第22話

 ようやく剣士を倒せたと思ったが、極大魔法の詠唱を阻止できなかった。


 闘技場全体に魔法陣が展開される。


「テリー! どれだけ貴方が強くても、今度の極大魔法は受け止められないわ!」


 グレイスの言う通り、今回ばかりは厳しい。


「この極大魔法は[ブレイカーズ]の全力の攻撃よ! これを耐えられると私達に勝ち目はないわ!」


「潔く負けを認めるわ……耐えれたらの話だけどね」


 グレイスはかなり強気だった。それだけの自信があるのだろう。


 [無形発勁]ならどうにかできるかもしれないが、身体の負荷が大き過ぎるし[十刹十唱]は威力が出過ぎる。


 運営が魔法障壁を貼ったとしても周りの人に被害が出てしまう。


 闘技場で戦っている以上、力を抑えなければならない。


 仕方ない…………。


「グレイス……降参だ。俺の負けだ」


 グレイスと観客は唖然としている。


「その極大魔法を周りに被害を出さずに耐える技は俺にはない」


 グレイスは涙を流して言う。


「何故なの? こんな終わりなんて望んでなんかないわ!」


「周りの人なんて気にせずに耐えれる技を使えばいいじゃない!」


 俺は周りの人達を傷つけてまで勝ちたいとは思えない。


 元々、爺さんに恩返しをしたくて、このコロシアム闘技場に参加したんだ。


 優勝して賞金を貰って、爺さんに喜んで欲しかったし、俺は「爺さんのおかげでこれだけ強くなれたよ」言いたいだけなんだ。


「君には悪いが、俺にはできない」


 闘技場全体が静かになった。


 すると、観客席から一人の男性が闘技場の真ん中に降り立った。


「そんな決勝戦は観たくねぇ……俺達観客は全力の戦いを観たいだけだ」


 男性は黒いローブで、いかにも強そうな杖を持っている。


「降参なんてしなくていい! 俺がお前の技を耐えれる魔法障壁を貼ってやる」


 俺は少し疑っている。


「本当に耐えられるんだろうな? 被害が出たら、あんたに責任を取ってもらうぞ?」


 男性は高笑いしながら言った。


「はっははは! いいだろうよ、そのかわり全力を出すんだ」


「俺の魔法障壁を割った奴は一人しか知らん! だから気にするな!」


 いや、割れたことあるのかよ!

 本当に大丈夫なのか?


「まだ俺を疑っているのか? お前は田舎者だから知らないかもしれないが、昔に[グランダル]という冒険者のパーティの魔法使いだ」


 グレイスと観客は驚いている。


「あの伝説のパーティ、[グランダル]のミランダなのか!?」


「なんでこんなところにいるんだ!?」


「あんた言う通り、俺は田舎者だから知らないがそれは凄いのか?」


 グレイスはミランダに駆け寄る。


「おじ様!? な…何故、おじ様がここに!?」


「グレイス、大きくなったな! お前がコロシアム闘技場に出ると聞いたから来たぞ!」


 俺も駆け寄ってグレイスに問う。


「なんだ!? 知り合いだったのか?」


 グレイスはミランダと会えて嬉しいのか、笑顔で答えた。


「私に魔法を教えてくれた師匠よ! もう何年も会ってなかったから、すぐには気づかなかったけど!」


 グレイスに師匠がいたのか。

 それにしてもかなり嬉しそうな顔だ。


「そんなことより、試合の途中に邪魔をしてすまなかったな! とにかく、話は試合が終わってからだ」


 ミランダは少しの詠唱で、運営の魔法障壁の百倍以上の強度の魔法障壁を貼った。


「よし、魔法障壁は貼った! これで全力で戦っても大丈夫だぞ!」


 魔法障壁を触って確認した。


 伝説と言われるだけあって、かなりの強度だった。


「わかった……降参は取り消しだ! 全力で行くぞ!」


 ミランダは観客席に戻り、試合が再開した。


 グレイスは極大魔法を発動させた。


「私達の[ブレイカーズ]は誰にも負けはない! 極大魔法・[月光聖天砲]」


 グレイスとアルスの杖を振り下ろした瞬間、闘技場全体を包む魔法陣からレーザーが俺に向かってくる。


 まるで、月の光と太陽の光を混ぜたような輝きをする。


 こうなったら、俺もとっておきの技を見せようじゃないか!

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