生活改善!! はじめての造作。


 朝一にメゼ婆さん所に行って、話をして依頼を受けたら

  既に夕暮れ。ルイの家についたら既に陽が落ちたとか…。


 家の入り口の前で、不機嫌そうに立っているルイがいる。

  明らかに原因は俺だろう。


 ちゃんと収穫ありで帰ってきたのになぁ。

  門限はやすぎねー? と、思いながらも…。


  「日野陽太一等兵ただいまもどりました! ルイ軍曹!!」


 シタッ!と姿勢を正して右手を水平に額に当て、

  ルイに向かってヘタクソな敬礼。

  

  「…じー」


 言葉に出して凝視しつつ苦笑いされた。

  何か笑いを取る行動をなんとかとりたい所。


  「…遅くなりました。ごめんなさい」


 だが素直に頭を下げて謝った。


  「うん。心配したんだからね。お昼にも戻らないし」


 …過去に色々あったんだよな。

  まさか子供時代に流言でハメられ…、

 余りの事にブチキレて脱線したままなのだが、

  一体どんな流言を流されたんだろうか。

 彼女が街から離れた所に住んでいるのも、

  それが大きく関係しているのは、想像に難くない。

 そんな街中に一人で行ってきて帰りが遅いからだろうか。


  「ああ、ごめん。メゼ婆さんと話し込んでて。

    あ、でも10億ギッド分の依頼も手に入れたよ」


  「兎に角、無事で…って、10億分!?

    悪威討伐でも1億もいかないんだよ!?」


 うお!? おもいっきり食い付いてきた。

  …ふと家を見ると、いかにもお金ありませんと言う具合。

 あれ、でも俺。悪威20体倒してるんだよな。

  1億いかなくても、かなりの報奨金あるんじゃね?


  「あぁ。ビスマルク家を越える地位と名声を手に入れて

    ルイ、君をを風凪に就かせるっていう依頼」


  「ババ様…無茶だよ」


  「いや、時間はかかるけど。あながち無茶でもないんじゃ?」


 悪威を20も討伐している。それなりに名前は知れているんだろう。

  記憶は無いにせよ、そこを巧い事使えば、時間短縮出来無いかと。


 色々と頭の中で都合の良い事を展開しつつ、家の中へ入ると、

  ルイが俺の方へと向いて鼻をつまんでいる。 何だろう。


  「ねぇヨータ? 昨日もお風呂はいってないよね?」


  「ん? あー。うん。そのまま寝てしまったような」


  「…くさいよ?」


 全身仰け反りオーバーリアクション。

  いや、それ程の衝撃を受けた。女の子に臭いと言われた事に。


  「…まじ?」


  「うん。すっぱくさい…」


 そういや、引き篭もってた時も何日か風呂に入らず。

  自分で自分のジャージの袖を嗅いでみたが、それ程でも。


  「いや、まだいけるんじゃね?」


  「くさいって!! お湯は入ってるから早くはいりなさーい!!!」


 ぐあっ!と、一瞬だがルイが何倍にも大きく見えた。

  眼前まで接近された瞬間、ふんわりと石鹸の香り。

  清潔感のあるいい匂い。対して俺は酸っぱいらしい。


  「は や く!!」

  「ひゃいっ!」


  余りの威圧感に慌ててバスルームへと駆け込む。


 そういえば初めて入るよな。バスルームを見ると蛇口が無い。

  石作りの風呂桶にお湯が入っている。


 …えと。どうやってお湯沸かして入れたの?

  

 理解不能。いや、まさか、考えたくも無いが…。


  「キッチンでお湯沸かして、風呂桶に移したのか!?」


 どんな作業量だよ。いや、だからかあの怪力。

  普段の生活作業が力仕事だから…。

 いやしかし、お湯沸かして入れてる内に冷めるだろ!?

  

 手を突っ込んでみると、やはりぬるい。然し、然しだ。

  熱いか、ぬるいか、冷たいか、それは問題じゃない。問題なのは―


 先にルイが入ったという件。

  つまり、ルイの残り湯?


  「うひょーっ! いっただきまーす!!!」


 ルパンもビックリの速度で衣服を脱ぎ捨てて風呂桶にダイブ。

  したかったが、流石に体を洗ってから入る。


 石鹸はあるのな。それを布にゴシゴシこすり付けて、

  泡を出して体を洗い、次は頭…あー。

 シャンプーまで石鹸なのか、髪がバッシバシになるぞ。


 まぁいいか。ワシャワシャと洗っていると何かドタバタという

  音が聞こえる。多分またチマ子ーズが遊んでいるのだろう。


 目を瞑りつつ手探りで桶を探し、手に取り頭を洗い流した。


  …。


 目を開くと、目の前にルルカとマルルが湯船に入り、

  俺を見ていた。


 …。


 二人の視線が俺の顔から胸元、そして下腹部へと。


  「ヨタは足が三本!」

  「バランス悪い!」


  「何時の間に入ったよ!? つかこれは足じゃねぇ」


  「「じゃあ何だ?」」


  「うぐぉ」


 食いつくように凝視される。いやだ何この羞恥プレイ。

  然ししまった、軽くそうだよと流せば終わったのに…。

 ナニの説明をどうすれば…。


  「二人にはまだ早いからほれ、さっさと風呂に入らせろ」


 と言うと、ごり押しで流して湯船に浸かる。

  折角のルイの残り湯が…ビースト入りになっちまった。


 しかも落ち着けない。さっきからお湯を俺の顔にバシャバシャと

  かけてきたり、肩を噛み付いてきたり、顔に蹴り――


  「やめんかおるぁ!!」


  「「ヨタがおこったー!」」


 全く持って落ち着けない。考え事も出来無い。

  尚も続く嫌がらせを無理矢理無視して考える。


 今、俺がするべき事は何か。それはルイを風凪にして、

  家族をこっちに来させること。然しそれはまだ先だろう。

 なら、何をするべきか…うーん。


 いや。俺がするべき事は、生活改善だな。

  文化レベルがやば過ぎる。持てる知識を総動員して

  電化製品は無理としてもだ、少しでも近代的な生活にしたい。


 一つ頷くと、尚も続くチマ子ーズの猛攻を受け止め、

  両脇に抱えて風呂を出た。


  「「は な せっ!!」」


 と、言うので離すと、胸元から落下して床でバウンド。

  するかと思ったら流石は獣。身を翻して見事な着地。


  「「フゥゥーーーッッ!!」」


  「これ、嫌われてんの? 好かれてんの? どっちだよ」


  「大嫌いに決まってるだろがーっ!」

  「好きの反対にきまってるーっ!」


  「あのな。好きの反対は無関心だと思うぞ…」


 今のルイが俺に対してそうなように…うっ。

  自分で自分にダメージを与えてしまったようだ。


 いつの間にか置かれていたヨレヨレの布の服を着こんで、

  ヨレヨレとリビングへ行くと、ルイがテーブルの前に

  立っていて、ご飯出来てるよー、と。


 残念ながらエプロンはつけておらず、いつもの白のブラウス。

  長めの紺のスカートなのだが。寝巻き姿も見たいなぁ。


  「ほら。早くしないと冷めちゃうよ?」

  「ほいさ! いただきます!!」


 と言うと、テーブルに近づくと何かのキノコと山菜の炒め物。

  昨日もそうだけど、肉が、食いたいなぁ。


  「ルイーっおにくがすきーっ!」

  「またきのこ。やーっ!」


  「好き嫌い言わないの。そんな高価な食べ物はうちにはないの」


 へ、へぇ。やはりそうなんだ。此処は一つ、やはり一つ。

  男としてその存在意義を果たすべきだろう。

 塩の味しかしないキノコと山菜の炒め物を食べ終える。


 風呂に食事。夜に済ますべきことを済ませた俺は、

  まず何から改善するかと考えていた。


 椅子に座り考え込む俺に、ルイが心配そうに覗き込んでくる。


  「何か、考え事?」

  「ん? ああ。これから俺がすべき事。

    それの順序を決めているだけだよ」

  「へぇー。すべき事って?」

  「生活改善!!」

  「ん、んん?」


 ワケが判らないよ? と、愛らしく首を傾げるルイを見て、

  ビックリさせてやろうと尚更にやる気が出た。


 そして、俺達は寝る事になるのだが、相変わらず隣のベッドで

  静かに寝息を立てている無防備。加えて寝巻きを着て欲しい。

 そこまでアレなの? 貧乏なの!? 


 これは早急になんとかせねばならない問題だ。



 翌日、早起きして家の物置にあった鋸やら釘を持ち出し、

  近場の木を…切ろうとしたがそもそも板ってどうやって?


 木は切り倒せたとしても、木の板に加工する技術が無い。

  出来て精々、不恰好な薪だろう。

 暫く考え込むと、石造りだろう風呂桶はある。

  その土台を作って上に乗せて、火をくべる感じでどうだろう。


 ヨシ!と、右肩をぐるっと一回転させて、家に戻り風呂桶を観察。

  持ち上げるのは、太い木の棒、テコの要領でなんとかなりそうだ。


 ならば土台作りと、トライアンドエラーを繰り返す。

  重量過多で土台が潰れたり、小さすぎたりしたが何とか完成。


 …作ってから思い知る。乗せてる所が燃えるじゃないかと。


   「うーん。どうしたもんかいな…」


 いやまて。土台はそのままに四隅を補強して、中央付近を

  耐火性の高い材質で囲えば…例えばそうレンガ…は無い。

 なので大きめの石を探して、叩き割り土台の下に積み上げ囲う。


 後はこの隙間を埋めたい所なのだけど…。モルタルとかあればなぁ。

  と、考えていると、前に大工さんぽい人が壁に白いモノを塗っていた。

  それを思い出し、散々書きなぐった設計図を手に街へと走り出した。


 中央大通りで工事中の頑固そうなオジサン大工を発見。

  短い茶髪にいたる所が破けた布の服を着て、壁を塗っている。

  さっそくあの白い粉を分けて貰えるか尋ねてみた。


   「なんだ坊主…て、おいおい。ヨウタじゃないか。

     何時戻ってきたんだ? ルイは元気か?」


   「また面識あり!? と、すみません記憶をなくしてしまっていて。

     ルイなら元気ですよ」


   「そうかそうか。しかし難儀な召喚だな。まぁいい。

     で、この石灰をどうするんで?」


 おお。石灰だったのか。それを泥に混ぜて防水にするみたいだ。

  俺は手にした設計図を彼に見せると、目を丸くして驚いている。


   「風呂桶の下に…成程。考えてもみなかったな。

     どうだヨウタ。この設計図と石灰を交換するってぇのは」

   「え、いいの? そんなので良ければ…」

   「いやいややっぱ待て。良し、これの試作をお前の住んでる所。

     ルイの家か? そこで造る…ああ無理か」


 大工さんに手伝って貰えるのはありがたい!

  右手で握り拳をつくり喜んだ瞬間、無理だと言われ、何故かと尋ねる。


   「ルイが対人恐怖症…。いや、人を信じなくなっちまってな。

     …奴等の口車に乗せられた俺達が言うのも何だが」


 コミュ症なの? なのに何で俺には平然として…。

  まさか、真面目に俺を幻獣と思い込んでる? 

 ま、まぁ。現時点ではそれでいいかな。普通の人と判った途端、

  家から追い出されて衣食住の危険が危ないになりそうだ。


   「そ、そうですか。では石灰だけでも…」


   「おう。物造りは苦しいが、完成した時の喜びは

     その何倍も嬉しいもんだ。頑張れ」


 そう言うと、俺の肩を鉛かと思える重量の右手がのしかかる。


   「然しよぉ。お前も俺達が憎く無いのか?」


 本当に、心の底から、申し訳なさそうに尋ねてくる大工さん。

  それに対し俺は少し笑みを浮かべながら答える。


   「俺は、当事者でも無いですし。

     それにまだ、終わっていない」


 むしろ、これからだ。そう言わんばかりにオジサンを見た。

 

    「お、おぉ。と言う事は…そうか」


 何かに納得したように、俺から手を離すと、

  石灰袋を手渡してくれた。


 それから俺は街を出て、全速力で家へと帰り、

  泥と混ぜて灰色になったモノを囲いに塗る。


 後は乾くのをその場で待っていると…。


  「ヨウタ? これ、何かな」


 後ろからルイが来て、半ば五右衛門風呂と化した風呂桶を

  不思議そうに見ている。


  「これ? これは水さえ入れたら、後は此処で沸かす

    だけで済むようにしたんだ。まだ試作だけど」


 正直、水を入れたら重量で土台が壊れそうな気がしなくも無い。

  だもので、更に石を詰め込んで補強したのだが、不細工だ。


  「うわー…。そんな事まで出来るの? 凄い」


 両手で口を覆って驚くあたり、こういう風呂がまだ無いんだろう。

  俺としてこれでも原始的なものだが。少し天狗になりそうだ。


 と、いい感じに乾いたようなので、水を運んできて入れたのだが。

  とんでもなく重労働。次は水周りだな…と、言うと。


  「え? 水の幻獣スーイアルに頼めば…」


  「へ?」


 そう言うと、ルイは掌を地面へと向けた。


  「育み、流れ、旅する者よ――」

  「うぉ!? 足元に魔法陣!?」


 流石に驚き、飛びのく。


  「今暫し足を止め、我が前に現れ給え――スーイアル!」


 パシャーッ!と、光り輝く魔法陣から水飛沫を上げ、

  一体の…魚が飛び出した。何の変哲もない鯖のような青魚。


  「これが幻獣…だとでも言うのか!? 焼いて食うか」


 などとボケてみると、怒りに触れたのか口から強烈な

  水を吐き出して俺は壁に叩きつけられた。


  「ちょっとヨウタ、そんな事いっちゃだめよ…」

  「ぷくぷくぷくぷく」

  「いってぇ…。腐っても鯛かよ」


 更に水撃をもう一発喰らうハメになったのは言うまでもなく。

  彼? 彼女? に、ルイは風呂桶に水をたんまりと入れて貰った。


  「な、なぁルイ。召喚獣の使い道…おかしくね?」

  「えー…便利だよ? 火とか風とか土とか」


 ここで発覚。水の奴で水を入れて、風の奴で石を浮かせながら

  火の奴で浮かせた石を焼いて風呂桶に入れて沸かすらしい。


  っざーけっ!! 俺の今までの苦労はなんだったんだよ!!!!


 然し、四属性可能なのか。万能だなぁ、

  流石に偉いお役目候補だけあるわ。

  というか…俺もそういうの使いたい!! 


  「ルイ。俺も召喚術使いたい!!」

  「えー…と。幻獣が幻獣を召喚するの?」

  「いや、あのその。うん、まぁいいや」


 危ない方に話題が向きかけたので、無理矢理話題を変えた。

  そういえば気になってたんだが、メゼ婆さんの言ってたアレ。


 ルイの夢幻召喚に影響されて、備わった俺の特殊技能。

  地味に気になってたんだよな。折角なので尋ねてみた。


  「ヨウタの? 私と君。二人で夢幻世界の住人をコチラに―」


 おお! 共同作業的な…と、思うや否や、家が激しく揺れ動き、

  同時に街の方から激しく打ち鳴らされる鐘の音。


  「警鐘!? ヨウタ!」


 警鐘と言い切るとルイは俺の右手を掴み、家を飛び出た。


  「う、おおおおお。すげぇ、なんだありゃ」

  「一ツ目巨人…? 山からどうして…」

  「判らないが、やばくね? 見た目からしてやばくね?」


 理由を聞くも探るも時間は無く、俺はルイに引っ張られ

  既に街を囲む高い壁が崩れた場所を目指して走り出した。

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