第9話極楽蝶のアンシャルリコード

リリアさんは手早くキーボードを叩きながら私に話しかけてくる。

_この研究室には二人で住んでたの?

よせばいいのに魔法を使う。


雑談で使ってたらすぐなくなっちゃうよ?

まぁまだ大丈夫そうだけど。

相変わらず服を着ない人だな。


アンシャルは不老不死を可能にする夢の生き物とされているが実は違う。


それが可能かどうかを試した人が既にいた。


異次元災当時、生き残った人達が喜び勇んで魔法を使用したところ、元々体が弱かったりギリギリ紅子結晶に耐えたりした人はいくらもしない内に死んだ。


アンシャルの死に方は実に華やかで、心臓部の結晶に亀裂が入り、体のあちこちから水晶が生え、まるで花が咲くような見た目に陥る。

やがて時間をかけて辺りの元素へ分解されていく。


それを側で見ていた人達は怖くなり、魔法を乱発しなくなったが、勿論元々の寿命が拡張されていない人も寿命により分解。


一部の長命者または拡張者が生き残って今に至る。


これがおよそ20年前の話だ。


「私達の命ってホントに玩具すぎません?」

私はほぼ人間だから拡張者ほどの命はないはずだ。


「気にすると禿げるよ」

こっちを向かずにリリアさん。


アンシャルにそれは致命的ですってば。

禿げるというのは頭のことではなかった。


羽根のことだ。

それが禿げると、アンシャルは死ぬ。

正確には元素に還る。


「できたよ。これで科学的に精霊言語が使えるはず」


は?マジですか!?


それじゃこれをメールに添付して送信。

「できちゃった」

コラ!勝手なことすんな!


リリアさんは私のアドレスに添付ファイルをつけて、文章にはハートをつけて送信した。


「ありがとう恩に着るよ」


どっちだろう?ファイルのことだよね?


アリエス様は別に私のことなんか好きじゃないし、


ぽろぽろ


「涙、、大丈夫?自分で傷つけるな?羽根が傷むぞ?」


そうだ。

羽根は心の傷をまともに受ける。

髪みたいに繊細なのだ。


「アヤは本気なんだね?だからこんなにキレイな羽根してるんだ」


大丈夫。アリエス様はきっとアヤのこと好きだよ。


_でも!


ズキッ


「好きには色んな形がある」

でもね?アリエス様だってアヤの気持ちに気づいてないはずないじゃない?


これだけ世界の平和に本気な彼女が一人の女の子の気持ちに気づかないはずないじゃない?


だから、

早合点しないで、アリエス様を支えてあげよう?


アリエス様はきっとアヤに会いたいんだよ?


_はい。

「わかったらさっさといくよ!」

アレ?どこいくの?

「元素分解開始!」

あ、や、ちょ、、、

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