第3話 この紅魔の娘と最後の夜を!

 夜。宴会は終わり。もう解散した後、俺はゆんゆんの部屋の前にいた。

「ゆんゆん?起きてるか?」

「どうかしました?」

「実はちょっと話があるんだが。よかったら暖炉の前でどうだ?」

「いえ、部屋の方にどうぞ」


 客室とはいえ、女性の部屋……。意識するな意識するなー。

「どうかしました?」

「き、聞きたいんだが、今日は本当に旅行で来たのか?」


「さすがカズマさんですね。半分本当で半分嘘です。

もうはっきり言いますが、実を言うと私リッチーになった事を後悔しています」

「……」

 俺は無言のまま次の言葉を待った。


「ウィズさんみたいに目標があれば良かったんですが、私は特に……ただ死にたくないからリッチーになりました。

 本当にバカです。情があるせいかアクアさんも浄化してくれませんし、だからと言って自殺は怖いです……。

 だから、過去に戻って忠告したくて……」

「ん?じゃあ、なんで俺たちの所に来たんだ?今の時代のゆんゆんは、この屋敷にいないぞ?」


「いえ、どうせ自分自身に会っても忠告は聞いてくれないと思います。

 ------だって私はバカですから」

 ゆんゆんが悲しそうな表情をしながら、俺をまっすぐ見つめながら。



「だから、カズマさんにお願いしたいんです。

 今後カズマさんの知り合いでリッチーになりたいという人がいたら止めてください。

 リッチーになったら不幸になります。こんな……永遠のような命なんて……別に欲しくないんです。私が欲しかったのは別の……」


「はぁ……。ったく、なんでこう面倒な件ばかり俺に頼むんだよ」

「す、すいません。でも、私カズマさんにしか頼めなくて……いえ!やっぱりめぐみんにも!」

 この言い方。やっぱりめぐみんには頼めないのか。



「いいよ」

「え?」

「いつも面倒事ばかりしているからな。リッチーにならないように止めればいいんだろう?

 魔王軍の幹部を相手するより簡単だ。任せてくれ」


「は、はい!ありがとうございます!」


 ----とびっきりの笑顔だった。






「じゃあ、寝るから。おやすみ」

「あ、あのカズマさん」

「ん?」

「その……今日は本当に楽しかったです。ありがとうございました」

「ああ、俺も楽しかったよ」

「はい……。では、おやすみなさい。カズマさん」



 そして、俺は部屋を出ていこうとして、ふと思い出したかのように言ってやった。


「そういえばめぐみん。今日の爆裂は百点だったぞ。ナイス爆裂!」(`・∀・´)bグッ!

「ナイス爆裂」(`・ω・´)bグッ!

「やっぱりめぐみんだったのか……」

「……」


 ゆんゆんは固まって動かない。

 俺はそんなゆんゆんに謎を解いた探偵みたいにゆっくり話していく。


「いや、おかしいと思ってたんだよ。アクアやダクネスとすごく仲が良いしさ。

 未来から来たといっても少しフレンドリーすぎだろ?

 まるで何年も一緒に戦ってきた仲間みたいだったぞ?

 あと、決め手は爆裂魔法だ。ゆんゆんが上級魔法をなぜ使わない?」


「そ、それは忘れていたから」

 ようやくゆんゆんが口を開いた。

「忘れる?そんなわけないだろう。じゃあ、なんで『上級魔法を使う事は忘れていた』のに、ネタの『爆裂魔法を使う事は覚えていた』んだよ?」

「……」

「なにか反論はあるか?」






「さすがカズマ。ええ、カズマはこんな人でしたね。どうでもいい事ばかりに頭が回るそんな人」


 ゆんゆん……いや、めぐみんはそんな事を言いながら俺に微笑みかけてきて---。

 一瞬光ったと思ったら、めぐみんが……、ちょっと大人になったっぽいめぐみんが現れた。ゆんゆんの変身は解けたようだ。


 めぐみんのその姿は、めぐみんのお母さんと、今のめぐみんを足してちょうど割る2したような感じの人。

 出るところは出ていないが、髪は長く、少し背も高くなっている気がする。



「なんだ?変身の魔法か何かか?すげーなリッチーってそんな事もできるのか?」

「この姿に戻りたくなかったです。なかったんですよ。だってこの姿に戻ったらもう自分を抑えられなくなって……。

 そうゆんゆんの姿だったから……私はゆんゆんを演じて、自分を抑えて----」

 ん?なにを言ってるんだこいつ?



「!!?」

 なっ!!!急に抱き着いてきた!?しかも泣いてる!?



「カズマぁぁぁ!会いたかった会いたかった!会いたかった!!!」

「めぐみん……」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!カズマーーーーーー」



 俺に抱き着いて泣いてくる、同世代くらいの女の子。

 こういう経験が全然ない俺はどうしていいかわからなくて……。

 わからないが、胸を貸すくらいはできる。

 それくらいはできる。


「カズマ!カズマ!カズマ!カズマ!カズマ!カズマ!」

 俺の胸の中にいる女の子が泣き叫びながら俺の名前を連呼する。

 俺はできる限り、誰にもした事がないくらい優しい声で。


「ああ、カズマだよ」


「すいませんでした!すいませんでした!すいませんでした!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」

「……」

「リッチーになってしまってごめんなさい!爆裂魔法が未来永劫うてるからとリッチーになってごめんなさい!」

 ……こいつ長生きした分、爆裂魔法が沢山うてるからリッチーになったのか……。


「なんで!なんで!なんで!先に……私を置いて死んじゃったんですか!このバカ!」

 めぐみんの頭を俺は優しく撫でて。

「……そうか。悪かったな」


「あなたはバカです!なんでそこで優しくするんですか!本当に大バカです!その優しさに甘えた私のバカ!!」

「……」


「本当に怖かった。怖かった。どんどんカズマやダクネス、ゆんゆんが老いていく……。あれ?私は?なんで老いていかないの?」

「……」


「そこで気付いたんです!私はとんだ大バカ者と!」

「……」


「怖くなった。怖くなった。怖かった。バカの私は逃げ出した」

「……」


「そして、どうなったと思います?もうお墓ですよ。数十年後に勇気を出して戻ってきたら……みんなが……みんなが!!!」

「……」


「あぁ……。私はなんてバカなんでしょう。カズマにあんなにバカ呼ばわりされて、なんでわからなかったのでしょう

もうこんな私なんて私なんて私なんて死んでしまえば----」



 俺は泣きじゃくってだんだん眼の光がなくなるめぐみんを----強く……力いっぱい抱きしめた。

「お前はバカだ。確かにバカだ!でもな俺はもっと大バカだ。リッチーになろうとしたお前を止められなかった俺が悪い。

だからめぐみんだけが悪いわけじゃない!」



 だから死ぬなと言う前に---俺は思ってしまった。

 無責任じゃないか?



「カズマ……カズマ……あぁ、今日がどれだけ私に堪えたか……わかりますか?」


 言うのは簡単だ。でも言ったあと……

 この目の前で泣きじゃくる女の子は……どうなる?



「楽しかった。楽しかった。今日という一日は楽しかった……もっと一緒にいたかった」


 俺は……


「でも、一緒にいられない。ふふっ。当たり前ですよね。だって私はこの時間軸に生きていないんですから……」

「だって、こっちにはここの『私』がいる。どうしようもありません」



 俺は----------------------




「なあ?過去を変えたら、未来はどうなるんだ?」

「……どうもなりません。ここの未来はここの未来です。私がいた所は平行世界的な扱いになって、なにも変わりません」

 やっぱり、そうか。ここまではっきり言うということは、すでに試したんだろう。


「もう少しだけ、もう少しだけでいいから、このまま……お願いいます」

「あ、ああ」

 めぐみんが力いっぱい抱きしめてきた。

 今までめぐみんはどんな事を思って生きてきたのだろう?

 爆裂爆裂言っているが、なんだかんだ仲間想いのめぐみん。

 そして、俺の事を好きと言ってくれるめぐみん。




 俺の胸の中で泣いている大切な仲間を見て、俺は一つ決意した。




「うぅ……カズマぁ……ごめんなさい。最期を看取れなくて……怖くて……逃げちゃって……神器を使って会いに来てしまって……卑怯でごめんなさい」

 あーあ、やっぱり面倒な件になっちまったなー。

 でも、仕方ないか。大切な仲間。しかもめぐみんの為だ。




「ありがとう。めぐみん。俺のためにそこまで泣いてくれて」

「あ……あ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」



 その後もめぐみんは泣きまくった。

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