第25話『兄妹が結婚するのは合法だ!』

 星の終焉を見届けると箱舟はこぶねと呼ばれる、

 アーティファクトの白い棺が開く。



「ここは……元の世界に戻ってこられたのか?」



 俺は右の手のひらを開く。

 そこには、ヒマワリの種と同じくらいの大きさの種があった。


 これは星の最後の瞬間に手渡されたものだ。


 つまり、俺が体験したあの異世界での出来事は虚構ではなく、

 現実だったということか。



「この種があるという事は、あの世界は……現実の世界だったということか」



 俺が目を覚ますとアリスが俺の前に駆け寄ってくる。

 木彫りではない、本物のアリスだ。


 最も会いたいと思っていた人間の顔だ。

 俺は目を覚ましたらずっと言いたいと思っていたことがある。



「ブルーノ。あなた、1ヶ月も寝ていたのよ大丈夫? 具合は悪くない?」



「ああ、大丈夫だ。全く問題ない」



 途方もない時間あの世界に居た気がする。

 途中からどれぐらいの年月が経ったのか数えるのすら忘れたくらいだ。



「ブルーノが生きてきてくれて良かった。私とっても心配したんだから」



「すまん。心配をかけたようだ。俺はお前に言わなければいけない事がある」



 無限に近い歳月を過ごして俺は理解した。人の人生は短い。

 だから思い立ったらすぐに行動に移さなければならない。


 そして、思っていることは言葉にして相手に伝えなければならない。

 俺はアリスの瞳を見つめる。



「アリス。俺と、結婚してくれ」



 アリスはとても嬉しそうに微笑んでいたが、

 少したった後に頭を抱え始めた。



「でも、私達は……確かに血はつながっていないけど、同じパパとママを持った兄妹きょうだいよ。王都の法律的には違法だわ……だから、もし私達が結ばれるとしたら王都を捨てて、パパとママとも二度と会えない覚悟をしなければならないわ」



「兄妹が結婚することは合法だ。だから王都を出る必要も無い。俺たちが失う物は一切なにもない。安心しろ」



「でも、パパとママが反対するかも」



「大丈夫、親父とオフクロは俺が説得する」



 うちの親父とオフクロのことだから細かいことは気にしないだろう。

 それに、今にして考えると、特に俺のオフクロは微妙に俺とアリスを、

 くっつけようとしている気配があった。


 むしろ親心的には応援したいというところではないだろうか。

 説得自体もすんなりいくだろう。



「兄妹が結婚しても神様は怒らないかしら?」



「神様は実の兄妹や親子でも結婚どころか子どもを作っていたりするから文句は言われないはずだ。重要なのは、アリスが結婚したいかしたくないか、それだけだ。もちろん俺はアリスが女性として好きだ」



「私も、ブルーノが男性として好きよ」



「なら、結婚しよう。人生は長いようで短い。善は急げだ。もとより、国も、親も、法律も、神も、信仰すらも背くつもりで王都をでてきたんだ。いまさら怖いものなどあるはずがない」



「でも……結婚したとしても、法律上の問題があるかもしれないわ……」



「法律上の問題? それは例えば、何だ」



「た……例えばの話だけど、兄妹同士でキスをすることは合法かしら?」



「完全に合法だ。キスをすることは全く問題がない。地域によるが、男女を問わずに挨拶の代わりにキスをかわす国もあるほどだ。俺のオフクロも、幼いころはアリスにキスをしていただろ。あれは違法な行為だったと思うか? もし、仮にうっかりキスをする時に舌が絡んだとしても、まったく罪にはあたらない。あくまでも『おはよう』や『おやすみなさい』のようなの一環だ」



「確かに……挨拶は、合法だわね。……そうね。キスをすることはたとえ、兄妹であっても完全な合法だったのね。確かに挨拶をしないというのは失礼にあたるわね」



 俺は一応の注釈を加える。



「そうだ。兄妹同士でキスをするという行為はまったく問題の無い合法的な行為だ。ただし、知らない人間とをすると風邪が移ったりして危険だ。だからアリスがをする相手は俺だけにするべきだろう。合法であることも重要だが、健康面の問題も軽視はできない」



「そうね。私は……朝起きた時と、寝る前、そしてベッドに一緒に寝るときには必ずブルーノにをするわ。外で他の異性とをしたりすることはないから安心してっ!」



「そうだな。は重要だ、だがをする相手を見極めるのはもっと大事だ。俺にはいついかなるときでもしてくれて構わない」



「……例えばの話よ、あくまでも例えばの話なのだけど……兄妹が一緒のベッドで寝る、という行為は法律的には問題がないのかしら?」



 俺は自信を持って答える。



「ああ、全く問題がない。これも合法だ。俺もアリスも幼いころは一緒の布団で寝ていたじゃないか。それに、王都で過ごす3人以上の兄妹が居る家庭はほとんどが同じ部屋で寝ている。同じ布団のなかで寝ている兄妹だって多いだろう。むしろそれを罪というのであれば、法律の方が間違っている。誤った法律は正されねばならない」



「……ブルーノ、あなたたった1ヶ月あわなかった間に、とっても賢くなったわね。そうね。確かに同じベッドで兄妹がすやすやと一緒に寝ているのは微笑ましい行為のはずだは。罰せられるとしたら法律の方が間違っていることになるわ」



「そうだ。法律といっても所詮は人の作った物だ。世の中の常識も一度冷静に精査する必要がある。盲信するのではなく、ときには冷徹にその法律が正しいのかを王都の民である俺たちが常にチェックしていなければならない。それが、俺たち王都の民の義務だ。誤った法律によって人々が不幸になることは望ましいことではない」



「凄いわ。ブルーノの発言は論理的で、とっても説得力がある」



(いやいや、我はいろいろとブルーノが言っている事がおかしいと思うのじゃが。それとも我も知らぬうちに人の定めた法律とやらに知らぬうちに縛られていたということかの? 危ない危ない、危うくブルーノに洗脳されるところじゃった)



「そ……っそれならば、ブルーノ。もしもの話よ? もし、兄妹が一緒に、お風呂に入るという行為は法律的に問題がない行為かしら? もちろん、一糸まとわぬ産まれたままの全裸の姿で……これでも合法かしら?」



「なるほど。興味深い質問だ。そもそもお風呂とは一糸まとわず入るのが正道であり、衣服を着用した状態でお風呂に入ることは衛生面、マナーの面で好ましくない行為だ。もちろん、違法とまではいかないが」



「そうね……。確かにお風呂に入る時に服を着ていたらおかしいわね」



「そうだ。お風呂に入るという事は、つまりは全裸になるということ。更に、最初の質問だが兄妹が一緒に風呂に入ることは法律的に全く問題がない。幼い頃は親父やオフクロも含めて家族全員全裸で水浴びをしていただろ。あれは犯罪だと思うか?」



「いえ……確かにあれは犯罪ではないわ。むしろ楽しい思い出だわ。王都の川で兄妹たちが水浴びや、魚を捕まえる姿はとっても微笑ましい光景であり、なんら問題がないわね。一緒にお風呂が入るのが後ろめたい行為だというのであれば、むしろそう思う人の心がえっちなのだわ。えっちなのはよくないわね」



「そうだ、えっちなのはよくない。兄妹が一緒に風呂に入るのは健全な行為であり一切のえっちな要素はない。兄妹がお風呂に一緒に入ることによって、必要となる薪の量も減らすことができ、更には水の量も少なくて済む。節約にも貢献できる合理的な行為だ」



「さすがね……ブルーノ。あなたは、異世界で筋力だけでなく知性まで鍛えてきたのね。確かに。川で水浴びをしている子が犯罪者なら、大半の人間は犯罪者になるわ。ということは、つまりは一緒にお風呂に入る行為は合法ということなのね。それにおまけに、家計にも優しいのであれば一緒に入らないという手はないわね……」



「ああ、そういうことだ。お風呂に一緒に入ることは家計にも優しく、そしてもちろん法律的にも問題がない」



 魔王はいろいろと脳内でツッコミながらも、

 空気を読んで黙って目をつむりながら聞き耳を立てるのであった。

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