俺、ハイエルフになりました 〜異世界で夢の妹パラダイス〜

りろ

第1話俺、異世界に飛ばされる

 俺、門馬優斗はごく普通の15歳。厨二を少し乗り越えた中学3年生。フリーライターの母ちゃんと二人暮らしの母子家庭だがありがたい事に金銭的にそう不自由はしていない。アニメとラノベとソシャゲに夢中なごく普通の生活を送っている。

 あとは可愛い妹さえいればこの人生サイコーだと思っている。可愛い妹 さ え いれば… 妹…ほ じ  い ‼︎


 母ちゃんは外国人でルックスがかなり整っていてそれに歳より若く見えるから引く手数多だし、いつでも再婚して妹作ってくんないかなーっと思ってるんだけどそれを言う度に殴り合いのケンカになる。まだいなくなった親父が好きなのかな?

 そんな日々だったのだが。




 えーと?俺今日は何してた?


 朝、母ちゃんの弁当を作って着替えを用意して起こして仕事に送り出し、それから学校へ向かい授業を普通に受けて無課金でソシャゲに耽り、夕食のメニューを組み立てながら帰りに何買って行こうか考えてた。いつもの俺、門馬優斗の日常。今日も変わりなく過ごしていた。はずだった。


そしたらーいきなり周りの景色がぐんにゃりー曲がった。何かに引っ張られる感覚と不快感。


気づけば森の中。鬱蒼とした森の中。あれ?なんだこれ?なんか知ってる森と違う。全く見た事ない植生の木々。俺昔から木とか好きだったからわかるよ。これ日本の木じゃない。え?じゃどこ?

スマホで位置確認…出来ない。繋がんない。ググれない。ソシャゲも出来ない‼︎ 電波も繋がんないとこかよ?


 周りを見渡す。獣道らしき道すら見当たらない。すると ガサガサッと音がする。慎重に音のする方向に近寄る。そこには…幼女がいた。おお!妹にしたい! ん?

 耳が尖ってる。綺麗な銀色の髪。うーむ日本人じゃないな。てか人間じゃないんじゃね? え?え?どういう事⁈

 ガサガサッ 幼女の前に熊みたいにバカでかい猪が現れる‼︎ なんだと⁈

  うわ、ヤバい!あの子ヤバい!何とかしないと!しかし現代日本でも猟銃でもないと猪は熊に次いで危険な獣だ。何も手が浮かばないままあわあわしている俺。


 次の瞬間。幼女がニヤリと笑って両手にまるでク○リンの気円斬のようなものを作る。それを猪に向かって投げつける‼︎ 瞬く間に猪の首が吹っ飛んだ‼︎ あらやだスプラッタ!

 どんなZ戦士だよ⁈てか現実か⁈これ⁈

 唖然としてると今度は幼女はこちらに振り向き気円斬的なアレを発生させた。ニヤリと笑う。


「人間? なぜこのエルフの森にいる⁈」


 エルフ⁈ エルフって言った⁈


「待って!あ、怪しいものじゃない!」

「この森に人間がいる事自体怪しい」


え⁈ 言葉は通じるの⁈ いやいやヤバい!

幼女は全く臆する事なく先程の猪を殺った目でこちらを見据える。

ダメだ飛んで来る!死ぬ!ごめんな母ちゃん。俺幼女に殺されるとは思わんかったよ。


「待ちなさいニナ!」


突然、声と共に周りの木々から弓矢を構えた耳の尖った兵士がズラリと現れる。おいおい気配なんかなかったぞ。何だこの集団。

 その奥から1人の婆さんが歩み寄って来る。髪が銀色でこの人も耳が尖っている。婆さんを見てニナと呼ばれた幼女は気円斬を降ろして消滅させる。

 婆さんが俺の側まで近寄る。


「ふむ。召喚術の残り香がする。こやつに間違いない。しかしどういう事だ?人間ではないか…」


召喚術?俺、召喚されたの?


「わしらの世界樹様が召喚なさったのは高位のエルフ…ハイエルフのはずなんじゃがのう。儀式を滞りなく行える能力を持ったハイエルフを呼んだはずなのだが」

「世界樹様がお間違えになられたのでは…?」

「ご自分のお命に関わる召喚をお間違えになられる筈がなかろう。」


ハイエルフ…そうなのか…?


 尖った耳、弓を操り森に住む種族。

あらゆる物語でお馴染み中のお馴染み。この人達、エルフだ。今エルフが現実に目の前にいる。

ここはエルフのいる世界。


 しかしなんで人間の俺が違う世界から呼ばれるんだよ?

間違い? 召喚事故か何かか⁈

てか戻れるのか?

どうすんだよ母ちゃんの飯⁈


 茫然と立ち尽くす俺の横でニナはナイフでサクサク猪を解体している。すごい手際だ。あっという間に肉の部位と臓物、皮に別れた。心臓からなんか鈍い色の石が取り出される。

 呪文を唱えると突然水の玉が宙に浮かぶ。アレだよく宇宙船の無重力実験とかで見るアレ。水の玉に石を突っ込んで洗う。

すると宝石のように煌めく石が現れる。


「何、それ?」

「?魔石を知らない?そんな人間いるの?」


 あれだ。定番のヤツだ。魔石が宿るケモノだから魔物。

あの猪魔物だったのか。

魔物のいる世界。

そしてエルフがいる世界。

て事はアレか?例のアレか?

【異世界転移】ってやつか?


 婆さんが首を傾げる。


「おかしいのう、人間が呼ばれるとは…世界樹様に詳しく聞いてみんと解らんのう。」


どうやら本当に間違いで召喚されたらしい。

自分たちのミスであると婆さん…長老に謝られた。

取り敢えずエルフの里で保護してくれるという。

間違いって何だよ⁉︎

家に帰してくれよ!

さっさと家に帰らないと母ちゃんにどやされる!


「わしらはエルフの里の者じゃ。わしは長老をやっておる。お主なんと呼べばいいかの?」

「ユート。門馬優斗です。」

「モンマ…モンマ…うーんどこかで聞いた気が…」



「あ、いやいや、気のせいじゃろ。一先ずお前さんを保護するから一緒においで。」


 少々気にはなったが俺もエルフの集団と共に森の中を歩き始める。

 遊歩道などないので正直めっちゃ歩きにくいはずなのに不思議と辛くない。むしろ身体が嬉々として動いている。気持ちもなんとなく上向きになって来る。

なんでだ?

あ、遠くになんか光に包まれた集落が見える。


「綺麗な光だなぁ。あれがエルフの里?」


一斉に驚かれる。なんか変な事言った?


「見えるのかユート?まだ結界は解いとらんに⁈」


結界?へーあの綺麗に光ってるのは結界なのか。

ウキウキした気分のまま里の中に入る。

見張りが一瞬俺を見て弓を向けるが先頭のエルフが手を挙げるとすぐに光の明度が下がり門が開いた。


「お帰りなさいませ。その人間は?」

「わしの客人じゃ。まあ騒がんようにな。」


そっけなく呟く長老。

人間は滅多に来ないらしい。歓迎はされてないようだ。

しかし被害者はこちらだ。それなりの権利は主張しよう。


集落は木々のあちこちに木造の小屋が作り置かれている。少ない平地に農場と鳥・羊等家畜が遊んでいる。牧歌的だ。とても現代文明など期待出来ない。ああ、異世界…出来れば風呂とトイレは現代文明がいいなあ…俺、生きてけるかなぁ…


 集落の中央に巨大な樹がそびえる。光が瞬く。なんか喜んでるようだ。暖かい光。


「あれがお主をここに呼んだ世界樹様じゃ。」


その麓にあるこじんまりとした屋敷に入る。長老の住まいらしい。

顔役らしい何人かのエルフが残り、お茶と茶菓子が出て来る。喉が渇いたので遠慮なく頂く。これがエルフの飲食物か。うん美味しい。大麦茶? 茶菓子はヨモギらしき草と小麦粉っぽい粉とメイプルシロップっぽい甘味を混ぜて焼いた物? あんまり俺たちの世界と変わんないな。


「で。なんで俺呼ばれたの?」


言いづらそうだが聞いておかないとうやむやにされるかもしれない。それこそ人知れず殺されて処分で終わりもありえる。エルフも魔獣も存在する異世界なんだから。

 長老がとうとうと語り始めた。


「仕方ない、説明しよう。まあわしらエルフはこの大樹…世界樹様を見守りながら悠久の時を生きている種族じゃ。」


まあエルフっぽい。そらそうよエルフだもん。


「我々には定期的に世界樹の祭壇に高位のエルフが祈りを捧げる儀式が必要なのだが、今たまたまこの里に儀式が執り行える高位のエルフ…ハイエルフが不在でな。どいつもこいつも我儘言って世界中を飛び回っておる。全く腹の立つ…いやいや。でな、世界樹様とその使いであるハイエルフは根本で繋がっておってな。世界樹様の力で強制的に転移させる事が出来るのじゃ。」


それが何故か人間の俺を呼んだのね。完全に事故案件です。


「ランダムにハイエルフが呼び戻されるはずが…すまなんだのうユート、関係のないお主を巻き込んで。どうにかしてお主を元の居場所に戻す方法を考えねばなぁ…」


え?


「方法…ないんですか?」

「ない。こんな事態初めてじゃもん」


じゃもんって…ええええ⁈何でそんな軽いの?

お茶目に言ってもダメだよ婆さん!

一気に絶望の淵に突き落とされた!


ズゴゴゴ その時突然地響きと轟音が響く。


「⁈」

「長老、世界樹様が‼︎」


 慌てて皆表に出る。振り向くと巨大な世界樹が光に包まれ震えている。只事じゃない様子だ。エルフの住人がそこらかしこで悲鳴を上げて逃げ惑う。


「長老、これは…」

「いかん、世界樹様が儀式はまだかと催促しとる。まだハイエルフがおらんというのに。早過ぎる!」


戸惑う長老達だが解決策が浮かばないようだ。


ー来てー


?誰?

ーうふふ…ふふ…待ってたわ…ー

俺に言ってるの?


 振り向くと光る樹の根元の祠の向こうから声がする。

思わず近づいて手を伸ばす俺。


「いかんユート、人間が近寄ってはいかん!結界に弾かれて人間如きでは身体が吹き飛ぶぞ‼︎」


え?しかしもう遅い。祠に触れたその瞬間。

俺の身体も光り輝いた。吹き飛ぶのかな俺。


あーなんかすごく気持ちいい。


ークスクス。ほうーらやっぱり。キミでビンゴ。

あ、でも人間の身体じゃ都合悪いからちょっと戻って貰うねー。ー


何に戻るって…?


ーさあ儀式よ。ただ祈るだけでいいのよ。この世界をお願いしますってー


うん。よくわからないけどこの世界をお願いします。

ついでに俺も何とかして欲しいなーなんて…


ーん。何とかなるわよ。多分。頑張って。ー


へ?

ゆっくりと光が消えて行った。


どうやら儀式は滞りなく終了した様である。

猛烈な振動も収まり、世界樹は柔らかな光に包まれている。


「ユ、ユートは…?」


 長老が祠の前まで歩み寄り光が収まるのを待つ。

そこには…

 耳の尖ったー銀の髪をなびかせたエルフの少女が立っていた。エルフ…いやオーラが違う。上位の存在。

世界樹の使い。


「」「」「ハ…ハイエルフ⁈」


驚愕するエルフ達。


「え?長老、ハイエルフがやって来たのかい?」


あれ俺、声が少し変…あーあー…え?


「「「お前ユートかああああ⁈」」」


一斉に叫ぶエルフ達。


俺がハイエルフになっていた。

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