すべてが白になってました!

平中なごん

一 二年参り

 その年の大晦日、僕はふと思い立ち、近所の神社へ二年参りに出かけた。


 チラチラと白いものが舞う漆黒の夜空に遠く除夜の鐘が鳴り響く中、天へと続く石段には賑やかな人々の声が溢れている。


 ローカルな小さな神社だが、早や年も明けようという時刻にも関わらずけっこうな人の出だ。


「――さて、なんと書こうか?」


 そんな人々の流れに乗って山頂の社殿へと到り、パンパンと柏手を打ってご挨拶をした後、僕はせっかくだし、絵馬を書いていくことにした。


 しかし、いざ願いを書こうと置いてあったサインペンを手に取ると、何を書けばいいのかわからず、その手を宙で止めてしまう。


 いや、某100万円をばら撒いてる元社長みたくお金持ちになりたいとか、カワイイ彼女が欲しいだとか、月に行きたいとか…いや、月には別に行かなくていいけど、とにかくそんな月並みな願望はもちろんある。


 しかし、そんな月並みな願いではなんともつまらないし、そもそもブラックな企業でこき使われ、お金を使う余裕も彼女と遊ぶ時間もないこの社畜暮らしの中、そういった月並みな幸せが得られるビジョンはとてもじゃないが描けないのだ。


 それよりも、もっと何か面白いことが起きるような願いは……。


「そうだ! そのまま書けばいいじゃないか!」


 僕はなんだか天啓を得たような気がして、ストレートにその願いを書くことにした。


「世界が面白くなりますように……と」


 一気呵成、木目も鮮やかな白木の板にそう書き込むと、社殿脇の絵馬が鈴生りになった紐に同じく僕もそれを吊るし、再びパンパンと柏手を打って神様にお願いをする。


「これで少しは面白いことあればいいんだけどな……」


 そして、特に期待もしていなかったが、それでもなんだか少し晴れ晴れとした気分になって、いつの間にやら新年を迎えていた深夜の山道を独り家路へとついた――。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る