第34話 ゴールデン惚気けるかおるちゃん

 葉月亭はづきていプレオープンから数日。

 色々な事があった。


 まず始めにさきさんにナスカさん朝食ご招待の件がバレてしまった。


 なぜバレたかというとナスカさん本人がケロッと喋ってしまったのだ。「ウマウマの家の朝食は肉が多いよね」葉月亭での一コマで鋭い咲さんは全てを察したらしい。その後にはんなりとチクチク言われはしたけど「ナスカん家は忙しいからなぁ。仕方ないなぁ」と親友の許可(?)は得た。


 それとは別に「サキサキにはウマウマを1日貸してあげる」と親友さんは物騒な事を言う。「今回はそれで手打ちやな」と俺本人の許可を待たずして話は進んでしまった。


 あのあの、交渉材料の意思は?

 あぁそうですよね、ありませんよね。


 とりあえずなのかなんなのか。自体は丸く収まるようです。




 さて、ここでビッグニュースです。

 なんとこの度、料理部に新入生が加入しました!(ワァーパチパチパチ)


 正式にはゴールデンウィークからの入部になるけど入部する意思はあるようでお父さんは嬉しい!

 誰が入部するかって話を語りたいんだけど……ね、そのっあのっ。色々な事情があるので別の物語というか別の機会というか、まぁ入部してのお楽しみという事でっ!




 ビッグニュースの後で悲しい話をしなければいけないのだけど。

 この度俺は……失業しました。


 学生が失業とはこれ如何に。

 と思うかもしれないけど事実なのです。


 葉月亭の翌日にバイト先に顔を出した時の事。

 オカマママ「今週で店閉めるからん♡」

 俺「ハートじゃねぇわ!」

 鋭いツッコミをしてしまったけど内容を聞いて納得してしまった。


 オカマママの妻、小波こなみさんが臨月を迎える。ふたりの幼子を面倒見ながらの出産は何かと心配事が増えるらしく、そこでオカマママは育児休暇を取る事にした。


「お店の事があるから取らなくていいって言われたけど心配じゃない? もうふたりも産んでるんだからって強く言うけどそういう事じゃないのよんねぇん」


 オカマママも父親なのだ。

 愛する妻の役に立ちたいと色々考えているらしい。それでも店の従業員の事も考えなくちゃいけない。そんな折、葉月亭の開店が決まり渡りに舟だった。


 オーシャンレインの面々は働き口を失わず、葉月亭からしたら即戦力がやって来てくれる。お互いウィンウィンの関係が出来上がり。

 葉月亭でのサラさんは「オーシャンレインがない時は――」と言っていたけど、裏で色々根回ししていたようだ。


 という訳で、俺も例に漏れずバイト先はしばらく葉月亭になりそうだ。


「しょうまさん。いっぱい働いて汗流そうね」

「う、うん……お手柔らかに」

「夜も汗流そうね!」

「そっちが本命かっ!」


 葉月ちゃんのアホ毛がサタデーでナイトなフィーバーをしてた。




 そんな怒涛の日だった4月も今日で終わる。つまり明日からゴールデンなウィークが始まるのだ。その為教室内は色めき立っていた。


「くぅぅ。連休だよぉ!」

「いいなぁ。私は部活だよぉ」

「どこ行こうかなぁ」

「俺は家族で旅行だな」


 ホームルーム前の時間はクラス内が賑わっていた。


 ――ガラガラ


「うぃーっす。みんなおはようさん」


「「「「「おはようございます、かおるちゃん」」」」」


「先生だっつーのっ!」


 我らが担任、すめらぎかおる先生の登場である。お決まりの挨拶もそこそこにかおる先生は出席を取っていく。


「みんないるな?」

「「「「はいっ!」」」」


「調子はどうだ?」

「「「「元気ですっ!」」」」


「よしオッケー」


 かおるちゃんの秘技・時短出席確認。

 ぐるりとクラスを見回した先生はみんなの顔色を伺いコクリと頷く。


「明日からゴールデンウィークに入るけど怪我せずにな」

「「「「はいっ!」」」」


「危ねぇな事はするなよ?」

「「「「はいっ!」」」」


他人ひと様の迷惑になるような事はするなよ?」

「「「「はいっ!」」」」


 みんなの息ピッタリに先生の言葉に返事をする。そして例のごとく『かおるちゃんの犬になり隊』の剣士武虎けんしたけとらが言葉を紡ぐ。


「我が君、ゴールデンなウィークにわたくしめとシャンデリアが煌めくレストランでも」


 大仰な身振り手振りで先生の前で膝をつく剣士くん。


「アホたれ。私を口説こうなんて100光年早いわ」

「光の速さを超えてゆきます」


 お決まりの返しにクラスに笑いがおこる。


「それにゴールデンウィークは出雲いずもに行くからこっちに居ないんだよ」

「なっ……それはもしや。新婚旅行というやつですかっ!」


 ミュージカルのように驚く剣士くん。

 新婚旅行って例えに女子達が色めき立つ。


「違ぇっての。旦那の付き添いだ」

「……だ、旦那」


 剣士くんのHPにダメージが入る。


「ついでに出雲大社いずもおおやしろに観光には行くがな」

「ぐはぁっ」


 剣士くんに効果はバツグンだ。


「それにほぼ毎週どこかしらに行ってるからなぁ。新婚旅行って言うなら毎週新婚旅行だな!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」


 剣士くんは倒された。


「先生! 剣士くんが息してません!」


 駆け寄った愛華あいかさんがノリノリで報告している。委員長もこのクラスに馴染んだようで良かった良かった。


「寝かしてやれ」


 無慈悲な先生が合掌をしてクラス内エチュードは大歓声のまま幕を下ろした。


「あっそうだ神月かみづき。放課後私の所に顔出してくれ」


「新婚旅行に着いて行っていいんですか?」


「アホたれ。私とげんくんの邪魔するな……あっ」



 ニヤニヤするクラスメイトにしまったという顔のかおる先生。旦那さんを「玄くん」と呼ぶ事がバレてしまいました。


 賑やかな日常が戻って来たなぁ。

 4月最後の風が窓の外から入ってくる。


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