第3話 部活 (side恋)

 入学式から数日が過ぎ、授業が始まった。

 満開だった桜は散りかけて、若葉が覗いている。


「俺、今日野球部の体験入部行ってくる」

「私も、吹奏楽部に行ってくるよ。ほら、楽器も持ってきたし!」

「俺もグローブ持ってきた!」


 二人とも部活をする気満々で、思わず笑ってしまう。

 同じ中学から来ている人はほとんどいないから、お互いにまだ他の友達はほとんどいない。けど、部活を始めればきっと友達はできるだろう。


「おはよ、あもちゃん!」

「おはよう、うみちゃん!」

「ねぇねぇ、それって楽器? 」

「そうだよ。クラリネットなんだ」

「えへへ、私も楽器あるよ~」


 私をあもちゃんと呼ぶ彼女は後ろの席の、内海絵夢うつみえむだ。


「んー、その形だったらフルートかな?」

「そうだよ。大正解〜」

「吹奏楽見学に行こうかと思うんだけど、うみちゃんも一緒に行く?」

「行く~」


 ふたりは仲良く笑い合う。


「愛、友達できたんだ。良かったな」

「あ、色葉くんだ。おはよ~」

「おはよう、内海さん」

「ねぇねぇ、ふたりはよく一緒にいるけど付き合ってるの?」


 唐突な絵夢の言葉に私はびっくりする。


「へ?律は幼なじみだからそういうんじゃないよ!?」


 嘘。

 本当は付き合いたいなってずっと思ってる。


「俺からはノーコメント」

「ん~、ノーコメントって怪しいなぁ」

「秘密あったほうがかっこよくない?」


 ふふと律が笑い、絵夢が赤くなる。


 補足しよう。律は私が惚れているという贔屓目を差し引いても、イケメンだ。中性的で、めちゃくちゃ顔が整っている。性格も良い。

 それに加え、野球が上手い。強豪校からスカウトが来ていた程だ。

 私には野球のことはよくわからないのだけれど、すごいピッチャーらしい。

 それでモテないはずはない。いつも隣にいる私は絶好の嫉妬の的で嫌がらせを受けるのは日常茶飯事だった。“彼女”ならまだしも、“友達”という関係で一方的にやられるのはさすがに腹が立つのも相まって、私は律に告白したのだった。


 ーー恋のそれは“恋愛感情”じゃないだろ?ただ秘密がバレないように俺を捕まえていたいと思ってるだけだよ。


 これが告白の返事だった。

 そんなんじゃないのにと思った。でも、それ以上は何も言わせてもらえなくて、私は片思いを続けている。

 この気持ちが“恋愛感情”じゃないとするなら、その正体を教えてもらいたいものだ。


 始業のチャイムが鳴る。3人は慌てて自分の席に座った。

 授業は中学と高校はあまり変わらない。教科書を参考に授業が進められていく。

 放課後になり、私は絵夢と吹奏楽部の見学に行った。


「あ、恋ちゃん。久しぶりだね!」


 胸がどくんと鳴る。身体が一瞬で冷える。

 どこかで会ったことがある。けど、思い出せない。私のことを“恋”と呼ぶということは、少なくとも6年以上前の知り合いだ。


「私は恋じゃなくて、愛です」

「え、でもーー」

「こら!新入生を口説かないの」

「口説いてないよ。昔の病院仲間!」


 私に声をかけてきた男の人を見る。

 あのオーボエの人だと気がつくが、それだけだ。


「困らせてごめんね。私は神楽美紀かぐらみき。んで、こっちが吉良隼人きらはやと

「私は天羽愛です」

「内海絵夢です」

「天羽さんに内海さんね。吹奏楽部にようこそ!」


 ふたりは神楽に連れられていく。

 そうか。病院仲間か。言われてみれば、面影はあるかもしれない。

 吉良隼人ーー、ひょっとして“はーくん”だろうか。



「ーー俺が愛と恋を間違えるはずないんだけどな。なんで恋は“愛”って名乗ってるんだろ?」


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