第3話 APSU 『対ファントム制圧部隊』

目を覚ますと、そこは見なれない部屋だった。比莎士は椅子に座らされていて、手は後ろに手錠がかけられていた。目の前には机ともうひとつの椅子。そして鉄のドア。左手側にはガラスがはられておりこちらからは真っ暗にしか見えない。

ここは恐らく、取調室のようなところだろう。つまり、比莎士はファントムとして、捕まってここへと連れてこられた。

 そして、図ったかのように目の前の扉が開き、あの時合った金髪ソフトモヒカンの男が入ってきた。


「おっ。起きてたか。手荒に連れてきてすまないな。安定性を考慮したらああいうふうなことが手っ取り早いからな、あいつに代わって謝るよ。」


よっこいしょと少しジジくさい声を出しながら前の椅子にすわった。


  「さて、お前さんがここへ連れてこられて手錠をかけられているかは、まぁ、思うところがあるんじゃないか?」

  「俺がファントム....って言うことですか?」

  「おぉ、分かっているなら話が早い。次に俺が何を言うか分かるな?」


覚悟を決める。もう何を言われても動じないように。そして男がにっ、と笑うと


  「お前をAPSUへ勧誘したい。」

  「はい?」


あぁもう、また訳の分からない話になってきたよ。


  「APSUについては知っているな?」

  「は、はい確か、ファントムに対抗するために組織されたファントムのみで構成された部隊だと...」

  「そうだ。『Anti Phantom Suppression Unit』の略称で、目には目を歯には歯を、ファントムにはファントムをってな。」


  「でも、なぜ俺を?他にもファントムはいるとは思うのですが。」

  「お、いいとこつくねぇ。それに関してはな....」


そこまで言うと頭上にあったスピーカーから音声が流れた。


  「室内にいるAPSU隊員に伝達。ファントムで組織された犯罪集団のアジトと思われる廃工場があるとの通達あり。至急現場に急行し、鎮圧せよ。繰り返す....」

  「な、なんですか!?」


突如けたたましいサイレンの音と淡々とした口調で話すアナウンス。男は日常的にあるのか落ち着いてその言葉に耳を傾けている。


  「まぁまぁいいタイミングだ。西野比莎士っつたか?来いよ。職場見学に連れて行ってやる。何事も百分一見にしかずってやつだ。」


男がまたにっこりと笑った。ほぼ、無理やりに男に連れられ部屋を出る。その際にファントムの仮面を付けるようにと言われ、仮面を出し、仕方なく男について行く。ここで、また驚いたのが男はもちろんここにいるってことはファントムなのだが、男が仮面を出すとその屈強な体にも装甲のような白いものが身体を包んだ。通常ファントムは顔に仮面が付くとしか知らないが、こういうタイプもあるのか?そう、不思議に思いみていると


  「んあ?これか?まぁ、俺のは特別製ってやつだ。嫉妬すんなよ?」


がはは、と豪快に男は笑う。さっきから通っている通路がやたらと広いのはこの男のためか。そう思っているとある扉の前に着いた。横にはカードリーダーがついている。

男がそれを開けるとその先には大型トラック並の大きさの装甲車が現れた。


  「デカ!!」


あまりの大きさに比莎士は驚いた。その様子を見た男はその姿を満足気に見て、


  「そうだろう?こいつはなRPG-7なんかじゃビクともしない頑丈さを持ってな....」

  「おい、ゴリラ早く乗って。緊急時、そんなのはあとからにして。」


恐らく解説しようとしてくれたのだろうが、俺を気絶させたファントムがそれを遮った。しかし、あのフードの姿ではなく、黒のタイツ生地の上に肘当てや膝当て、胸には防弾チョッキをつけ、いかにも戦闘を目的とした服装であった。


  「その名前はやめろ!気にしてるんだからよ。」


ぶつくさ言いながら男はのる。


  「何をしてるの?あなたも乗って。」


本来は乗る義務はないのだが、断ったらまた気絶させられて連れていかれそうなので装甲車に乗った。


  「そういえば、西野比莎士くん、APSUに入ったのね。歓迎するわ。」


あのフードのファントムがそう言ってきた。


  「いや、俺はまだ入るとは言ってない....」


比莎士がそう言うと、フードのファントムが男を睨みつけた。


  「職場体験だよ。アイ。何事も経験するのが大事だろう?そこから判断したって遅くはないだろう。」


運転しながら、がはは、とまた豪快に男は笑う。それを見たフードのファントムは見てわかるぐらいに頭を抱えていた。


  「『アイ』って言うんですか?」


そうフードのファントムに聞いた。男がさらっと言っていたのを少し気になって気になっていた。


  「ええ。でもそれは本名じゃないわ。所謂、仮の名前よ。私たちファントムが特定されないようにするための処置。『ネームド2つ名の亡霊』という識別するための呼称のようなものね。」

  「俺たちは本名を名乗ることが出来ないんだ。他にも色々あるが、少しでも、俺たちの正体に繋がるものを無くすためにこういったことをしている。」

  「あと、『アイ』って呼んでくれるのは構わないけど、それは略称。正式なのは『イーグル・アイ鷹の目』それで、そっちのデカブツが『ゴリラ』。」

  「ちげーよ!その名前はもう無くなったんだ!俺には『タンク戦車』っつう漢らしい名があるんだからそっちで読んでくれよ!」

  「えー?でもいいじゃない、私は好きよ?『ゴリラ』。その由来を聞いたら何回でも笑っちゃうわ。」


くすくすと可愛らしい声でアイがわらう。タンクは少しムスッとした表情で運転している。ここだけ見ればとても明るい職場なんだがなぁ...。とみていると1つの疑問を思い出した。


  「ひとつ聞きたいのですが。ファントムは他人に知られると仮面が消えてしまうのに何故、おふた方はお互いがファントムと知りながらも仮面は消えず、更には僕のも消えないのはなぜなんですが?」

  「あー、まぁ、とりあえずそこまでかしこまんなよ。タメでいいぜ。それで、なぜ能力が消えないのかについてだが、ファントム同士ではお互いが認知しあっても能力が消えないんだ。」

  「そ、そうなのか....」

  「どうしてそうならないかはまだ理由は分かってないけど、ファントムの間では常識のようなものだけどね。あ、ちなみに私もタメ口でいいわよ。他人行儀なのはあまり好きじゃないから。」

  「おっとくっちゃべってる間に着いたぜ。」


車が止まり、タンクが降りた。それに続きアイが車内後部にある両開きの扉を開けた。

それに続き比莎士が降りるとその前にあったのは10数台はあるパトカーと警官たちが廃工場を包囲していた。そしてこの騒ぎに人々が停止線の前で集まっていた。

その中でもアイ、タンク、そして俺はかなり目立っていて仮面をつけた集団など今のご時世とても過敏になっていて、人々の目線はとても痛いものであった。

  タンクが黄色テープをくぐり抜け現場の警官に問いかける。

 警官とタンクが話しているなか、アイは着々と突入の準備をしていた。ナイフの確認、両腰につけていたハンドガンポーチの中にある拳銃の弾の確認、マガジンの確認などをしていた。


  「アイ。俺は今のところ何をしたらいい??」

  「あなたは今日は見てるだけでいいわ。いきなりやっても死んでしまうかもしれないから。」

  「わ、わかった。」

  「おい、色々と聞いてきたぞ。ここは元々鉄工関係の工場で数年前に倒産してる。所有者は現段階では不明。だとよ。あと、ここの見取り図がこれだ。」


1枚の地図をぴらっと見せてきた。


  「狭いわね。としたら、タンク、この.....ノーマル通常型と一緒にいて中から漏れ出たファントムの処理と人々の警護をお願い。中のファントムは私がやる。」


マガジンをカシャっと入れながらアイは言った。


  「了解。おし、ノーマル、こっちで俺たちは待機だ。」


半ば強引に廃工場の入口に立たされた。入口の周りには恐らく倒産した会社のものであろう錆びた鉄骨が何本か無造作に置かれたままであり、なんと、フォークリフトでさえも置きっぱなしで、雑草も高く伸び何年も放置されたということがわかる。それよりも


  「ノーマルって?」


  「一応のお前の名前だ。正式なのは後で決めてやるからいまはこれで我慢してくれ。」


入口で仁王立ちの如く2人は廃工場を前にして立っていた。その間をアイが通り抜けて


  「じゃ、ここは任せたわよ。」

  「おーけー、やばかったらすぐに退避してこいよ。」


はいはい。と言いながらアイは廃工場へと入っていった。

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