第3話【帰郷】

「ぷはぁ〜、あ〜美味しかったぁ〜」


 メアリは飛竜船の食堂でまぁまぁ高いお昼を食べて満足そうにそう言った。


「大食らいのメアリさんは俺の財産まで喰らい尽くしそうな勢いだったな。」


 シグが財布の中身を確認しながらメアリにそう言う。


「しぃ〜ぐぅ〜………」

「まぁまぁ、メアリ、落ち着いて。」

「もうっ!」


 そんな何時も通りのやり取りを見ながら、ふと大窓の方に目を向けると―――


「ほらっ、メアリ、シグ。大窓の外を見てごらん、僕らの町が見えてきたよ。」

「おおっ! やっと見えてきたか! 久しぶりだな〜」


 町を出たのが確か青金石の月だったから――5ヶ月前か。

 短いようで長い……

 たった5ヶ月間、中央都市で生活してただけなのに何だか懐かしく感じるな……

 

 そして数分後、飛竜船が街の乗り場に到着する。


 う〜ん……やっぱり中央都市と比べると長閑のどかな田舎だな〜


「ん〜〜、ベイリス、なんだかこの町って今まで生まれ育ってきた時は何とも思わなかったけど……何っていうか時間がゆったりと流れている感じしねぇか?」


 シグが飛竜船から出て伸びをしながらそう言う。

 

「同感、僕も同じような事考えてた。」

「シグ、ベイリス、ボーっとしてないで速く歩かないともう夕方なんだし真っ暗になっちゃうわよ。」

「ヘイヘイ、わーってますよー、ベイリス、お前の荷物持ってやるよ、まだ体調も万全じゃないんだろ?」

「あー、やっぱりジグにはバレてたか〜、じゃ頼む。」


 実は何度か飛竜船のちょっとの傾きでもバランス崩し掛けてたんだよな。

 

 なるべく二人に心配かけたくなかったから殆ど椅子に座って誤魔化してたんだけど……


「じゃあシグ、私の荷物も持ってってー」

「はァ? なんで病人でも無い奴のまで持たないと行けないんだよ。」

「レディには優しくしないとダメでしょ? シグ。」

「あぁ、優しくしてやるさ、俺が女って認識した奴にな。」

「シグ!! 私が女じゃないって言いたいの!!」


 ふふっ相変わらずメアリはシグの冗談が通用してないな〜……

 でもこういう時も、もちろんシグはからかった後は何かをしてくれてるからねぇ〜


「メアリ、これはシグの何時もの冗談だよ。」

「そうなの? ベイリス。」

「そ、ベイリスの大正解。」

「じゃあ、シグ。私の荷物も持って。」

「う〜ん……しゃーねーな。」


 やっぱり。

 なんやかんや言ってシグは結構優しいんだよな。

 近所とかでも意外と女性からの人気は高かったし。

 まぁ、女性って言っても殆ど近所の小さい子からその親とか姉弟とか結構、幅広かったけどな。


 そんなことを考えながら町外れにある集落まで歩いていく。

 同じ方向に向かう馬車とかに乗せてもらえればギリギリ完全に日が沈む前に家に付けたかもしれないけが……

 今回は同じ方向に向かう馬車どころか、人っ子一人居ないんだが……

 

 おまけに町から随分離れたから民家の明かりすら当分見えない。


 まだ少し日が出ている時に木の枝を何本も拾っておいてよかった。


「シグ、そろそろさっきから拾ってた枝を束ねたコレに火をつけてくれないか? シグの火の魔法で。」

「お安い御用だ。ほら、付いたぞ。」

「ありがと。これて即席松明の完成だ。家の辺りまで保ってくれるといいんだが……」

「まぁ、今夜は満月だから何とかなるわよ。」

「火があれば近づいて来ねぇんだが、メアリが魔物とかに襲われても俺は知らねぇからな。」

「そんときは私の水と雷の魔法で何とかするわよ!」


 少し両手の平に雷と水を発生させながらメアリは「いつでも打てるわよっ!」て感じを出している。


「森と草原に挟まれてる道だから雷の魔法は使うなよ。燃えたら厄介だから……まぁ、メアリなんかの魔法でそこまで被害が出るか分かんねぇけど。」

「なんかのって何よ! シグ!」

「ま〜ま〜、メアリ、シグ、騒いでたらホントに出てきちゃうかも知れないから少し急ぎながら行こうか。」


 暗い夜道を三人で軽く走りながら進んで行く。

 偶に何か動物の気配が茂みからする度にメアリが驚いて、水魔法をバラ撒いて進んだ結果―――


「おいおい、メアリ……魔力切れで動けないってマジかよ……」


 メアリはあっという間に魔力切れを起こしてシグが背負っていく事になった。


 こんな事になって「脅かしすぎたか……」って結構ガチめにシグが珍しく反省していたのが印象的だったな。


 そうして大体日が沈んでから大体三十分後に民家の明かりが見えてくる。

 集落についたら明日の予定を確認し、朝早くから集まる約束をしてから久々の実家に帰って行ったのであった。


「ただいま……」


 家に入りマッチで取り敢えず壁にかかった幾つかの使い残りのロウに火を付け、家の中を明るくする。


「相変わらずこの家には誰も居なくて静かだな。」


 僕の両親は僕が十歳の時に二人とも行方不明になっている……

 何者かに連れ去られるところを見たって言う人もいれば、二人で森の中に入って行くのを見たって言う人もいる。

 他にも幾つか証言があったけどどれもバラバラだった。


 だけど8年も見つかってないんだ……

 もう……いや、こんな事を考えるのは辞めにしよう。

 それに何時も周りに誰かしら助けれくれる人がいるし特に何不自由も無かったな。


 当分この家を空けていたが、隣に住んでいるルダウおばさんか村の薬屋の師匠に僕がいない間、この家の管理を頼んでいる。

 偶にこの家を掃除をしてくれているらしく家の中はきれいだ。


 荷物から中央都市で買っておいた燻製肉を使い、軽く料理をして晩飯を取り、その日はすぐに眠りに着いた。


……………………………………………………


「やぁ――先生。随分とお疲れの様子だねぇ。」


 椅子に座って一息ついていると白い外衣を着た男性に話し掛けられる。


「あぁ、野寺先生か……知っていると思うけど虫垂炎、しかも腹膜刺激症状を起こしていてかなり進行の進んだ患者を手術したばっかなんだよ……」

「おつかれさん。確か当直だったっけ?」

 

 なんだ? ここは?

 見たことの無い……いや、これは治療院で見た夢に似ている。

 どうやら僕はまた夢を見ているらしい。


「あぁ、しっかり寝て手術には万全の体勢で行ったつもりなんだが……やっぱり夜勤明けは疲れが一気にクルよな。」

「そうなのか? 俺は別にそんな疲れは来ないんだよね。そういう体質なのかな?」


 と、話し掛けて来た男性が何か懐かしい匂いのする黒い飲み物を飲みながらそう言う。


 何だったっけ? この飲み物、コー……なんだっけ?

 あの初めて飲んだ時は苦いと感じるやつ。

 ……ん? 僕ってアレ飲んだ事ってあったっけ?


「最近の勤務医は朝から働いてそのまま急患の診察とかしてると三十時間労働超えたりするもんなぁ……お前の疲れづらい体質は本当に羨ましく思うよ。」

「まぁ、そう言う疲れている時はゆっくり寝とけ、当分何もないだろ?」

「あぁ――……」


 段々と視界が暗くなっていく。

 これはただ目蓋を閉じていっているだけみたいだ。


「おいおい、寝るなら仮眠室に行けよ。ナース達の仮眠室よりも豪華な」

「ふぁ〜あ、そうさせて貰うよ、何かあったらぐに起こしに来てくれ。」

「あぁ、分かった。何かあったらすぐに叩き起こしに行ってやるよ。」


 体が勝手に進んでいく。


 あ、やっぱりコレ夢だから自由に動けないんだ。


 仮眠室にあくびをしながら向かっていると途中何度かちょっと違う形の、少しピンクっぽい外衣を着た女性に挨拶をされたりする。


 挨拶を返しながら進んで行くとさっき挨拶をしてきた人と同じような格好の人達が集まっているところの前を通り過ぎる。


 なんだ? ここ。 "なーす すてーしょん"? 

 なんだか分からないけどふとその言葉が頭に浮かぶ。


 仮眠室に着き、白衣(さっきと同じく意識してみたら頭に浮かんだ。)を脱いで壁に掛け、別途に横になり眠りに着いた。


……………………………………………………


 そして目が覚める。

 

「ふぁ〜〜―――……何だったんだろう、今の夢……」


 何か不思議な……懐かしい夢を見た気がする。

 夢の中ではほんの少しの時間に感じられるのに、本当はかなりの時間が経っているってなんか不思議。


「さて、朝食は昨日の燻製肉を保存しておいた芋とか麦とかその他を使ってなんか作るか……」


 料理をし、朝食を取り、一息ついたところで気にしない様にしていた物にめをむける事にする。


「……何なんだろう……このさっきから浮かんでくる初めて見る筈の器具は……」


 透明な筒の先に針を付けて、反対側のツマミを引っ張ったり押したりすることで血を抜いたり薬を体に入れる事ができる道具……


 "注射器"? 何でこんなモノの記憶が? 他にも幾つもの道具が頭の中を浮かんでいる……

 幾つか紙に書き写して鍛冶屋のエイテ親父に頼んで作って貰うか……

  この道具があったら何か役に立つかもしれないし、何より起きてから何って言うか嫌な予感が……

 これが無いと後悔するような予感がする……


 この頃はまだ後々大きな運命に乗せられていた事を知らなかった―――

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