第6話

 ハクちゃんの鳴き声に振り向くと、さっきはなかったはずの果実が実っています。

 オリーブやザクロ、リンゴやオレンジ、キュウイやブドウ、信じられないほどの種類と数の果実がたわわに実っているのです!


「まあ!

 なんて美味しそうなんでしょう!」


 思わず言葉に出してしまいました。


「ぐうう!」


 恥ずかしいことですが、お腹が大きくなりました。

 お腹が激しく空腹を訴えています。

 渇き飢えている事を自覚しました。

 死すら覚悟した不安と緊張で、渇きと飢えを自覚できなかったのでしょう。


「わん。

 わん、わんわん!」


 ハクが早く食べろと言っているようです。

 私の思い込みかもしれませんが、間違っていないと思います。

 ハクが果実の下に陣取って、視線を果実に向けているからです。

 もしかしたらハクもお腹がすいているのかもしれません。


「何が食べたいの、ハク?

 これが食べたいの?

 それともこれかな?」


「わん。

 わん、わんわん!」


 私が色々な果実を手に取ってハクを見ると、明らかなに違うという鳴き声です。

 ちょっと恐々、見たこともない果実を手に取ってみると、間違えようがないほど激しく鳴きました。

 正直怖いです。

 食べたことのない果実を、しかも魔境に実っている果実を食べるのは、毒を含んでいないかと心配になります。


「わん。

 わん、わんわん!」


 でも、ハクは魔境の子です。

 迷い込んだ子ではなく、魔境で育った子だと思います。

 その子がこれだけ欲しがるのですから、きっと美味しいのでしょう。

 ハクを信じて、食べたがっている見知らぬ果実をとってあげました。


「わん。

 わん、わんわん!」


 とても美味しそうに食べるハクを見ていたら、はしたないですが、私も我慢できなくなってしまいました。

 まずは渇きを癒したかったので、みずみずしいブドウを食べてみました。

 私が望んでいた通り、弾けるようなみずみずしさで、喉の渇きをいやすのに丁度いい、ほのかな甘みのある果汁でした。


 大きな一房でしたが、瞬く間に食べてしまいました。

 もう一房、二房食べる終える頃には、渇きは癒されていました。

 でも乾きが癒されると、今度は空腹感が襲ってきました。

 ブドウを二房も食べたにも関わらず、空腹感が残ってしまいました。

 満腹感を得るためには、リンゴかオリーブを食べるべきかと考えていると。


「わん。

 わん、わんわん!」


 ハクが、さきほどから何度も取ってあげている、見知らぬ果実と私を交互に見ながら、いかにも食べてみろという態度で私を見て鳴くのです。

 そんなに私に食べさせたいほど美味しいのでしょうか?

 不安はありますが、ハクの勧めをむげにするのが悪い気がしてきました。

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