敗を恐れず気楽にやってみれば?」とオタクの俺を一切封印して客観的にさぁちゃんの相談に意見を述べた。


何となくさぁちゃんの気持ちが晴れて紗綾の顔より大きいハンバーガーも食べ終え何となく坂道を下った先に見える神社に立ち寄った。そこは登坂神社と言われ、昔は軍人を祭った神社だったのだが、今では登坂36のメンバーの成人式がそこで行われたりメンバー全員が初詣に来るなど登坂36オタクの巣窟となっている。彼女はマスクをしてても貫通する可愛さとオーラがあるがそこにいたオタクであろう皆様は写真を撮るのに夢中で全く気が付かなかった。オタクがいるのに、紗綾は堂々と俺と手を恋人繋ぎして2人で歩くのでまるでミッションインポッシブルだ。「今更感あるんだけど言わせてもらうね。俺は紗綾のこと好きだし、付き合いたいって思ってる。でも紗綾はアイドルだから一応さぁちゃんとしての意見と紗綾の意見を聞きたい。」と、何となく続いた沈黙を破る。すると「さぁやはね、マネージャーさんにバレなければ付き合っても大丈夫って思ってるからもちろん私も付き合いたい!紗綾としての意見はね、もう、だい君しか見えないの…」と紗綾はダムが決壊するかの如く泣き出して、俺に抱きついて来た。周りのオタク達も流石にこちらを見てきたが俺の大きい図体で小さく脆い紗綾の身体をたまたま隠せていた。少し紗綾が落ち着き始め、神社のベンチで紗綾が疲れたと言いながら、俺の太ももの上に頭を乗せ寝ていると気づけば日は沈み、周りには誰もいなくなってしまった。


「紗綾。起きてー。そろそろ起きないと風邪ひくよ。」と優しく起こす俺。色々あり過ぎて内容が濃かった一日が終わろうとしてる。寂しさも当然あるがこんなにも可愛い彼女を捕まえることが出来るなんて約1ヶ月の一般人にフラれた自分では想像がつかない。なんて考えてたら紗綾が眠りから目覚めたので登坂駅まで2人で歩き出した。彼女は実家が岡山のため一人暮らしを都内某所で続けている。俺の家からは少し遠いが、ちゃんと彼女の家まで送ってから無事にあっという間の彼氏初日を終えた。1人で家まで帰る途中、ここまで1ヶ月トントン拍子で事が進み過ぎて危機感を感じ続ける俺だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る