第3話


 「さて、することがなくなってしまったな・・・」


 正直、命さえ取られなければ何とでもなる。それはミリナに殺気がなかったことからわかっていたし、食事までついてくる。


 (スキルとやらを試してみるかな・・・)


 「つってもやり方知らないんだけどな」


 ともかく、礼二はその辺に転がっていた石を持ち上げる。


 「確か、細工?、だっけか」


 おざなりにでも唱えてみると、無意識にこの鉱物の加工は無理だということがわかった。

 

 「こんなのも無理なの? まじか・・」


 (何に使えばいいんだよ、このスキル)


 礼二は何かもっと柔らかいものはないかと、周りを見渡してみる。すると、床の端に排水溝のようなものがあった。


 (あんなかになんかあるかなあ?)

 

 礼二は排水溝を開けてみることにした。ろくなものが入っていないだろうが、それぐらいしか探索の余地がない。


 にゅるにゅ、


 「おわ!」


 排水溝を開けた瞬間、何か黒いぬるぬるしたものが出てきた。礼二はその場から飛びのき、構えをとる。


 (なんだ、あれ。・・・・噂にきくスライムってやつか?)

 

 排水溝から全身を現したそれは、確かにスライムだった。しかし、色は黒いし、ゴムくらいの硬さがありそうだった。


 (なんかイメージと違うけど、あれぐらいなら細工できるかな?)

 

 礼二は拳を親指が上に来るように構え、ボクシングのステップを踏み始める。それでいて、全身を合気道のイメージで柔らかく保つ。


 (シッ!)

 

 声に出さずに気合を入れた礼二は黒いスライムに、痛烈な蹴りを加える。


 ボヨン


 なんともしまらない音とともに、スライムが中空に浮かぶ。それに合わせて、礼二は拳打を繰り出す。古流空手特有の拳を縦にしたままで打ち込む拳打だ。


 パキ!


 拳打はスライムのゴムボディを貫通し、中の硬い何かを砕いた。


 礼二はすかさず拳を引き、また飛びのく。スライムはその場に落ちて、動かなくなった。


 「うし!」


 (案外簡単にいったな。親父たちに感謝だ)


 礼二は死んだ様子のスライムを手で持ってみる。


 (ほんとにゴムみたいだな。・・細工できるかな)


 「細工」


 唱えたとたんに、スライムが変形し、椅子になった。


 「ふう、」


 礼二は、その椅子に腰かけて脱力する。


 (よ、よかった~、細工できるものが手に入って。にしてもこれ、どうしようかな)


 椅子の端をつかんで、伸ばしてみる。細工した後のスライムは若干硬度が増していて、硬質ゴムくらいになっていた。


 (素材の特徴とかわかると助かるんだけど。細工師とかいうくらいだし)


 ※次回更新 4月4日 0:00

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