BIG Seven the world fragments

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Fragments1 老兵は死なず、アンチエイジングを行い居座り続ける

《Orient, Wingman. Picture, Bogey 2groups, high speed. Garden 1-6-5, for 0-3-4, north target angels 21, south target angels 19. 》


 第二波が来るなんてツイてないな。今日は比較的簡単なお仕事のはずだったんだが。マイクを2度押すことジッパーで応答を返したオリエント隊隊長の倉持レイピアは、スプレッド・フォー単横陣への隊形変化を指示する。ウイングマンAWACSボギー敵味方不明機などと言っているが、このタイミングで165度南南東付近から来るのはバンディット敵機以外に有り得ない。俺たちが乗ってる六式は、大戦時代のオンボロと言われることもある。だがな、世界標準で見ればまだまだ最精鋭の機体だ。改修を重ねたコイツは電探レーダー性能は勿論、機体性能だってどの現役機にも引けを取ることは無い。その上こちらの誘導弾の方が長射程だ、初手で纏めて食ってやる。


《Orient, Wingman. Bandits 4, 2groups. Bearing 0-0-5, 6-5, north target angels 21, south target angels 19.》


 敵機認定の通信が終わるやいなや、倉持は指示を発した。


《All Orients, radar hot.》


《Butcher, copy.》

《Episode, copy.》

《Caster, copy.》


 各機の応答と共に、進行方向右に5度変針する。射撃のため、ヘッドアップディスプレイを確認しようと思った瞬間にRWRレーダー警報装置に短い音が鳴った。表示されたそのアイコンに、倉持は思わず目を疑う。


「なんで...F-15がここ極東にいるんだよ!?」



 マクドネル・ダグラス F-15。本国においてイーグルイヌワシの愛称を冠すると言われるそれは、アメリカ最新鋭の防空戦闘機にして他国への輸出がされたと確認されたことの無いはずのものだった。


《F-15!? 馬鹿な...フライングタイガースの真似事にしたって中華の地にいていいものじゃないぞ》


 ブッチャー2番機が息を飲む。


《ブッチャー、落ち着け。まだ米軍機と決まったわけじゃない。まぁ現地軍のものだとしても厄介なのは変わりないが...》


 エピソード3番機が唸る。無線を通して彼の悪癖である歯ぎしりの音が聞こえた。


《レイピア、指示を》


 キャスター4番機の声に我に返った倉持は、衝撃を隠せないままマイクに向かって怒鳴る。


《Weapons free, engage my target!》


《Butcher, copy. FOX3.》

《Episode, copy. FOX3.》

《Caster, copy. FOX3.》


 各々の駆る鉄の猛禽、その左翼から紅蓮の炎が飛び出す。先制発射に成功した分、例え命中せずとも動揺を誘うことは出来るはずだった。しかし...


《敵機増速!判断が早い...手練だ、間違いなくエースだ!》

《こりゃ厳しい戦いになるな》

《動き方えげつねぇ...》


 我の撃った誘導弾はギリギリまでひきつけられ...ビーム機動によって回避された。命中0。倉持は悔しさに歯噛みをした。


《こっちも増速、ナナニ七二式空対空誘導弾をもう一発必中距離でぶち込む! それでダメなら格闘戦を挑もう! 続け!》


 CAP戦闘空中哨戒中、それも一度現地軍のF-5を撃墜していることから七二式の残弾は既に一発しか残っていなかった。明確な敵意を持ってこちらへ飛来する理由はおそらく、政治的なものが多分に混じっているのだろう。戦闘空域に友軍が飛来するにしても、まだ時間が足りない。残ったSRAAM短距離空対空誘導弾を使う可能性は視野に入れておくべきであった。既に彼我の距離は20海里を切っている。


 ビーッ、と耳障りな音がけたたましく鳴り出す。RWR上に高速で我に向かうアイコンが4つ表示された。相手も誘導弾を放ったらしい。


《All Orients, music on! 》


 ECM電子妨害装置を作動させる。2発が明後日の方向へ消えるのがわかった。残りはまだ引っかからない。白い雲を引き、誘導弾がその姿を現す。妨害を掻い潜った2発に対し、ブッチャーとエピソードがチャフとフレアを撒き散らして大きく旋回した。爆発。煙は遥か彼方へとたなびいていく。


《ブッチャー、何とか無事だ。流石に背筋が凍ったがな》


《エピソード、こちらも大事無い》


 安堵の息が漏れる。だが油断は出来ない。再度走査を行う。


《Rapier, FOX3.》

《Butcher, FOX3.》

《Episode, FOX3.》

《Caster, FOX3.》


 既にECMはバーンスルーを迎え、必中距離で撃たれたMRAAMは狙いを違うことなくスクリーン上のアイコンへと吸い込まれていく。


《嘘だろ...》


 キャスターが呟く。スクリーン上に表示されていたのは、相も変わらず4つ浮かんでいるアイコンであった。改めて敵の技量を思い知らされる。


「やるしかないな...」



《Go trail.》


 格闘戦に備え、トレイル単縦陣を形成する。


《Orient, Wingman. Merged.》


 ウイングマンより5海里格闘戦距離が告げられた。しばらくして...じわり、と空に染みが浮かび上がる。


《Orient 0-3, tallyho! Black bandits. 1o'clock.》


 いち早く、エピソードが叫んだ。グレーがかった、大型の戦闘機。すぐに散開、各個撃破を試みる。オリエント隊の各員は、視認外距離から既に自らの獲物と定めた相手に対して襲いかかった。


 機体を思いっきり右に倒し、ぐんぐんと回る。ロービジではあったが、交差して旋回を開始した時にちらと見えた国籍は米軍のそれでは無かった。事態の改善は一向にされていないが、最悪の想定ではなかったことに心のどこかで安堵する。


「...集中しろ、教本通りにやればコイツ相手でも勝てないわけが無いんだ」


 F-15は強力な格闘戦闘機だが、その旋回性能は六式戦を相手にするには不十分だとの分析がされている。事実、3度ほど円を描いた時点で相手のエンジンが見え始めた。これなら勝てる。ドーパミンが溢れるのを知覚し、目はヘッドアップディスプレイに釘付けになる。ロックオンまであと僅か―――――


《...ピア...レイピア! ブレイクしろ! 隊長! おい! 倉持ィ!》


 切羽詰まった声のブッチャーからの無線に気がついた瞬間、咄嗟に操縦桿を強く押し込んだ。強いGによって狭窄した視界の先で光弾が複数個弾ける。機体が激しく揺さぶられたものの、警報の類が鳴っていないので被害は最小限に抑えられたようだった。ほんの目の前を掠めて行った死に、体の芯から震えを感じる。多分、同じ芸当をもう一度やれと言われても不可能だ。まさに間一髪だった。



 旋回戦ドッグファイトは終了した。仕切り直しだ。だがここで命のやり取りを終わらせる通信が入る。


《Orient, Wingman. 4friendly approach, 0-1-5, for 2-0, angle 23.》


 4機の増援が、すぐそこまで迫っていた。



《最後のあれ、新型だったのかよ》


 船田ブッチャーがAWACSからの情報提供に愚痴った。既にRTB基地帰還命令は出ている。


《自分でもよく回避出来たと思ったよ。整備員には大目玉食らいそうだが》


 倉持が辛うじて避けた誘導弾は、まだ電波収集が済んでいない新型のアクティブレーダーホーミング方式MRAAM中距離空対空誘導弾であった。乗っていたのはこの大陸の者であったが、米国は余程に入れ込んでいるらしい。


《倉持さんを危険な目に遭わせて本当に申し訳ないです》


 キャスター川谷が既に回数が2桁を突破した謝罪を繰り返す。彼と交戦した機体こそが、一瞬の隙をついて不利な格闘戦から離脱し、虎の子であるそれを放ったのである。


《結果的には無事だったんだからいいんだよ。それに向こうは我々の機体の特性をよく理解していた、紛れもない精鋭だった。その上初見の相手だったんだ。皆生きて帰れるんだから儲けものだ》


 エピソード岩崎が慰める。その通りだ、と倉持は続けた。


《俺たちは従来機で、同数の新型機を相手に生き残った。そいつの電探の詳細な性能も、誘導弾の電波情報も取れてる。純軍事的に考えるだけでもこれは大きな成果だろう》


 実際には本国仕様から大幅に性能を弱体化させたモンキーモデルの可能性が高いが、それでも推測くらいは立てられる。戦闘詳報をきちんと作成し、今後の対策に役立てるべきであった。


《こっちもいい加減欲しいですね、新型機》


 キャスターが本土で試験飛行中である次世代機...噂によれば量産はあと5年以内に可能になるらしい...に思いを馳せる。機体が小ぶりになるものの、搭載能力と運動性能はさらに向上、加えて第4世代機を遥かに凌駕するステルス性とAEWに近い機能が付与されると話題の代物だ。


《ま、それまで生きられるように精々頑張ろうや...なんて言ってるうちに、我らが愛しのホームが見えてきたぞ》


 上海からおよそ200海里。東シナ海に浮かぶ彼らの根城である鋼鉄の城塞が水平線の先から姿を現した。かつての大戦において海軍の切り札として活躍し、戦争を終わらせるための一つの鍵となった生ける伝説。艦齢40年も手前の今も尚、抑止力として世界にその名を轟かす武勲艦。


 その名を大鳳。最新鋭の駆逐艦と原子力潜水艦を侍らせる彼女は、今日も海鷲を送り届け、海の女王としての地位を確固としたものとしている。











******以下あとがき******

ここまで読んでいただき誠にありがとうございます。

拙作、BIG Sevenの外伝となる短編集を始めました。不定期更新ですが、本編の歴史を探るヒントとして読んでいただければと思います。

本編次回はちゃんと4月1日に更新致しますのでご安心ください(白目)

格闘戦に至ったのは、オリエント隊がMRAAMを撃ち尽くしていたためECMを思いっきり作動させたまま距離を一気に詰め、結果としてF-15側が視認外戦闘が困難になったというのが理由ですね。オリエント隊のレーダーの方が優秀であったが故に可能であった芸当と言えるでしょう。

F-15は史実通りのものとなっています。正確にはF-15A相当ですね。六式戦と大鳳については、大まかなスペックを本編の設定資料の方で公開します。

ご意見、ご感想お待ちしております。

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