第10話【散歩】

 

 青い空。

 牛を飼育している牧場。

 中央都市程では無いけど活気のある商店街。


 やっぱりなんか長閑のどかだなぁ〜〜

 ここの大きさって、どちらかと言うと既に村というよりも町なんだよな。

 ただ、町が村の違いって回復術士の治療院が有るかないかの差だし。


 そんな事を考えながら懐かしい感じのする風景を見ながら歩いていると、村の東側にあるエイテ親父の工房に着く。


 相変わらず中は良く分からないモンがごちゃごちゃしてるな…………


「おーい、エイテ親父ー居るのかーー?」


 すると金床かなどこの方から声がする。


「おう! その声はベイリスか! 丁度良い、ちょっとこっちに来てくれ!」

「はいよ。」


 不思議な形の何に使うのかよく分からないガラクタを横目に見ながら金床の方に進んで行くと…………


「ベイリス、どうだ? この前の奴を色々と改良してみたんだ。」


 エイテ親父が金床近くの石の作業台の上に片手を付きながらそう言ってくる。

 

 その石の作業台の上には幾つものサイズの注射針、注射筒が並べられている!?


「す……凄いねエイテ親父、この前、紙に書いた物を置いていっただけでここまで再現できるって!」

「この前はちょっとだけ太かったが大分形になってきただろ?」

「本当に良くこんな短時間でここまで……」


 どんだけ器用で技術力が高いんだよ、エイテ親父……

 まさかガラスを使って注射筒まで作れるとは思ってなかったぞ……


「にしてもコイツ……えーっと注射針だっけ? 此れはあんな事に使うなんて知ったときは驚いたぜ。」


 感心した表情でそう言ってくる。


「此れはこの前の胸腔穿刺以外にも液状の薬を体に直接注入したり、体内から血を抜いたりする為に使うんだよ。」

「へー、そんな使い方なんだな。だが何時こんなモン使うんだ?」

「…………あ、そう言えば代金まだ支払って無かったね。」


 よく考えればそんなに使う機会なさそうだな……


「話をそらしたなベイリス……まぁ、良い。今回の代金はタダにしてやるよ。」

「え?」

「と、言うよりかは金はもうもらったからな、息子を助けてくれた礼だとよ。」


 思い当たる人物が一人しかいないな……


「もしかしてトレビジスさんが?」

「あぁ、そうだ。アイツはこういう所は結構律儀なやつだからな。そう言えば、新しいアイディアがあったらまた来てくれよな。」

「あ、それなら丁度ここに――――」


 朝、何故か一気に頭の中を駆け巡ったやつを書いた紙を纏めた物を取り出す。


「どんな感じなんだ? 見せてくれ。」


 エイテ親父は僕の渡した物を眺めると「ふむ、当分楽しめそうだ……」と不気味な笑みを浮かべていた。


「じゃ、じゃあまた来るね。」

「おう。今度来るときにはこれが全部出来上がってるかも知れねぇからな。」

「はははっ、楽しみにしているね。後、お金を払うから、この注射器何本か貰って行っていい?」

「タダで何本でも持って行っていいぞ、まだソレは試作品見てぇなモンだからよ、運ぶのは危ねぇからそこの箱に入れてきな。」

「ありがとう、エイテ親父。」


 作業台の隅に置いてあるクッション材の入った小さい箱に注射筒三本、針五本を入れてエイテ親父の工房から出ていく。


 このクオリティで試作段階ってどんだけ完璧主義者頑固者って感じのところがあるんだろう……


「さて、この後は……折角せっかくだし師匠の薬屋にでも行っとくか。」


 エイテ親父の工房とは全く正反対の位置にあるデスティ薬屋に向かって歩いて行く。


 にしてもやっぱりこの商店街は賑わっているなぁ。

 久しぶりに買食いしながら行くのも良さそうだ。

 やっぱり偶には散歩っていいなぁ……と思いながら懐かしく感じる景色を眺めながら歩いて行く。

 すると西側にある師匠の薬屋に着いた。


 店の外側の窓から中の様子を伺う。

 まぁまぁ広くて明るい店内は綺麗に整っていて、様々な薬品が棚に置いてある。


 最近は色々と売り始めたみたいだな。

 奥の方で従兄弟のメディスが退屈そうに本を読みながら店番をしているのが見える。


 すごい暇そうだな。


 扉を開けてほんのり薬の独特の匂いが大分懐かしいような感じのする店内に入る。

 するとメディスは誰かが入ってくるのに気づき、本を読むのを一旦止め、顔を上げた。


「あ、いらっしゃ――――ってベイリス。久しぶりだな。」

「久しぶりだね。」

「四ヶ月位、中央都市に行ってたんだって? いいなぁ〜」


 メディスがうらやましそうにそう言ってくる。


「うん。二〜三日位前に帰ってきたんだ。そう言えば上に師匠居る?」

「ああ、爺ちゃんなら丁度商品を作って調合してるよ。」

「そっか、じゃあちょっと師匠と久しぶりに話でもして来ようかな。」

「はいよ。そう言えばベイリスってなんで自分の爺ちゃんでもあるのに爺ちゃんの事を師匠って呼んでんの?」

「う〜ん……何となくかな?」


 メディスの居る後ろのドアから中に入って行っていく。


 今、師匠は漢方系の薬の調合でもしているのかな?

 乾燥させた薬草を擦り合わせる音がする。

 奥に進んで行き、作業部屋の前に着くと、丁度る音が止む。


 どうやら調合が終わったみたいだ。


 奥の部屋の扉を開ける。


「師匠ー久しぶりに会いに来たよー」

「おお、ベイリスか。いつ帰ってきたんじゃ?」

「つい二〜三日前に帰ってきて、本当は直ぐに来たかったんだけど色々とあってね。」

「そうか、まぁ、茶でも飲んで行くか?」

「喉乾いてたから丁度良かった。」


 作業部屋から出て、作業部屋の前にある階段から二階に上がっていく。


「そう言えばベイリス、最近は爺ちゃんって呼んでくれないんじゃな。」

「確かにそうだね、さっきメディスにも言われた。」


 薬の調合の仕方を教えて貰って居る時に、何となく師匠って呼び始めてからここ最近ずっと師匠としか呼んでなかったな。


 一応、血の繋がりがある父方の僕のお爺ちゃんなんだけど……


「最近は店も繁盛してる?」

「まぁ、減っても増えても無いからいつも通りじゃ。」

「手伝いが欲しかったら呼んでね、来月まで当分この村に居るつもりだから。」

「分かった、メディスが今手伝いに来てくれとるから当分大丈夫だと思うんじゃが……何かあったらベイリスにも店の手伝いをお願いしようかねぇ。」


 何処か嬉しそうに師匠はそう言う。


「あ、師匠。液体タイプの頭痛薬と調合用の精製水ってにある?」

「勿論あるんじゃが、頭痛薬とは何処か悪いのか?」


 不思議そうにそう聞いてくる。


「いや〜最近死にかけたっぽくてさ〜、それ所為なのか今日すっごい頭痛が来てね……」

「そうかそうか、死に掛け―――ん゛? 死に掛けたじゃと!?」

「まぁ、幸いにもロクス兄さんのお陰で助かったけどね。」

「そうじゃったのか……あんまり危険なことはしないでおくれよ、ベイリス……」


 これまでに無いぐらい心配されてるなぁ〜……

 まぁ、今元気なところを見せると「本当に死に掛けたのか?」って複雑な感情になるよな。


 お茶を飲み終えた後、師匠と一階に降りて店の棚から幾つか薬を師匠に選んで貰い、メディスに会計をして貰った。

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