第6話『闇夜の港町を襲う暗殺者』

 港町の宿屋。港町を楽しく観光し、夜も観光を楽しんだ。


 アリスは少しお酒を飲んだせいかほろ酔い気分で眠りについた。

 俺はアリスの寝息を確認した後に、宿の部屋を抜け出した。

 


「日中からチラチラと物陰から覗いている気配を感じた。教会から派遣された暗殺者か。いや、まだ結論を出すのは早計だな。俺たちを付けてきた奴らの真意を確認しなければいけない」


 最初は観光客を狙いうちにした盗賊かとも思った。

 だがその視線はあまりにも執拗だった。


 観光客狙いの窃盗団がずっと俺たちだけを狙うなんてあり得ない。

 狙いが俺の命だけならともかくアリスも対象にはいっているなら別だ。


 夜の港町も一部の飲食店などは賑わっているが、

 日中と比べれば静かである。


 日中に感じていた気配をより濃く感じることができた。

 慎重かつ執拗な動き、明らかにプロのそれだ。



「人目の付くところでは目立った行動は取らないということか」


 

 相手から出てくるのを待っていたが、

 気配のみを感じるだけで一向に表に出てくる様子はない。


 だから俺は方針を変えた。

 

 俺について知られている情報は木こりという情報くらいだろう。

 つまり、木こりが取りそうな行動を取れば相手を油断させられる。

 期待する通りの行動を取ればいいのだ。


 相手に殺すのなら今しかないと思わせるように仕向ける。


 俺は、王都を出たばかりで新しい港町を楽しんでいる、

 観光客を演じながら夜の道を歩く。


 目的地は歓楽街にある、娼館である。


 力仕事の男が港町に夜に一人で繰り出すとしたらココしか無い。

 違和感を悟られることもないだろう。

 

 娼館に向かう途中にある通路には狭い裏路地があった。

 きっとそこならば俺を狩る千載一遇のチャンスだと思ってくれるだろう。



 奴らの目的は何か分からない。

 だからこそ探らなければいけないその意図を。

 その後の対応については、彼らの回答次第だ。


 そうなれば、俺が離れるタイミングを狙い始める。

 そんな相手に、不在になるタイミングを見せた。


 俺は港町の娼館に向かう際の通り道のなかで、

 最も狭く、薄暗い裏路地を歩く。


 道幅はせまく、人一人がすれ違うのがやっとの、

 狭い道である。



 俺が娼館に向かう裏路地に入ると、

 前後から人影が姿をあらわす。


 前方に3人、後方に3人。


 俺を付けていた影が姿をあらわす。



「キヒッ……マヌケな木こりめ。神託の騎士、勇者の顔に泥を塗ったお前が大陸へ逃げおおせると思ったか。お前は、明日にはこの海の魚たちの餌になる運命だ」



「……お前たちは一体何者だ?」



 カマをかける。6対一の圧倒的に向こうに有利な今の状態なら、

 口も滑らせやすく成るのではないかと考えたからだ。



「キヒッ……俺たちは、教会からの勅命を受けている。てめぇら、ブルーノとアリスをブチ殺しにきた暗殺者だ。教会からは女の方は俺たちが思う存分楽しんでから殺しても良いって約束になっている。だから、ここでマヌケなてめぇをブチ殺したら、思う存分、俺たちであの女を堪能させてもらうぜ。ッヒヒヒ」


 

 腕の一本を斬り落とすだけで見逃してやるという選択肢もあったのだが、

 今のこの男の自白を聞いてその選択肢は消えた。

 人を殺すことをナリワイとする者達にかける情けなどはない。



「俺を殺す理由は理解するがアリスの命を狙う理由は何だ?」



「理由? んなもん知らねぇよ。俺たちはてめぇをここで殺した後に女を犯して殺して報酬をもらうだけだ。木こりと女一人を殺すだけの仕事で信じられねぇくらいに報酬をくれるってぇんだから、教会ってなぁ、随分と儲かっているんだなぁ。キーヒッヒッ」



「主よ。十戒の第五戒殺人の罪をゆるたまえ」



「はあ? んだそれは、てめぇ、恐怖で頭でもおかしくなっちまったのか」



「いやね。俺の家は食前に主に祈りを捧げるほどの敬虔けいけんな信徒だったんだよ」



「気でも狂ったか」



「来いよ」



「斧もない無手でプロの暗殺者6人相手に勝てると思ったか。勇者とかいうクソガキに決闘で勝ったくらいで自惚うぬぼれたな、それがお前の敗因だ」



 刀身を黒塗りされたダガーを構え襲い掛かる。

 俺はその軌道を見切りかわす。


 そして、襲いかかってきた男を丸太のように太い腕で拘束。

 ゆっくりと服の下に隠した革の鞘からマチェットを抜き、

 6人の暗殺者のリーダーの首を切り裂く。



「木こりは無手ではない。ヤブを薙ぐためのマチェットを携帯している」



 切り落とされた首から噴水のように鮮血が溢れ出る。

 誰の目にも明らかな確実な死だ。

 

 俺は黒塗りのダガーを取り上げたあとに、

 首のない男の肉体を後方の3人の暗殺者に向かって放り投げる。


 70キロの肉の塊が3人の男に衝突する。

 致命傷は与えられないが怯ませることには成功した。


 俺の前方から2人の暗殺者がナイフを構え襲いかかる。


 ここは路地裏の一方通行。


 故に、ヤツラも本来の暗殺者としての、

 曲芸じみた立体的な動きが封じられている。

 

 前に直進することしかできない。


 俺は先ほどの男が携帯していた黒塗りのダガーを、

 目の前から襲いかかる男の一人に投げつける。


 空中で何回か回転した後に頭蓋を砕き脳天に突き刺さる。

 即死である。


 俺の首元にナイフを突き立てようとした男の手首を掴み、捻りを加え、

 槌を振るうように顔面から地面に叩き付ける。

 

 俺は彼らと違って、人を殺すことに関しては初心者だ。

 だから、確実に死んでいるかは分からないが、


 明らかにありえない方向に首が曲がっているので、

 おそらく死んでいるのだろう。



 俺は首があらぬ方向を向いた肉塊を抱えながら、

 俺の後方にいる男たちに向かって駆け出す。


 何本か投擲用ダガーが飛来してきたが、

 すべて肉の盾に阻まれて俺に傷を与えることはできない。



 俺は肉の盾を抱えたまま、立ちふさがる3人の男にブチかましをかます。

 3人なら力負けしないと受けたようだが、甘い。


 多少鍛えた程度の人間が3人束になったところで、

 野生の熊の突進を妨げられるはずはない。

 

 俺の歩みを止めるということはそういうことだ。

 3人の男は、首のよじれた肉塊と地面に挟まれる形で倒れた。


 俺は倒れた三人のうちの二人の顔を、靴底で踏み砕いていく。

 地面が土だったらまだ助かったかもしれないが、港町は石畳である。


 まるでくるみ割り人形に砕かれるクルミのように、

 靴底と石畳に挟まれる形で頭部が砕かれ、赤い花が咲いた。



 俺は残った最後の一人に向かって熱を込めずに淡々と告げる。



「そういうわけだ。お前が知っている事を洗いざらい話せ。俺は確実にお前を殺す。だが、お前が知っていることを包み隠さずに全て話すなら極力苦しめずに殺すことを約束しよう。主に誓っても良い」



 俺は残った一人の男に対してを行い、

 彼が知っている情報を洗いざらい話させた上で、

 約束どおり極力苦痛のない死をもたらした。

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