第一幕 異世界生活!! はじめました。


      第一話 はじめてのおつかい


 ルイの家を出て一時間程。大きな街の入り口へと辿り着いた。

  

 ピタリと街へと入る前に足元を見ると、石畳というやつだろうか

  それがビッシリと敷き詰められている。


 ぬったぬたの土より歩きやすそうだ。と、安心して街中へと。

 

 入って早々立ち止まり、周囲を見回すとまだ朝も早いだろうに

  行き交う人々の多い事多い事。服装は…うん。

  中世ヨーロッパに近い気がする。


 ともすると面倒臭い貴族とか、魔女狩りとか存在してるのだろうか。

  要らないよなぁ。などと思いつつ街並みを見た。


 石作り…では無いのか。良く見たら家を建てている人が、

  何か塗っている。ペンキなのだろうかモルタルだろうか不明。


 さてさて、ルイに貰った地図で先ずはババ様とやらの家を目指す。

  入り口から近い大通り、大きな鳥の彫像が乗っかった井戸のある家。

 

 ふむふむ。と、それらしい井戸を早速発見…はっけ…でけぇなこの鳥。


 井戸に屋根がついており、その屋根に羽根を広げた大鳥がとまってる。

  ほへー…と、ポカンと口をあけて彫像を見ていた。


  「ほっほっ…三絶が一つ。[禍つ風]の彫像じゃよ」


 優しそうな声色。長い白髪を三つ網した御婆さんが、いつの間にか

  俺の後ろでニコニコと微笑みつつ、俺を見ていた。

 この家の人、ルイの言うババ様だろうか? 俺は尋ねようと。


  「これで何度目かねぇ。[禍つ風]の説明をするのは。

    また記憶を無くしてきたのかい? ヨウタや」


  「あーッ!! 面識ありましたか!! ごめんなさいごめんなさい――」

  「カナブン?よりごめんなさい。じゃったかな?その続き」


  「また同じ事言ったの俺! なんて引き出しの無さよ…」


 その落ち込み方も同じだと笑われる。

  これだと俺が来た理由も知ってそうだなぁ…。


  「見た所、今回ちゃんと成功したようじゃな。

    して、用事があって尋ねてきたのではないのかの?

   まぁ、中にお入り、立ち話は腰にくるでの」


 そう言うと俺は家へと招かれ、椅子に座る。

  木造の内装に何かの香水の匂いがふんわりと。

 あ、香水では無く香木か。テーブルの上にいい香りのする木片が

  少しだけ煙をあげている。すぅ…と吸い込むと心が落ち着く。

 ハーブに近いけど、何処か違う。

  香りに煩くないので例えが見当たらず。


 香木に木を取られていると、ババ様が台所からお茶を持ってきて

  テーブルに置き、俺を見据えて話を再開しようかと。

 だがその前に自己紹介は礼儀なんだけど、既に面識あるとか…。


  「ワシは、メゼ・ファス。しがない召喚師じゃよ」


  「ありがとうございます。俺は日野 陽太です。

    何度目かは判りませんが…」


 かなりの目上の人なので、深く頭を下げ、本題に入った。

 用件を全部聞き終えると、それは可能だが、不可能でもある。

  そう、言われた。金額の事だろうか?


  「お金なら気合いでなんとか…」

  「召喚素材にねぇ…必要なのさ。時空すら捻じ曲げる力を持つ

    [禍つ風]の羽が一枚…」


 いきなり無理な素材キタコレ。まぁ、そもそも世界跨ぐなんて

  そうホイホイと出来るもんでもないしなぁ…アレ?


 何かに相槌を打ちつつ、俺は首を傾げ、メゼ婆さんに尋ねた。


  「あれ? そんな難しい召喚なのに、俺は良くこれたんですね」


  「ああ…。あの子は、ルイは特別。ある種の天才じゃからな」


  「天才か。凡人の俺にはとても―――」

  「羨ましいとは、妬みじゃ。良いか、ルイには決してその言葉

    口にするでないぞ?」


  「え、あ、は、はい」


 間髪いれず言葉を遮ったメゼ婆さんの目は真剣そのもの。

  下手に口を滑らせたら、金輪際関わりを断たれそうな勢いだ。

  此処は一つ、素直に聞いておこう。


  「口で言うても判るまい。どれ、一つお使いを頼まれてくれぬかの?

    さすれば、ルイの過去。その一部を見せてあげようかねぇ」


  「うぉ。そんな事できるんですか、お願いします」


  「うむ。では…」


 紙に書かれていたソレは…うん。読めません。

  言葉通じるのに何で文字ダメぇ!? 

 すみません読めません。と、メゼ婆さんに頭を下げて内容を聞く。

  

 街から出た北へ少し歩くと、小高い丘に咲く花を摘んできてくれ

  との事。ただ魔物も出るが俺なら平気だろうと言われた。

 …ルイにも言われたけど、そんなに俺、強いの?

 記憶も実感も今のところ、ゼロなんですが。


  「あの、俺自身の事なのですが…」


  「ふむ? あぁ、記憶が無いんだねぇ。

    ルイの力の影響か、お主自身にも幻獣の力が宿っておる

    ようじゃ。数多の悪威を討伐せしめる程の…強さが」


  「その言い回しだと、メゼ婆さんも直接は…」


 無いとばかりに大きく頷いた。


  「だが、逸話は数多く残しておるぞ?

    閃光を伴った咆哮で六足の双魔獣を討ち。

    雷の疾さで巨岩騎兵を打ち砕いた、等々」


  「どんなん!? そんな記憶微塵もねぇよ!?」


 少し、間を空けるようにメゼ婆さんは、窓の外を見やる。


  「お主の居た世界にそれは不要。

    だからこそ封印されたのかも知れぬな、世界に」


  「使えたら世界征服楽勝だろうなぁ…。

    ああ、成程。だからか」


 ぽむりと手を打ち合わせ、納得すると、俺はメゼ婆さんの

  依頼を消化する為、家を出た。


 正直、謎だらけなルイの事を少しでも知りたい。そう思う。

  彼女が言われて嫌な事は極力避けたいしな。

 

 出来れば、言い所だけ見せて振り向かせたい。そう願う。


 

 場所は移り、依頼の品があるだろう小高い丘がある場所へと

  やってきた。さわさわさわと優しい風が足元の草を撫でていく。


  「おー。弁当食ったら美味そうな景色。

    …あ、魔物いるんだっけか」


 用心用心と身を屈めつつ、目的の花を探すのだが、

  アレ? どんな花? それ聞いてなかったよ!?


 どうしよう、今から聞きに帰るかな…。

  と、考える俺の後方足元から、土がモコモコと盛り上がり

  近づく。それに気付かない俺は接近を許してしまい―――


    ズドン!!


 と、お尻に何か鋭く尖ったモノが抉るように突き刺さってきた。


  「おピぎにゃぁぁぁぁぁあッッッッッッ!!!」


 余りの痛みと衝撃に、そのまま前へとつんのめりながらも

  後方を見やる。何かが地中から飛び出てきた。

 そして俺に菊をブッ挿して、また土中に逃げ込んだ。

  そこまでは理解出来たが…。


  もここここここここここここ


  「ちょ…」


 五つぐらい別方向から土が盛り上がってきてるんですけど!?

  やめて!? そんなに一気に入らないから!!


 いやいやいや!一本でももう嫌!!! と、吐き捨てて飛び起き、

  距離を取った。何か対処法、対処法は無いのか!?


 周囲を見ると大きな木が一本生えていたので、

  慌てて駆け寄りよじ登った。


  「ふぅ…ここなら安全なようだが」


 逃げ場が無いと言う事に代わり無い。

  然し現状、アレをどう…いやまて。

 仮にアレが100%ケツを狙ってくる習性があるとする。

  なら、ケツに硬いもの仕込めば…試すか。


 木から下りて速攻、近場の大きめの石を手に取り、

  ジャージのスボン。その後ろ側へと入れる。


  「…はたから見たら、漏らしちゃったみたいだな」


 誰にも見られて無い事を祈りつつ、三種類程ある花を

  適当に摘む。手ぶらで聞きに帰るよりゃマシだろ…うっ!?


   ガチィィッ!!


 予想が的中したようで、尻に仕込んだ石が土中からの攻撃を防ぎ、

  あろうことか気絶した魔物まで足元で転がった。


  「ナニコレ…モグラ? に、何か短い翼が生えてるけど…」


  「もっきゅぅぅぅぅぅ…」


 不細工! だが、そこはかとなく愛着が持てた。

  本来なら踏み潰してケツの恨みを晴らすべきだが、

  捕まえて持ち帰る事にした。


 他にもまだ居るので、再びケツに石を仕込んで危険地帯を

  抜けた俺は無事? メゼ婆さんに花の詳細を聞きにいく事にした。

  

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